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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編4年(魔大陸編)
170/232

170話 龍族の剣術


「では、理論のおさらいをしましょう」

「お願いします、エレノア先生」

 俺が龍族の里のエレノアの家に居候を始めてから数か月が経った。

 基本的に、平日はエレノアに剣を教わるのと南のサウスポート方面の『死の森』で狩りを繰り返す毎日だ。

 今日は剣術を基礎から一通り復習する日だったので、一日ぶっ通しの鍛錬だった。

 強化魔法と治癒魔術が無かったら、確実に途中で音を上げていた。

 何せ、俺をしごくのは、龍族で一番の腕を持つ戦士長エレノアだ。

 剣技の鍛錬のための模擬戦では、普通は強化魔法の出力を低い方に合わせる。

 この場合は、エレノアが無理なく維持できる出力まで俺の強化魔法の魔力強度を下げるわけだが、そうすると俺は一方的に負けることになる。

 強化魔法の出力を向こうの倍以上に上げて、剣速とパワーで押さなければ、まずエレノアに接近戦では勝てない。

 彼女は俺より遥かに優れた剣術のテクニックを持っているのだ。

 恐らく、フィリップでも強化魔法の出力を揃えて試合をしたら勝てないであろう。

「本来、龍刀の構造はその洗練された鍛造技術に裏打ちされたものであり、一般的な剣より細身なのは、それだけで十分な強度を保てるからです。しかし、ミスリルやオリハルコンなどの魔法金属の精錬技術が進むことで、その優位は絶対的なものではなくなりました」

 エレノアは自分の愛用しているオリハルコンの龍刀を示しながら説明を続ける。

「我々の里に代々伝わる刀術は、そのような未来を予見して、精度を上げるべき技術を型ごとに分けたものなのです。一の太刀から七の太刀まであり、それぞれの型に重視するテクニックが存在します。これを順序だてて把握し習得することが、龍刀のみならず両刃の両手剣や片手剣を扱う際にも応用が利きやすい技術の根幹となるのです」

 実際、俺が習っている剣術も、基本的なところはエレノアが使うような龍刀と共通だが、ある程度の段階からは両刃の両手剣に適応させたものが中心だ。

 一応、俺も昔は自作の日本刀を使っていたこともあるので、刀術の方も習っている。

 実際に両方を教えられるエレノアは本当に有能だ。

 ……そこ! 年の功とか言わない。

 因みに、以前俺が自作した日本刀自体は、エレノアに見せたところ微妙な表情をされたが……。

 まあ、地面から“抽出”の魔術で取り出した鉄を、さらに魔術でどうにか鍛造したものなので、品質はお察しだ。

 今の俺が強化魔法をフル出力で発動しながら振るったら、簡単に折れてしまうだろう。

 練習用に借りた数打ちの龍刀も、俺の自作品よりは遥かにマシだが、やはり耐久力が低い。

 いずれ、それなりの品質の物を売ってもらおう。

 『死の森』の魔物の素材もあるので、これで特注の龍刀を作ってもらうという手もある。

 いや、ここでは普通の鋼鉄の龍刀を買って、実際に特注の刀を作るのはアンとメアリーの親父さんに頼んだ方がいいか?

 悩みどころだ。



「次は型のおさらいです。まず、一の太刀『スーブリ』は全ての剣を扱うための基本ですね。正しい姿勢と剣を振るう軌道を認識することで、基礎的な攻撃と防御の精度、それに体捌きの技量を高めます。聞いた限りでは、あなたの王国の剣術は、ほぼこの型で構成されていると言っていいみたいですね」

