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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
決戦編
212/232

212話 鯖雲に散る


 腕利きの竜騎兵を相手に大立ち回りを演じること数分。

 ついに、竜騎兵の残存戦力は残り三騎となった。

 残ったのは……竜騎兵団団長のコルテスと側仕えっぽい二名だ。

 他は全て騎獣のワイバーンごと真っ二つか、全身複雑骨折の状態でハエのように叩き落された。

 空中で止めを刺せなかった個体も、満身創痍で地上に落下しては、成すすべなく地上部隊から袋叩きにされるだろう。

「さて……」

「っ……」

 口を開いた俺に対し三人は顔を強張らせて武器を構えたが、俺は彼らから視線を外して地上の方を一瞥した。

 戦場の真ん中辺りでは、ちょうどフィリップがドラゴンゴーレムに吶喊し、分厚い魔法障壁をレイピアで貫きドラゴンゴーレム本体を衝撃で仰け反らせているところだった。

 レイアも周囲の敵兵を始末しつつドラゴンゴーレムに聖魔法を撃ち込んで援護しており、あの調子なら倒し切るのも時間の問題だろう。

 最早、俺が援護に行くまでも無い。

「どうやら、向こうに俺の仕事は無いらしい。これなら、のんびりとお前らをぶち殺す余裕があるな」

「…………」

 皮肉っぽく言い放つ俺に対し、コルテスたちは無反応だ。

 俺が視線を外しているにもかかわらず、彼らは攻撃を仕掛けるどころか微動だにしない。

 もちろん、俺も完全に意を抜いているわけではなく、向こうが襲ってくればカウンターで両断できる態勢だ。

 ここまでの戦闘で、彼らもそれを重々承知しているのだろう。

「一応聞くが……投降する気は?」

「……私たちは公国の騎士だ。命を顧みず大公陛下のために戦うことが責務である。貴殿のような立ちはだかる者を下し、王国軍に空から致命的な一撃を加える。その任務は変わらない」

