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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
決戦編
208/232

208話 竜騎兵


 地面蹴った勢いのまま飛行魔法で一気に直進した俺は、一瞬で公国軍の竜騎兵団の先頭に肉迫した。

「っ! 何か来ます!」

「魔術師か!? 迎撃しろ!」

「え、飛行魔法……」

「速いっ」

 ヘッケラーが制御する魔術によって天候は荒れに荒れているが、敵もワイバーンを使役し空中戦を生業とするエリート兵科の連中だ。

 豪雨の中で所々に落ちる落雷の光を反射した俺の大剣などから、こちらの接近を感知した。

 しかし、俺は敵が迎撃態勢を整える前に無言で対空の炸裂魔術“エアバースト”を発動し、そのまま竜騎兵団のど真ん中まで突っ込むと、魔力を込めた大剣を横に薙ぎ払った。

 すれ違いざまに叩き切った三体の竜騎兵が、騎獣のワイバーンごと真っ二つに両断されて地上へと落下していく。

「うげっ」

「ギュルオオオォォォォォオオォォォン!!」

「ぇ……」

 至近距離で“エアバースト”の爆発の衝撃波を受けたワイバーンは堪らず体を捩って錐揉みしながら墜落し、騎乗していた兵士も振り落とされて地上に落下するか鐙に足だけ引っかけたままワイバーンの背から投げ出された。

 ワイバーンの飛行能力は鳥とは違い純粋に翼によるものではなく魔力的な要素も介在しているはずだが、それでも滞空時に爆発の衝撃波を浴びれば普通に体勢は崩す。

 俺の高射砲のような魔力構成で放たれた対空用の炸裂魔術は、見事に数体の竜騎兵を無力化し撃墜した。

 当然、直接攻撃を加えた方の竜騎兵も致命傷だ。

 空中で騎獣のワイバーンの首ごと胴体を両断された兵士は、ファイヤーブレスの指示どころか手に持った槍を振るう間も無く、血を撒き散らしながら地面に落下した。

「ぇ……な…………」

「……う、わぁぁぁああぁぁぁぁぁ!」

「撃て! ブレスだ!」

「奴を近づけるな」

 一瞬で十騎近い竜騎兵が無力化されたことで、公国側の竜騎兵団は即座に混乱に陥った。

 一部の竜騎兵は果敢にも俺にブレス攻撃や魔術を放ち挑んできたが、その程度の攻撃を食らう俺ではない。

 魔力を込めた大剣で正面のファイヤーブレスを切り裂いて相殺するのと同時に、横合いから別の竜騎兵が放ったブレスは魔法障壁を展開して最小限の魔力で軌道を逸らした。

 続いて数発の“火弾(ファイヤーボール)”が顔の近くを掠めたが、これは飛行魔法を軽く制御して空中を不規則に飛び回ることで被弾を避ける。

 高温のブレスや火魔術によって辺りには水蒸気が霧状になって立ち込めるが、やがて俺の姿を認めた竜騎兵たちはさらに驚愕の表情を浮かべた。

「なっ!? 効いてな……っ!」

「ひぃ! 来るなぁ!!」

 立体的な軌道で敵の攻撃を避けつつ的を絞らせないように動いていれば、上手い具合に敵の立ち回りもかき乱すことができる。

 俺自身も高速で動いているため、常に敵全員に対して有利なポジションを取り続けることは難しいが、一瞬でも敵の死角から射線を取れれば十分だ。

 空いた左手に素早く魔力を制御し発動した“放電(ディスチャージ)”は見事に竜騎兵をまとめて効果範囲に捉え、防御もままならず高圧電流を浴びたワイバーンと兵士たちは全身が麻痺したようで次々と地上に落下していった。

 この高さからまず助からず、仮に命があっても重症で戦闘の継続はほぼ不可能だろう。

「ふんっ! せぃやっ!」

 さらに魔力を込めた大剣を二度三度と振るえば、今度は紫電を帯びた雷を凝縮したような剣閃が魔力から形作られ、別の竜騎兵をワイバーンごと両断した。

「くっ……死ねぇ!」

 横合いから別の竜騎士が苦し紛れにクロスボウを放ってくるが、それも大剣で受け流すように弾き落とし、カウンターで放った斬撃によって騎兵の甲冑ごと首を飛ばして仕留める。

