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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
21/232

21話 ダンジョンアタック

 さて、世の中にはいろいろな才能を持つ人がいる。

 多くの場合、才能というものが人に認められるのは、努力の果てに開花させたときだ。

 剣術や魔法がそれにあたる。

 性分や体質によるものは、自分にも近しい人間にも、なかなか気づかれにくいのが世の常というものだ。

 レイアにはあらゆる魔術の才能があるのだろう。

 同時展開も制御も見事なものだ。

 だが、俺は彼女に魔術以上の才能を見出した。

 それは……


「はぁぁ……いったい何匹居るというのだ?」

「もう三十は倒してるんだけどな……」

「一階層でこんなに寄って来るなんて……何で……?」

「「「…………」」」

「何よ!?」

「?」

 そう。

 厄介事を引き寄せる才能だ。

 ディアスは知らないので首をかしげているが、思えばレイアと会った時は必ず戦いが起こった。

 あるときはフィリップを煽って一触即発になり、あるときは決闘騒ぎになり……あ、全部フィリップ絡みか?

 いや、トロールの大群を引き寄せてくれたことを忘れてはいないぞ。

 さすがに今回はトロールではなかったが、ゴブリンとオークがまだ二十匹ほど残っている。

 オークは豚のような顔を持つ魔物で、ゴブリンとオーガの中間ぐらいの体躯と攻撃力を持つ。

 オーガを素手でダウンさせられる俺の敵ではないが、大勢で囲まれると対処には時間がかかる。

 ダンジョンに入り口付近で、いきなり五十匹の魔物の群れに囲まれるなど、低レベルの冒険者なら瞬殺されているところだ。

「レイア、“氷弾(アイスブレット)”なら無詠唱で撃てるな?」

 俺は確認しながらサーベルを構えなおす。

 ここは狭い部屋というより通路のような場所なので大剣を振り回すことができない。

 そもそも一つ目の大部屋にすらたどり着いていないのだ。

「わかった。援護する」

「頼むぞ」

 フィリップはレイピアを構え突っ込んだ。

 ゴブリンの喉を貫くと同時に左手の籠手に装着した盾でオークの棍棒の一撃をいなす。

 間髪入れずに俺がサーベルでオークの首を切り落とした。

 盾を構えたディアスに突っ込まれ、ゴブリンたちは分断されてしまう。

 隊列とも言えない包囲網が崩れたところにレイアの“氷弾(アイスブレット)”が降り注ぐ。

 まだ向かってくる気力のあるやつもマイスナーとディアスに斬り捨てられた。

 逃走に移ったゴブリンの残党を俺が“氷弾(アイスブレット)”で穴だらけにして終わりだ。

「す、すごい腕ですね。伯爵様といいクラウス君といい……。レイアさんも宮廷魔術師並みだ……」

「だろ。こいつらは魔物との実戦でこそ本領を発揮するんだぜ。……とはいえ、対人戦でも勝てる奴は、この国じゃそうはいないがな」

 ディアスとマイスナーのやり取りを尻目に、フィリップとレイアはマイペースだ。

「ふぅ……魔石取りましょうか」

「うむ、さっさと進もう」

 俺は一人不可解な顔をしていた。

「どうしました? クラウス君」

「いえ、何でもありません。(なあ、これって誰かが糸を引いてたりすると思うか?)」

 ディアスを誤魔化しつつレイアに耳打ちする。

 だが即座に否定された。

「(トロールの大群が敗れた後にこんな低レベルの魔物を使わないでしょう)」

 それもそうか。


 魔石と武具の金属は冒険者ギルドの素材買い取りカウンターで売れる。

 オークの皮鎧は臭くて再利用は絶望的なため放置だ。

 魔法学校で買い取ってもらえる素材の種類は思ったほど多くない。

 冒険者ギルドの1.2倍で買い取ってもらえるとはいえ、ほとんどが特殊な魔物の素材と鉱物だ。

 まだ一階層の序盤だというのにあまり実入りがよくないのではないかと思ってしまう。

「この先の部屋にスライムの反応多数よ」

 レイアから受け取った松明を左手に持ったマイスナーが立ち止まった。

 ディアスも慌てて盾を構えなおし後退の姿勢をとる。

 “探査”は俺よりレイアのほうが優秀だ。

 ほとんどの魔術で俺より発動に時間がかかるためレイアは完全に後衛だ。

 ポジションから言っても“探査”はレイアに担当してもらうのが妥当だろう。

「スライムか……。くそっ、面倒だな」

 ん?

