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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編4年(魔大陸編)
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171話 一つ屋根の下


「しっ!」

「おぅ、っ!」

 堅実な対人戦フォーム二の太刀の型で振るわれるエレノアの木刀は、俺の木刀に軽く絡みつくような軌道でこちらの防御をすり抜け、そのまま俺の胸元を狙って伸びてきた。

 思わず、俺はエレノアの木刀を強引な姿勢のまま横から弾く。

 ぶつかった瞬間、お互いの木刀は粉々に砕け散った。

 無意識のうちに俺の四肢を循環する身体魔力の密度が上がっていたのだ。

 二の太刀を習っておいてこの調子では、技の練習にならない。

 肉体だけでなく精神的な疲労から俺の余裕がなくなってきた証拠だ。

 エレノアに至っては、かなり息が弾んでいる。

 お互いに結構な消耗をしたので、この日の鍛錬はここで終了した。

「……まだまだ刀術を習得したというには程遠いかな。あ、これどうぞ」

「ふぅ……いえ、既に基礎は十分だと思いますよ。ありがとうございます」

 軽く汗を拭いた俺は、ココナッツジュースの入ったコップを二つ魔法の袋から取り出し、片方をエレノアに渡した。

 ついでにカットした巨大オレンジも取り出し、これもエレノアに半分渡す。

 クエン酸は疲労回復に役立つので、激しい運動の後は食べる柑橘類は理にかなっている……はずだ。

 ところで、『死の森』で採れる巨大な果実だが、毒の類は全く無く、エレノアたちも普通に食べるらしい。

 もちろん、龍族が大丈夫だからといって、人族の俺に百パーセント害が無いという保証にはならない。

 しかし、以前に龍族の里に来た人族も普通に食べていたが何の問題も無く、毒が無いことが科学的に証明されていると言われては、一口試してみるという誘惑に抗えるはずがなかった。

 結果は……俺の体に異常は見られないから大丈夫だろう。

 元々が、この魔法世界に生息する植物というだけで、地球のものとは違うのだ。

 実家の裏の森で散々そこら辺の果物や木の実を食っておいて今更な話である。

 まあ、クレームがついたら嫌だから、売るときは事前に宮廷魔術師団とランドルフ商会で検査をするけどね。

 そして、『死の森』のフルーツはその非常識な大きさに反して、決して大味などではなかった。



「クラウス様、日も傾いてきましたし、そろそろ戻りましょうか」

「ああ、そうだね……ところでエレノア。いい加減、俺だけ呼び捨てなのもあれだから、君も俺のことはクラウスと……」

「いえ、そういうわけにはいきません。あなたは龍族にとって大切な客人ですから」

 ヤバイ……。

 この理性を溶かされそうな微笑みを向けられると、何も言えなくなってしまう。

 しかし……最近はエレノアの態度も大分柔らかいものになってきたな。

 むしろ、デレすぎているほどに……。

 いや、今までも嫌われているわけではなかったのだが、やはりジルニトラが言ったように、俺との間に壁を作っていた感があった。

 それが今では、他の龍族の住民から生暖かい目を向けられるような状態だ。

 まあ、エレノアがこうして俺に笑顔を向けてくれるようになったきっかけを作ったのは、ジルニトラだったりするのだが……。

 俺がエレノアの家に住み始めてしばらく経った頃、ジルニトラはエレノアと二人で話して、俺を客人として扱うよう改めて伝えたそうだ。

 何だかんだ言って、エレノアが俺を警戒していたのは、強大な戦闘力を持つ者が龍族の里に入ることに対する懸念というだけで、あくまでも他の同胞のために気を巡らせていたに過ぎない。