 操縦手を失ったワイバーンは、本能の部分で危険を感じ取ったのか、俺から距離を取ろうと試みたが、逃走を許すつもりはない。

 簡易的なフェイスガードっぽい防具の上からワイバーンの側頭部に回し蹴りを叩き込むと、強化魔法の魔力が凝縮された打撃はドラゴンボーン鋼のグリーブ越しにワイバーンの頭蓋骨を粉砕した。

 そうして、俺は混乱下にある竜騎兵を次々と屠り、味方の地上部隊への高高度爆撃を一人で食い止めていた。



「まずい……散開しろ!」

「奴は捨て置け! 任務を忘れるな!」

「ぐっ……おのれ……」

 俺が単独で竜騎兵団の隊列に突っ込み敵を次々と撃破していたのも束の間、敵の士官の指示で竜騎兵たちはワイバーンの手綱を握り直し、即座に反転して四方八方へ散り始めた。

 どうやら、ここで空中戦によって俺を仕留めることは諦めるつもりのようだ。

 これだけ見れば、公国の竜騎兵団はお粗末な部隊のようにも思えるが、彼らの本来の職務を鑑みれば悪くない判断だ。

 事実、ワイバーンに搭乗する竜騎兵は高速飛翔と対地攻撃に特化している。

 飛行生物の機動力を活かして敵の地上部隊に急速接近し、ファイヤーブレスや魔術や魔道具を用いて空から一方的に歩兵や騎兵を蹂躙することが役割だ。

 もちろん、ワイバーンの膂力や竜騎兵の持つ槍などの武器で接近戦を行うことも想定しているが、それはあくまでも敵の竜騎兵やそれに類する存在から身を守るためのものだ。

 精々、飛行魔法で接近してきた魔術師や飛行型の召喚獣に最低限の対処をするものでしかない。

 少なくとも、俺のようなスピードと空中機動の制御能力を兼ね備え接近戦の火力も高い相手と直接やり合うことは想定していないわけだ。

 連中としては、俺一人と関わり合うより一騎でも多く王国軍の地上部隊の上空に到達し、ファイヤーブレスや手投げ弾による攻撃を仕掛けた方が効率的だ。

 こちらが単独であることを鑑みても、散開して離脱するというのはいい判断だ。

 しかし……。

「ぇ、速……っ!」

「なっ!? いつの間に……ぐわっ!」

 敵の立ち回りを想定している以上、それを簡単に許すつもりもない。

 俺は一瞬で踵を返した竜騎士に肉迫すると、そのまま後ろからワイバーンの胴体ごと大剣で両断した。

 地面を蹴って移動するほどの瞬発的な踏み込みは不可能だが、少なくとも人間が使役するワイバーン程度のスピードでは俺からは逃げられない。

 さらに“エアバースト”を並列起動で発動し、戦闘エリア上空の広い範囲に衝撃波を伝播させるように空中で魔力を炸裂させる。

 高射砲をイメージして構成した対空用の魔術は“火槍(フレイムランス)”よりも飛行型の敵をダメージ半径に捕えやすい。

 雷属性の魔力を起点とした爆発に巻き込まれた竜騎兵は甚大な被害を受けて墜落し、致命傷を避けた個体もしばらくは戦闘不能状態に陥ったはずだ。

「ひぃ……に、逃げろ……」

「無理です! 撃ち落とされます!」

「恐れるな! いずれ奴も魔力が尽きる! 攪乱して離脱すれば……うがぁ!!」

「ダメだ、どこに居ても爆発に巻き込まれる……」

 俺は距離の近い竜騎兵を接近戦で確実に仕留めながら、逃走を試みる竜騎兵を中心に続けざまに“エアバースト”や“落雷(サンダーボルト)”の魔術を放ち続けた。

 数十騎の竜騎兵を全て相手取る規模で魔術を展開し続ければ、当然ながら魔力も加速度的に減っていき、並の魔術師ならば数分と経たず魔力切れに陥る状況だが……ここでも俺の最大の武器でもある魔力量の多さが存分に発揮されている。