 今マイスナーがおかしなことを……。

 だが、思えば俺は今までスライムと戦ったことが無いな。

 前世のゲームでは雑魚の代名詞だったが、こちらでは意外と強敵なのか?

「クラウス、任せるわ。あなたのほうが火力高そうだから」

「ちょっと待ってくれ。俺はスライムと戦ったことが無いぞ」

 剣が通用しないのか?

「え?……まあ、そうか。地上にはほとんどいないからね」

「ダンジョンにしか生息していないのか?」

「そうじゃないけど、地下や洞窟にしかいないのよ」

 なるほど。

 で、なぜ面倒なん?

「奴には物理攻撃はあんまし効かねぇのさ」

 そういうことか。

「魔法なら簡単なのか? 何を使えばいい?」

「“火炎(フレイム)放射(スロワー)”でこんがり焼いちゃって」

 任せろ、汚物は消毒だ。


 部屋にいたのはブラックスライム、グリーンスライム、ブルースライムの三種類だ。

 サーベルを仕舞い両手から“フレイムスロワー”を放つ。

 俺の火炎放射器のイメージはかなり収束した炎だったが、あまり熱を篭らせても面倒なので魔法学校で教師が使っていた程度の規模にとどめる。

 口など生物らしい箇所がなくなったスライムの残骸からはゲル状の素材と魔石がそれぞれ採取された。

 素材の用途などをレイアに聞いてみようと思ったとき、フィリップが口を開いた。

「すまないがこのブラックスライムのゲルは私が貰い受けたい。素材の売却の分け前から引くということでよいか?」

「ブラックスライムというとゴムよね? そんなもの何に使うの?」

「事業で必要な素材なのだ。ちょうど不足していてな」

 俺がポカンとしているとレイアが説明してくれた。

「スライムからは色に応じて性質の違うゲルが取れるの。ブラックスライムからは武器の柄や防具に使われるゴムが取れるわ。あとドワーフの馬車の車輪にも使われているわね」

 そういえば王都まで乗ってきたパウルの馬車はずいぶんと快適だった。

 よくよく思い出せば現代のタイヤのように黒いゴムで覆われていたかもしれない。

「なるほどね。それで他のスライムからは何が?」

「グリーンスライムからはバネの材料になる金属のもとが、ブルースライムからはガラスのもとね」

 何と!?

 ここでスプリングのもとが来たか。

 俺の拳銃に使っているスプリングは、現代の技術からすれば不良品もいいとこだ。

 魔力に任せて、なんとか動作を維持することができるものは自作したが、耐久性への不安はあまりにも大きかった。

 これは確保しなければ。

 スプリングの性能が上がればオートマチックの開発にも踏み切れる。

「俺はグリーンスライムのゲルを所望する」

「え? あなたまでこんな素材を?」

「ああ、魔道具で試したいことがある」

 ガラスは別に要らない。

 酒を自作するときに地中から採取した二酸化ケイ素で瓶を作っていたのだ。

 もちろん陶器の瓶も作っていたが、ガラス瓶を作る時間は十分にあった。

 こちらもちょうどいい魔力量向上の訓練になった。

「変な人たち……」


 ゴブリンやオークには一階層のあらゆる場所で遭遇したが、さすがに五十匹に囲まれるという事態はもうなかった。

 やはりレイアは厄病がみ……もといトラブル体質だったようだ。

 大部屋には多少ランクが上の魔物もいたがほとんどがワイルドボアやスライム程度だった。

 ワイルドボアはアサルトウルフやデビルコヨーテよりも攻撃力が高いが、クロスボウで簡単に射殺できる程度だし、スライムも初級火魔術“火炎(フレイム)放射(スロワー)”が使えれば大した相手ではない。