「責務だの任務だの……また面倒な……」

 コルテスだからというわけでもないが、彼らを捕縛できるのならそのメリットは結構大きい。

 竜騎兵の彼らを捕えておくのは面倒だが、騎獣のワイバーンが生きた状態で奪えるのであれば、金額的にはなかなかの収穫だろう。

 それに、彼らが国から任され携行している兵器も無傷で没収できれば、国家としては微々たるものだが個人単位ならそれなりの金額になる。

 ぶっちゃけ、伍長レベルのロデリックを捕まえるよりスコアは上だ。

 しかし、彼らは死んでも捕まる気は無いようだ。

 最後まで戦うと言っている以上、仕方のないことだが……。

「貴公に恨みは無い……いや、無かったが、今は部下の仇だ。こうなってしまった以上、刺し違えてでも……」

「だぁ!! もう! 面倒くせぇ野郎だ、本当に!」

 俺も前世の年齢を足せば三十代。

 全ての殺しに明確な善悪の基準を求める年でもないし、歪んだ力の行使が往々にしてあることも理解している。

 だが、こうも『望まぬ戦いを強いられる運命』的な感じを出されると、さすがに気持ちが萎えてくる。

 これ以上、SAN値が削られる前に仕留めよう。

 俺が飛行魔法で飛び出すと、コルテスたち竜騎兵も武器を構えつつ魔術の詠唱を始めた。



「聖騎士よ、覚悟!」

 コルテスの手元で制御される魔力が膨れ上がると同時に、彼の横に居た若い竜騎兵の一人が飛び出してきた。

 どうやら、先制して俺の足止めをする気らしい。

 彼の手元に収束した魔力が弾け、俺の目の前で“爆破(エクスプロージョン)”の魔術が発動した。

 射出系の魔術と違い軌道が目視できず爆発を起こす術式なので、魔力反応などを感じ取っても回避しにくい魔術だ。

 レイアやヘッケラーのような高度な技術を持つ魔術師であれば、魔力を制御する場所やタイミングを微妙にずらすことで攪乱しつつ攻撃を到達させることも可能だろう。

 しかし、竜騎兵の男にそこまでの魔術の力量は無かった。

 単純な構成の魔力反応を読んで敵の攻撃範囲を予測した俺は、危なげなく進路を変更し爆発範囲を逃れた。

「っ! ……とっ」

 俺が魔術を回避することは敵も読んでいたようで、爆炎の横から回り込むようにワイバーンを旋回させていた竜騎兵は続けざまに攻撃してきた。

 彼が手に持ったクロスボウの引き金を引くと、同時に三発の無属性魔力で形成された(ボルト)がこちらに迫ってくる。

 どうやらクロスボウ型の魔道具のようだ。

 もちろん、火力やスピードは然程のものではないため食らう心配は無いが、さすがにショットガン系の武器とは思わなかったため、俺は若干驚愕しながら矢を迎撃した。

「くっ……ならば、これで……」

 俺が大剣で全ての矢を防いだことで、竜騎兵の男はさらに魔道具を投入してきた。

 今度は空中に放り投げられた水晶のような物体から、俺の方へ向けて氷の礫が次々と放たれる。

 さらに、竜騎兵の男が短杖のような道具を振るうと、二股に分かれた炎の鞭が左右から俺に迫ってきた。

 高い武器を湯水のように使いやがって……。

 俺の魔力剣や魔術の基準からすると、どの武器も火力は今一つだが、一般的な水準で言えば全て高性能で高価な魔道具だ。

 それこそ、軍用兵器の中でも最高級に入る部類だろう。

 現代の武器で例えるなら、数十万ドルのミサイルと似たようなものだ。

 それだけの兵器を任せられるあたり、竜騎兵のエリート兵科ぶりがよくわかる。

「ふんっ!」

「なっ、バカな……」

 しかし、やはり理不尽な火力の前にはどうにもならない。

 俺が魔力を込めた大剣を一振りすると、氷の礫とそれを生み出している水晶は跡形もなく消え去り、炎の鞭も高密度の魔力の刃と衝突したことで半ばから掻き消された。

 そして、竜騎兵の男はさらに魔法の袋を探って武器を取り出そうとするが、それを許すつもりはない。

 俺は一気に飛行魔法の指向性を高めて前方に飛び出すと、迎撃に放たれたファイヤーブレスごとワイバーンの首を叩き斬り、返す刀で竜騎兵の胴体も両断した。

「ぁ……」

 彼は善戦した方だがここまでだ。



「並列起動――“業火(ヘルファイア)”」

「っ…………」

 俺が一人の聖騎士を仕留めた直後、横合いから数発の上級火魔術が叩き込まれた。

 魔法障壁を展開して左側の“業火(ヘルファイア)”を防ぎつつ、魔力を通した大剣を振って右から迫りくる炎を掻き消した。

 魔術を放ったのは竜騎兵団の団長コルテスだった。

 彼の方を見ると、彼の周りには魔道具と思わしき物体が無数に浮遊している。

 どうやら、俺が特攻してきた一人に対応している間に、向こうも攻勢に出る準備を整えたようだ。

 コルテスの使う魔道具は、火の弾や氷の礫を連続で放つ兵器に、風のスクリーンを張る防御装置に、自動で空中を飛んで襲い掛かってくる魔剣と多岐にわたる。

 そして、本人は上級魔術を中心に詠唱し次々と強力な攻撃を放ってきた。

 恐らく、個々の魔道具では足りない火力を彼自身の魔術で補う戦法だろう。

 彼もまた高レベルの魔術師で戦士としての高い力量を併せ持つ有能な騎士だが、完全にコスパを無視した全力投球だな。

「紅蓮よ「せぃや!」っ! ぬぅ!!」

 だが、この程度で守りに入るつもりはない。

 俺は魔法障壁を張って弾幕をやり過ごし、それでも捌ききれない氷の礫はベヒーモスローブの裾で叩き落とし、一気にコルテスに接近して斬撃を放った。

 俺の急接近に、コルテスは慌てて魔術の詠唱を中断し、盾の魔道具を自身の正面に移動させる。

 俺の大剣の刃は盾型の魔道具と激突するが、そのまま圧し切りミスリル製と思わしき魔道具の盾を両断した。

「くっ……まだだ!」

「ちっ」

 俺はそのまま大剣を切り上げて斬撃を放つが、コルテスはワイバーンのファイヤーブレスを放ちながら後退して距離を取る。

 さらに、置き土産とばかりに大量の魔道具を射撃態勢に移行させ、眼下の王国軍目がけて初級の攻撃魔術程度の火の弾を連射し始めた。