 俺は里でトラブルを起こすことも無ければ、北の件に首を突っ込まないことも厳守しており、今のところ龍族の不利益になるようなことはしていない。

 それどころか、俺は誰よりも魔物の討伐と狩猟で成果を上げており、食材は里の住民にも提供している。

 行動で示すことは、客観的に見ればサンプル数を積み上げているだけだが、当事者にしてみれば利益に直結するのだから何よりも信用できる。

 里の長であるジルニトラが根拠を示して説得すれば、エレノアにとって俺の存在は大して問題のあるものではなかったのだ。

 実際、ジルニトラから直々に警戒の必要は無いことを伝えられ、個人的な感情と主観で接してくれるようになったエレノアは、この通り可愛いものだった。

「さ、行きましょう」

「あ、ああ」

 おお! 手を引かれた拍子にエレノアの巨大な胸部緩衝ユニットの幸せな感触が……。

 それに、この寄り添って家に帰る状況は、まるで新婚のようではないか。

 ああ、生きててよかった……。



 居住区の隅にある一人暮らしにしては大きめな木造の平屋がエレノアの家だ。

 キッチンに隣接するダイニングには、大きめのテーブルと五個ほどの椅子が置かれているが、これは客用だな。

 戦士長で族長の妹も同然のエレノアなら、当然ながら来客は多いだろう。

 リビングは広めで、キメラの毛皮をそのまま使った絨毯が敷かれ、グリフォンの羽根を詰めてワイバーン皮を張ったソファーが置かれている。

 他に部屋は二つあり、一つはエレノアの寝室、もう一つは元書斎?で今は俺の寝室だ。

 ……空の本棚には明らかに最近まで大量の書籍が並べられていたようだが、きれいさっぱり片付けられている。

 慌てて片付けたと思わしき彼女の愛読書に関しては……話題にしない方がよさそうだな。

 気になるけど。

 まあ、そんなことよりも、重要なのはこの家での暮らしそのものだ。

 里に招かれてから、俺はずっとこの家で生活しているのだ。

 この家は現代の住居でいえば実質2LDKの一部屋。

 そう、まさに! この状況は美女と同棲以外の何物でもない。

 すまんな、非リア充の諸君。

 ただ、この滞在において問題が全くないかと言われれば、そうでもないわけで……。



 問題は大きく分けて二つある。

 一つ目は、魔大陸に来る前も懸念していたこと……ぶっちゃけてしまえば食卓の危機である。

 エレノアの家に招待された初日、彼女は自ら腕を振るって俺を手料理でももてなしてくれた。

 そう、エレノアの料理(・・・・・・・)を振舞ってくれたのだ。

 ……あの物体は、それ以外に表現しようがない。

 いや、原材料が肉と何かしらの野菜だったのはわかるが……。

 強くて理知的で爆乳な完璧美人は……何と、メシマズ嫁だった。

 ジルニトラはこのことを教えてくれなかった。

 当然、彼女は知っているはずなのに……。

『どうして……? 教わった通りやったのに……』

 どうやら、普段より手の込んだ料理を作ろうとして失敗したようだ。

 エレノアがポツポツと語り始めた事情を聞けば、どうも普段は肉を簡単に焼くくらいしか料理はせず、たまに近所のおばさんたちから煮込み料理やジャムのお裾分けを貰う程度だそうだ。

 要は、エレノアが習得している調理スキルは『切る』と『焼く』のみというわけである。

 うん、刃物と火は使えるわけだ?

 原始人よりは……いや、彼らは『煮る』スキルを持っているな。

 で、エレノアは以前そのおばさんたちから聞いただけの知識で複雑な料理を作ろうとして、結果はこのザマ。

 まあ、かわいい見栄の範囲……かな?

『あの……すみません! 普通に焼いてきます!』

 さすがに自分でも失敗を悟っているのか、エレノアはこれ以上の見栄を張らずにいつも通りの料理を作った。

 うん、普通に焼いた肉と生野菜と果物だ。

『これなら……大丈夫ですか?』

『うん、食えるよ』

『よかった……』

 エレノアは安堵の息を吐いた。

 俺も食えるものが出てきてホッとしている。

 だが、自分がそれなりの調理技術を持っていることと、上質な魔物の肉を食べ続けてきたことも相まって、この味気ない食事を毎日続けるのは無理だと予想できてしまう。

 せめて、焦がす部分はもうちょっと少なめに……ねぇ?

『……あのさ』

『……はい』

『明日から、料理は俺がします』

『……はい、お願いします』

 そして、今ではエレノアの家のキッチンはほぼ俺のテリトリーとなっている。

 ……そういうことだ。

 こうして、サウスポートではなく招かれた龍族の里で襲撃してきた食卓の危機は、どうにか撃退することができた。



 あと、もう一つの問題は……言いにくいが、俺の下半身の問題だ。

 エレノアは本当に魅力的な女性だ。

 年齢は今年で118歳とのことなので、俺より百個以上は年上だが、見た目は高く見積もっても三十代前半である。

 元日本人の俺にとって、彼女のふんわりとした艶のある黒髪は、惹かれるを通り越して安心感を覚えるほど魅力的なパーツだ。

 顔立ちもモロ好みだった。

 柔和な印象を強めるふっくらとした輪郭に、少しばかり鋭い金色の瞳がアクセントを与えている。

 左目の下の泣きボクロだけでも妖艶さは五割増しだが、思わず唇を奪いたくなるような口の右下のホクロも色っぽい。

 肩幅が広く長身で、この世界の一般男性から見れば大女だが、俺と並べば全く気にならないので問題ない。

 何より、爆乳だ。

 レイアやファビオラに関しては言うまでも無く、キャロラインなど比べるだけ空しく、将来のメアリーですら遠く及ばないだろう

 ……ところで、エレノアの家には風呂がある。

 ただの水浴び場やシャワー室ではなく、頑丈で腐りにくい『死の森』の木で作った湯船もある、数十年前の日本の浴室に近い構造だ。

 元日本人である以上、風呂の誘惑に抗えるはずもない。

 今では、毎日のように魔術で湯を沸かし、夕食の後に入っている。

 そして、ゲームやネットがあるわけではないこの世界では、就寝時間が早めとはいえ、風呂から上がってしばらくは暇になる。

 そして何故か……そう、何故かエレノアは床に就くまでの時間を俺の隣で過ごすのだ。

 ソファーで俺が寛いでいると、今日も湯上りのエレノアは妖艶に微笑みながら俺に寄り添い頭を預けてくる。

 しかも、体ごともたれ掛かってくるので、素晴らしき浪漫の詰まった急勾配の丘が、薄手の寝間着越しに俺の腕に押し付けられるわけで……。

「あら……クラウス様、どうされました? 顔が赤いですよ」

「い、いや! 大丈夫だから」

 俺は慌てて顔を逸らした。

 本当に、エレノアには煩悩を刺激されて困る。

 あと、ジルニトラが言ったことは本当だった。

 エレノアは毎晩ベッドの中で自慰をする。

 本人は俺を起こさないように声を押し殺しているつもりのようだが、荒い息遣いに混じった色っぽい声が、薄い壁一枚を隔てた隣の部屋に居る俺の耳に届く程度の音量はあるのだ。

 最近では、譫言のように俺の名前を呼んでいたりするのだから堪らない。

 高まった喘ぎ声に続いて、息を詰まらせるような苦し気な呻き声が発せられ、それ以降エレノアの部屋から聞こえる音は一切無くなる。

 一人で満足したエレノアは気持ちよく熟睡しているようだが、こちらはそれどころではない……。

 警戒が解かれて美女とお近づきになれたことを喜ぶべきなのか、俺の理性の限界を心配するべきなのか……。


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