 だが、やはりダンジョンというだけあってその広さは相当なものだ。

 レイア曰く潜るたびに、その姿を変えるらしい。

 もちろんパターンには限りがあり、このダンジョンはそこまでレベルが高くないので、いずれ攻略地図が販売されるくらいにはなるだろうとのことだ。

 しかし、俺たちはこのダンジョンの攻略者としては、ほぼ第一陣だ。

 構造に関しても情報がほとんどないということは、思いもよらぬ強敵と会いまみえる可能性があるということである。

 慎重に進まなければならない。

「フィリップ、今何時だ?」

「1時くらいだ」

 懐中時計は高いので貴族くらいしか持っていない。

 全部が全部手の出ない値段というわけではないが、あまりにも性能と値段が釣り合わないので一種のステータスと化している。

 使いもしないのに高価な剣を持つのと同じだ。

 実際、フィリップが持っているのもオルグレン伯爵家に伝わる彫刻入りものだ。

「そろそろ昼食にしようか」

「そうね、結界を張るわ」

 この国では昼食はそこまで重要視されていない。

 さすがに王都では貴族だけでなく一介の事務職などでも食べる人間が多いが、イェーガー領では軽くお茶を飲む程度で済ませる者が多かった。

 魔法学校の寮でも昼はかなり簡単なものしか出されない。

 だが、遠出をする冒険者などは、こまめにエネルギーを補給する。

 食える内に食っとくのが習慣なのだ。

 俺も今日はコルボーの屋台で買った手羽の素揚げとミゲールの店のドーナツ持ってきていた。

 すでに生クリームやジャムを入れたドーナツも出回っている。

 俺のアイデアをちゃんと再現してくれるあたりミゲールは非常に優秀である。

 こうした腐りやすいものを出先で食べられるのも、魔法の袋があるからできる贅沢だ。

 マイスナーとディアスの分も十分にある。

 マイスナーは協力者だし、気を遣っておかないとな。

 ディアスにも警戒を悟らせないように、今はできるだけ友好的に振る舞っておこう。

「その結界はどんな効果があるんだ?」

 レイアが紙に書いた魔法陣に手をかざして発動を終えたところで聞いてみた。

「私が野営するときに使ってた結界よ。魔法障壁とほとんど変わらない物理防御力で、破られた場合は警報が鳴るわ」

 そりゃ便利だ。

 レイアも自信があるらしくニンマリとした表情で説明した。

 いや、ドーナツの味に表情が崩れただけかもしれない。

 エルフは皆甘いものが好物なのか?

 だが、すぐに表情を引き締める。

「人為的に魔術で破ろうとしても、よほどの達人でない限り警報が鳴るわ」

 なるほど。

 やはり、こういった分野に関しては俺はレイアの足元にも及ばないな。


 たいていのダンジョンでは転移魔法陣の前の部屋に、その階層のボスがいるのが普通だ。

 某段ボールを被った工作員並みに慎重に進んだ結果すでに日が傾きかけているが、ようやく今までの魔物とは毛並みの違う反応に当たった。

「ゴーレムかしら……。でも、やけに頑丈そうで大きさもあるわね」

 こんなことまでは俺の“探査”ではわからない。

「とにかく進んでみよう。ディアスさん、いつでも後退できるように準備を」

「は、はい。隙があるようなら一撃入れてやりますよ」

 トラップに警戒しながら角を曲がる。

 壁に身を隠しながら奥の様子をうかがうと…………居た。

 人型の鈍い光沢をもつ岩の塊のようなやつだ。

「レイア、あれ何かわかるか?」

「アイアンゴーレムね。ただのゴーレムより防御力が格段に上よ。普通なら関節を火で攻撃し続けて動きを止めて、胸のコアを何度も攻撃するから時間がかかるけど……」

 レイアがフィリップに視線を向ける。

「フィリップ、あいつにダメージは与えられそうか?」

「問題ない。私の剣はアダマンタイトだからな。コアくらい一撃で破壊して見せる」

 アダマンタイト……。

 この世界ではどんな金属だったか……。

「オルグレン伯爵家にはアダマンタイトの武器とガルヴォルンの防具が伝わっているのだ。アダマンタイトはオリハルコンほどの切れ味を持たせることはできぬが、硬さに関しては最強だ。当主は皆これを刺突や打撃主体の武器において使いこなす訓練を積んでいる。ちなみに私の腕甲と小盾はガルヴォルンだ」