 さすがに地上に被害を出されてはかなわないので、俺は一旦コルテス本人への攻撃の手を止めて、魔力剣や“エアバースト”の魔術で魔道具を破壊する。

「ふぬぅ!」

 チャンスとばかりにコルテスは攻めてきた。

 盾状に魔法障壁を展開する魔道具を翳しながら、妖しげなオーラを纏った槍をワイバーンの突進に合わせて鋭く突き出してくる。

 見るからに呪いの武具なあたり、あれは食らいたくないな。

「おぅらぁ!」

 俺は大剣を捻るように薙ぎ払ってコルテスの槍を破壊し、その勢いのまま四肢に魔力を行き渡らせて蹴りを放った。

 強化魔法の重さが乗り魔力を込められたキックが障壁の盾の表面に炸裂すると、衝撃を吸収しきれなかった障壁は弾けるように砕けて消え去った。

「ガァァアアァァァ!!」

 至近距離まで肉薄していたため、コルテスのワイバーンは玉砕覚悟の特攻とばかりに俺を噛みついてくる。

 さすがは竜騎兵団団長の騎獣。

 勇猛果敢で状況判断も素早く、あの強靭な顎の筋肉でかみ砕かれては人体など簡単に粉砕されてしまうだろう。

 ワイバーンの噛みつき攻撃は阿吽の呼吸でコルテスをフォローし、俺にカウンターの一撃を浴びせてくる。

 しかし、その鋭い牙が俺を捉えることは無かった。

 もう一段階、俺は強化魔法のギアを上げて全身に覚醒魔力を行き渡らせる。

 バリバリと弾ける紫電がベヒーモスローブ越しに俺の四肢や背中を覆う。

 最速で致命的な攻撃を叩き込む太刀筋を頭の中でトレースすると、一瞬で最適な立ち回りが完成した。

 人間の身体能力の限界を思えばあまり合理的でない、少なくとも前世の俺では絶対に無理な動きだが、研ぎ澄まされた魔力が俺の意識に呼応するように疑問を一瞬で払拭する。

「しっ」

「なっ……!?」

 俺は空中で後方に仰け反るようにしてコルテスのワイバーンの顎へ回し蹴りを叩き込み、騎獣を衝撃でスタンさせたところで大剣を平突きで前方に突き出す。

 一瞬でコルテスとワイバーンの視界から逃れた大剣は、最速の軌道で俺の腕力が乗る位置に保持され、真・ミスリルの刀身が敵の肉を穿つ鈍い抵抗を柄越しに伝えてきた。



「ぐぶっ……」

 ついに、俺の剣はコルテスを捉えた。

 ワイバーンの首を貫通した幅広の刀身は、完全にコルテスのアーマーを貫通し彼の腹部から背中を貫いている。

 頸動脈を絶たれたワイバーンも内臓と背骨を破壊されたコルテスも確実に致命傷だ。

 しかし、コルテスは吐血しながらも俺の大剣を両手で掴んできた。

 兜越しに凄まじい意志の籠った眼が俺を睨みつける。

「――“氷結(フリーズ)”」

 コルテスは大剣が刺さった自分の腹部に水魔術をかけた。

 一瞬、応急的な止血のため凍らせたのかと思いきや、魔術によって形作られた氷は俺の大剣の刀身の広い範囲に及ぶ。

 コルテスは俺の剣ごと自分の体を凍らせたのだ

「ぐぅ……がまうな! 私ごとやれぇぇ……!!」

「っ……」

 その時、先ほどまで姿を見せなかったもう一人の竜騎兵が、突如近くの空間から姿を現した。

 どうやら、隠形のローブの上位版のような魔道具を使い潜伏していたようだ。

 しかし、俺は大剣を体の正面で凍らされ固定されているため、振り向いてそのまま大剣を振るうことはできず、左腰のサーベルも右手で抜きにくい体勢だ。

 そんなことを考えている間に、最後の竜騎兵は旋回して槍を構え、俺を後ろから突き刺そうと迫ってくる。

 迷っている暇はない。

 俺は右腰のホルスターからSIG SAUER P226を抜くと、振り向きざまに伏兵のワイバーンの目に狙いを付け、素早く引き金を引いた。

「ギョワッ!!」

「っ!」

 さすがに両目を撃ち抜かれては、厳しく調教されたワイバーンといえども混乱に陥ってしまうようだ。

 搭乗者の制御を受け付けなくなったワイバーンは、翼と前足を激しくばたつかせながら姿勢を崩して落下を始める。

 しかし、残った最後の竜騎兵は、鐙を蹴って落下する騎獣から飛び出し、俺に向かってきた。

「くそぉ……聖騎士! 貴様だけは何としても倒……ごぶぅ!!」

 最後の竜騎兵は強化魔法の使い手のようだが、フィリップを見慣れている俺には大した力量に感じられない。

 俺は短剣を振りかぶって突っ込んでくる竜騎兵の腹部に蹴りを入れて、突進の勢いを相殺す。

 竜騎兵は体をくの字に折って俺の脚に引っかかった。

 俺は彼の眉間に拳銃の銃口を突きつける。

「ぁ……」

 俺がトリガーを引き絞ると、軽い炸裂音と共に金属の反響音が響いた。

 竜騎兵の男は着弾の衝撃で顔を仰け反らせ、貫通した9mm弾の衝撃で兜が弾け飛んだ。

 俺が足を引くと、絶命した竜騎兵の男は支えを失いゆっくりと地面へ落下していく。

 そして、最後に俺はコルテスに向き直った。

 彼のワイバーンは既に首からの出血多量で虫の息となっており、コルテス自身も眼光こそ鋭いがその焦点は俺に合っていない。

「…………」

「悪いな。俺の勝ちだ」

 俺はコルテスと彼のワイバーンに刺さったままの大剣を無理やり引き抜くと、コルテスの頭部にもP226から9mm弾を撃ち込んで止めを刺した。

 翼の力を失ったワイバーンはゆっくりと地上へ落下し、額に風穴が空いたコルテスも氷の欠片を撒きながら地上へ落下していく。

「終わったか」

 地上とは勝手の違う空中戦で周囲の敵の数もそれなりに多かったが、魔大陸の『死の森』でロイヤル・ワイバーンやアーク・グリフォンに続けざまに囲まれたときに比べれば然程のことではない。

 こうして、公国の竜騎兵団は俺一人の手によって壊滅した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 竜騎兵団、がんばりましたね〜。 竜騎兵団に生き残りはいませんが、見ていた公国軍の生き残り(さすがに全滅はしないと・・・しないよね?www) には、クラウスのまおまおっぷりを宣伝してもらいま…
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