 確かに、俺が父アルベルトに習った剣術は、攻撃時の剣の振り方と防御姿勢を重点的に訓練するものだった。

 あとは模擬戦で打ち込み方と捌き方のコツを掴み、防御から淀みなく攻撃に移る技術をカウンターとして認識する程度。

 俺が既に完璧に一の太刀を習得できていたかと言われれば、そんなことは無かった。

 衝撃の流し方や捌き方に関しては、人間の体の構造と体幹や全身のバランスを意識した概念がある分、龍族の剣術のテクニックの方が一歩先を行っている。

 もちろん、俺の大剣にも応用が可能な技術だ。

 基礎中の基礎でこれだけの差があるとは、先が思いやられるな。

「二の太刀『クミィテ』は対人戦の剣術テクニックを重視した型です。槍などの武器に対して優位に立つための技術も、この型に凝縮されています」

 エレノアはこの二の太刀の達人だ。

 何度か模擬戦をしてわかったが、彼女は相手の挙動を観察しつつ防御を崩していくタイプの剣士だ。

 堅実で洗練されたフォームだが、弱点を鋭く突いて来る。

 端的に言えば、この型を極めた剣士は、剣聖の異名を持つオルグレン伯爵家の家宰エドガーの強化版だ。

 そりゃ、俺も技術ではエレノアに到底敵わないわけだ。

「三の太刀『ナグァレ』は防御を重視した型ですね。受け流しと切り返しの美しさが真骨頂の弱者の剣と語る者も居ますが……私に言わせれば、これは戦場で生き残るための剣です。全方位への警戒と立ち回りこそ、この型の本来の目指すべきところだと思っています」

 軽く聞いた程度だが、エレノアは一度だけ中央大陸に渡り戦場を経験したことがあるそうだ。

 王国には来たことが無いらしいが、彼女の三の太刀はその時に磨きをかけたものらしい。

 ……何年前なのかは怖くて聞けません。

 エレノア曰く、体捌きの癖などを観察した結果、俺にはこの型が一番向いているそうだ。

 そういえば、以前に武器屋の親父さんにも、俺は僅かにカウンターよりの立ち回りだと聞いたな。

 俺が得意とする魔力剣や魔術は火力に秀でているので、自分では先制攻撃の印象が強いが、この型が本来の俺に向いているフォームというのならば、少し真剣に突き詰めてみるか。

「四の太刀『クゥザイク』は変則的な太刀筋と歩法やステップで翻弄し、相手の死角から斬りつけることに重点を置いたフォームですね。極めれば、反撃を許さず敵の急所を突けます。一体多の状況を利用した立ち回りにも活かせる技術が多いですから、三の太刀の応用と言える部分もありますね。ただ、相手の視界から逃れる動きが多いので、その分消耗は大きくなりますが……」

 機動力を重視した型のようだな。

 聞いた限りでは、堅実なフォームでテクニックを重視する二の太刀の、刀の可動域を広げたようにも思える。

 しかし、実際にこの型のフォームを意識してエレノアと模擬戦をしてみると、明らかに勝手が悪い。

 この型は相手が素人や雑兵なら有効かもしれないが、ある程度の力量を持つ相手に用いるのは危険だ。

 相手を翻弄する以前に無駄な動きが多いからな。

「俺の体のサイズだと、少しこの動きには無理がありますかね」

「いえ……捉え方を変えれば、大柄故の的の大きさを機動力でカバーして回避率を上げられる型ですが……」

 まあ、俺の力量と向き不向きの問題かもしれないな……。



「五の太刀『ザンシン』。元々は、四の太刀でカバーできる攻撃範囲をフルに使って、重心がぶれて体が流れない限界のところまで剣を振り抜く動作を基本とする型です。主に大太刀や大剣を扱うための技術ですね」

「はい、先生。俺の武器にも応用可能ですか?」

「もちろんです。あなたの場合は……デュランダルでしたか? あの巨大な両手剣を使っているときに意識されている体捌きをさらに鍛錬すればいいのです。この型に関しては、ある程度の形で完成しているように見えますよ。四の太刀よりも」

 どうやら、俺はこのパワー重視の型の熟練度を先に上げていたようだ。

 まあ、元々が俺の魔力剣は火力に秀でた技術だ。

 今までに戦う羽目になった相手が相手だけに、斬撃の威力を向上する訓練は人一倍積んできた。

 剣の攻撃範囲を余すところなく活用してフルスイングする練習は、敢えてこれ以上する必要は無さそうだな。

 むしろ、俺が普段用いている真・ミスリルの剣に魔力を通して振るうという手法は、刀身から魔力が広く拡散しない魔力剣は、この五の太刀の発展形と言えるかもしれない。

「六の太刀『キバッツ』ですが、こちらは剣術のフォームというよりも戦術です。強化魔法を意識して発動できることが前提ですが、通常時との感覚の違いを把握し、身体強化の恩恵を活かした戦い方を習得することが基本です。あとは、強化魔法を発動するタイミングを限定し、使いどころを見極める訓練もこの型の鍛錬に含まれます。長期戦における魔力や身体の消耗を抑える技術ですね。さらに、無詠唱魔術と組み合わせえ剣を振るう戦法も、この型の応用として提唱されているものです」