 ガルヴォルンについてはレイアが補足してくれた。

 粘り気の多い金属で耐久力は無論のこと、衝撃をあまり伝えない性質らしい。

 武器としては力が伝えにくく敬遠されがちだが、防具としてはこの上ない最良の素材だそうな。

 前世では、ポッキリ折れてしまわないように、刃物の原料の金属にも粘り気が重視されていたが、こちらの世界では必要ないらしい。

 どちらも組成が魔力に関わっているからだろうか?

「試してみましょう。アイアンゴーレムは魔術を使わないわ。フィリップ、胸のコアを任せていい?」

「ああ、無論だ」

 フィリップを先頭に陣形を整えた。

 マイスナーも今回は松明を捨てて最初から剣を二本とも抜いている。


 レイアがアイアンゴーレムの頭部に向けて“熱線(サーマルレイ)”を放つ。

 俺と騎士の二人が左右に散る時間は稼げたが、魔法耐性が強いらしく一気に溶かすことはできなかった。

 こりゃ正攻法じゃあ時間がかかるはずだ。

 フィリップが攻撃に移るころには、すでに俺の“氷結(フリーズ)”がアイアンゴーレムの足を凍りつかせている。

 側面に陣取るマイスナーとディアスに、腕を叩きつけようとしているが、届かない。

 胸のコアに向かってフィリップのレイピアが一直線に突き刺さる――寸前でかわされた。

「なっ!?」

 脚を覆ったはずの氷は割られ、敵はすでに拘束を解いていた。

 思ったよりも素早い。

 ゴーレム系は簡単なプログラムに従って動いているため、決して状況判断能力は高くない。

 だが、それゆえ行動を阻害されたことに戸惑うことなく動作を続けたため、膂力によって氷を砕かれてしまったのだろう。

「(もっと強力な拘束手段が要るな)」

 気が逸れたせいか俺の大剣の一撃も手首を切り落とすに留まり、フィリップにカウンターの手刀が振り下ろされる。

「ふんっ!」

 フィリップはなんとか盾で打撃を防いだ。

 着地があと一瞬でも遅れていたら危なかった。

 マイスナーとディアスの斬撃が時間を稼いだ隙に、いったん距離をとる。

「凍らせる程度じゃあ止められねぇな。どうするよ?」

「やっぱり普通に関節に火魔術を撃ち続けて持久戦をするしかないのかしら」

 確かに、周囲への影響を考えず全力で斬撃や魔法を放てない狭い部屋である以上、それしかないように思われた。

 いや、待てよ。

 関節を攻撃するなら何も溶接だけが手ではないのでは?

「レイア、やつの材質は……鉄、なのか?」

「え? ええ、そうね」

「(試してみるか……)」

 俺は魔法の袋から塩を取り出した。

 魔法で出した水に混ぜてアイアンゴーレムの膝にぶっかける。

 アイアンゴーレムも“水弾(ウォーターボール)”ですらないものに、大した脅威を感じなかったのか微動だにしない。

 水を避けるよりも、フィリップを警戒し続けることを選んでくれたのは好都合だ。

 金属の腐食を促進させることは、一度も試したことがないので成功するかはわからない。

 だが、失敗したらその時はその時だ。

 嫌気的と好気的の違いはあれど、化学反応の促進に関係する魔術はアレンジしたことがないわけではない。

「(落ち着け、落ち着け)」

 俺は隙を見せず且つ殺気も放出しないように努めながら、左手を掲げた。

 アイアンゴーレムも直接の攻撃魔術でないものに、どう対処していいかわからず、先ほどから対峙したままの姿勢を保っている。

 だが、ふいに胴体部をよじり始めた。

「成功だ」

 アイアンゴーレムは腕をめちゃくちゃに振り回しているが、下半身は一切動いていない。

 そう、関節を錆びつかせることに成功したのだ。

「フィリップ!」

「おう!」

 フィリップのレイピアが胸のコアをとらえアイアンゴーレムは活動を停止した。

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