 今まで大規模な魔術をそれほど使わず温存してきたこともあり、俺は潤沢な魔力を惜しげもなく使い、片っ端から竜騎兵をまとめて撃墜できる範囲の魔術を撃ち続けた。

 さらに“倉庫(ストレージ)”から取り出した『刃のブーメラン』こと偽フラガラッハを投げつけ、単騎で孤立する竜騎兵の首を遠距離から刎ね飛ばす。

 敵は完全に逃げの態勢に入っていることもあり、先ほどまでよりも楽な戦いとなりつつあった。

 しかし、公国の竜騎兵団の残存戦力が十騎ほどになったとき、敵に動きがあった。



「っ! 何だ……?」

 地上では、相変わらず王国軍と公国軍が一進一退の攻防を繰り広げているが、突如両軍の中心部に巨大な魔力反応が出現した。

 エンシェントドラゴンに比べればかなり劣るものの、なかなかの密度の魔力が渦巻いている。

 しばらくすると、戦場のど真ん中に黒いドラゴンが出現した。

「エビルドラゴン……? ……いや、違うか……」

 よく見ると、ドラゴンの表面には金属や石材のような質感がある。

 濃密な魔力反応は感じるものの、南部で戦ったレッドドラゴンとも魔大陸で遭遇したブラックドラゴンともドラゴンゾンビとも波長が違う。

 明らかに通常の生物ではない。

「ドラゴン型のゴーレムか……」

 あいつが出現した際の魔力反応は召喚術式にも近いが、戦闘が始まった直後に公国側が出してきたゴーレムにも似た魔力のパターンだった。

 俺も王国軍の魔法陣や魔導兵器の類を全て把握しているわけではないが、あのような品が王国側にあれば小耳に挟む程度には話を聞いているだろう。

 間違いなく、あれは公国側の兵器だ。

 まあ、竜騎兵たちの様子を見るに、肝心の公国側の人間もあれに関しては事前に知らされていなかったようだが……。

「くそ……」

 何はともあれ、あの規模の兵器が戦場のど真ん中で稼働を始めれば、敵軍が甚大な被害を受けることは確実だ。

 一般兵では相手にもならず、魔術師団の攻撃魔術による集中砲火を浴びせても撃破するには時間がかかるだろう。

 今回も、フィリップやヘッケラーが対応を始めてから片付くまでに、一体どれだけの犠牲が嵩むことやら……。

 あれほどの代物を平原での戦闘に出してくることも些か予想外だ。

 決戦兵器レベルの強力な戦闘用ゴーレムは開発費も維持費も掛かる故に、他の武器や兵器の比ではないくらいの費用対効果が求められ、投入は殊更慎重に検討される。

 王国では、王城や都市防衛に限って一部に決戦兵器クラスのゴーレムが配備されているが……今回の公国はコストなどお構いなしか。

 俺が突っ込んで早めに撃破するば、犠牲を最小限に留めることは可能だろうが……そうは問屋が卸さないらしい。

「……総員、私に続け! 奴を仕留めるぞ」

「はっ!」

「聖騎士……あいつだけは……」

 ゆっくりと羽ばたいてホバリングするワイバーンに騎乗した竜騎士たちは、距離を取って俺を囲むように陣形を組み、こちらに鋭い殺気をぶつけてきた。

 先ほどの攻防で、逃げても撃ち落とされるか追いつかれて両断されることは、竜騎士たちも理解している。

 ならば、本来の任務である地上部隊の火力支援を捨てて、俺と刺し違えてでも戦力を削るつもりなのだろう。

 ……少し厄介だな。

 俺は公国の竜騎兵団の大半を撃破したが、こいつらは先ほどの攻防を生き残ってきた。

 即ち、彼らは竜騎兵団の中でも腕利きの猛者たち、エリート中のエリートだ。

 こいつらを片付けない限り、俺は自由に動くことが難しい。

 それだけでなく、連中を野放しにしたら、地上部隊は延々と空から一方的な攻撃を受けることになる。

 ……致し方ない。

 地上はフィリップたちに任せて、俺はこいつらの対処を優先すべきだな。

 後先考えない公国には他にも隠し玉があるかもしれないので、詳細が判明している脅威は徹底的に排除すべきだ。

 そして、公国がまだ隠し玉を持っている可能性が否定できない以上、見えている脅威は可能な限り迅速に片づけるに限る。

「……悪いがさっさと片付けさせてもらうぞ」

「っ! 戯言を……」

 俺が大剣を握り直して構えると、竜騎兵たちの間にも張り詰めた緊張感が走る。

 恨みはないが、これは戦争であり、裏で暗躍する強大な敵を仕留めるためにはこいつらが邪魔なのだ。

「いくぞ……」

「…………っ」

 そして、竜騎兵団の中でも年かさの男が合図を下しワイバーンが一斉にファイヤーブレスを吐くのと同時に、俺も魔力を込めた大剣を振りかぶって大きく薙ぎ払った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まさにクラウス無双ですね。 公国側も隠し玉の存在があって勝てると思ってたのでしょうが、クラウスの強さを見誤ってしまいましたね。
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