 覚えることがいっぱいだ。

 龍族の戦士はほとんどが中級魔術と龍刀を組み合わせて戦うのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 まあ、後で聞いてみたところ、実際にこの六の太刀を修めた戦士は多いらしいが。

 何せ、接近戦と魔術の両方の手札があるだけで、対応できる敵や状況の幅が大きく広がる。

 ある程度のレベルの剣士が中級魔術を無詠唱で撃てるだけでも、冒険者なら魔法剣士としてそれなりのランクに登れる。

 龍族には、この手札を揃えた戦士たちのノウハウが長年に渡って蓄積されている。

 これは、何としてでも習わないとな。

 火力バカではない、一般的な魔法剣士の戦術の完成形がここにあるのだ。



「七の太刀『チュニービョ』は少し特殊な型です。他の六つの型においては、個々の技量の差はともかく、年月を費やせばある程度は修められるものが多いのですが……この七の太刀は初期段階で人を選びます。予め特殊な魔力の変質が必要なのです」

 これだけ聞けば、何やら怪しげな儀式を用いた秘伝の強化法かと思ったが、何のことは無い。

 要は覚醒魔力を活用した強化魔法だ。

 俺の雷属性の魔力やフィリップの聖属性の魔力を使った強化魔法がこれに当たる。

 しかし、七の太刀のフォームは、意識して御せない身体魔力や生半可な強化魔法とは一線を画す身体能力を利用することが前提のものだ。

 通常では不可能な、慣性を無視したような太刀筋で剣を振るう。

 しかし、細切れの動きは一見非効率なものに見えて、その実、最小限の軌跡で予測しにくい連続攻撃を繰り出し、インパクトの瞬間以外では剣を可能な限り長く防御態勢を取りやすい位置で保持する、非常に高度な型だった。

 間違いなく、七の太刀は力任せな強化魔法と魔力剣の火力に頼っていた俺の剣に先を示してくれる存在だった。

 使い手が少ないにもかかわらず、ここまで技法を磨き上げたことに関しては、さすが龍族としか言いようがない。

 しかし、それでもエレノアに言わせると、この型の完成度は決して高いものではないらしい。

「私たちの剣術は合理によって形づくられています。どの型においても、魔力量や体格程度の差であれば、個人の特性を活かして研鑽を積めるようパターンを想定済みです。ところが、七の太刀は他の型に比べると、あまりにも性質が尖っている。剣術としての技自体もそうですが、伝承にはそれ以上に未知の魔力操作……ぁ……」

「……えっと」

「すみません、この話はこれくらいで」

 これは……聞こえなかったふりをした方がいいやつだな。

 珍しく口が滑ったようだ。

 剣術の技術に関することなので、そこまで深刻な機密ではないだろう。

 それこそ、ジルニトラなら普通に教えてくれそうだ。

 まあ、ここで敢えて生真面目なエレノアの失言に突っ込む必要は無いか。

 欲張らずとも、エレノア先生の剣術講座からは十分な収穫がある。

「とりあえず……今後も三の太刀と六の太刀を中心に教えてもらえるかな? 俺にとってはこの二つのフォームの鍛錬が一番得るものは多そうだ」

「……わかりました」

 改めて、俺はエレノアから模擬戦の指導を受け、各フォームをおさらいした。

 しかし、七つの剣術のフォームに、このネーミング……。

 やはり、龍族には地球出身の転生者が関わっているな。

 それもスター〇ォーズファンの奴だ。

 何だか、この流派を習うのが不安になってきたが……まあ、実際に龍族の里で修業を始めてから得るものは多いので、しばらくはこの生活を継続していいだろう。


設定バカ盛りですが、伏線回収の目処はたっていません(´;ω;`)



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