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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
16/232

16話 警備隊の人々

「なるほど、ではこれも例のアンデッド騒動の捜査の一環というわけだな? 黒幕は影も形も無しか」

「ああ、そういうこった。伯爵様、危ねえとこ助けてもらって感謝しますぜ」

 銀髪の騎士、警備隊副隊長ジークハルト・マイスナー大尉がフィリップに頭を下げる。

 マイスナーは純粋な剣技では恐らく今のフィリップにも勝る腕利きだが、魔法は使えないらしい。

 剣は二つとも魔剣で魔力持ちでなくても剣閃を飛ばせるものらしいが、当然火属性でも聖属性でもない。

 アンデッドの捜査を担当させるには明らかに人選ミスだ。

「うちの聖魔術を使える魔術師が負傷しちまって、時間稼ぎも限界にきてたところだったんだ」

 どうやら俺たちの表情から察したらしい。

「礼ならクラウスに言うが良い。貴公たちを見つけたのも、素早く駆け付けられたのも彼のおかげだ」

「そうだな。ありがとよ、クラウス殿」

 俺は負傷者の治療を続けながら答える。

「どういたしまして、と言いたいところですが俺は最初見捨てようかと思ったんですよ。フィリップが助けたいと言うから、付いて来たまでです」

「まあ、そうだよな。主君を危険に晒すなんざ、普通は考えねえよな」

「クラウスは家臣ではない。学友である」

 マイスナーは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

「家臣じゃないって……じゃあ従者の一人も連れずにこんなところに? いったい何を……?」

「ゴブリン討伐の依頼の帰りでな」

「伯爵様が従者も連れず冒険者の真似事を……。しかも『カタストロフィ』を名乗って……」

 相当衝撃だったようだ。

 まあ、フィリップほどフットワークの軽い上級貴族も珍しいからな。

「と、とにかく街までは俺たちが護衛する。この後、お二人に何かあったら俺の責任問題になるから」

 断る理由はないか。

「では、お願いいたします。俺も援護しますので。フィリップは……とりあえず体調を戻せ」

「ああ、そうさせてもらう……うぇ……」

 フィリップは俺から水筒を受け取り、切り株に腰かけた。

 未だに顔色の悪さは消えていない。

 この体調でマイスナーと普通に話していたその根性は見上げたものだ。


 負傷者の治療が終わるころにはフィリップも回復していた。

 帰り道、負傷者の血の匂いを嗅ぎつけたらしいオーガの集団に襲われたが、無事な騎士たちの集団戦と俺とフィリップの計画通りのフォーメーションにより瞬殺された。

「なるほど、確かに素晴らしい連携ですね。アンデッド以外なら楽勝でしょう」

「ああ。だが、これだけの戦力の部隊なのになぜアンデッド対策だけ穴があるのだ?」

 フィリップの言うことはもっともだ。

 聖魔術の扱えるものを一人二人増やすだけで完璧な編成になるのに、あえて弱点にしたようにしか見えない。

「……ただのドジさ」

 何か事情があるのだろう。

 フィリップもそれ以上追及する気はないようだ。

「そんなことより、お前たち本当に11歳か?」

 脳裏に一瞬嫌な記憶がよみがえる。

 前世では老け顔のせいでよく年齢詐称を疑われたものだ。

 だが、どうやらそういった意味ではないらしい。

 ややこしい言い方しやがって。

「伯爵様の剣の腕は聞き及んではいるが、まさかこれほどとは思ってなかったぜ。騎士団のなかでも相手できるのはそう多くねえ。それにクラウス。剣術の腕も十分規格外だが、その魔術はどうなってやがる? さっき火魔術はいったい何だったんだ」

「ただの“炎波(フレアウェーブ)”ですよ」

「……中級魔術のか? いや、あんな威力のは見たことないが……。しかも無詠唱で……」

 確かに“炎波”は初級の“火炎(フレイム)放射(スロワー)”の上位互換で、所詮は中級なので全力でも問題ないと思っていた。

 だが、あれも明らかにオーバーキルだ。

 森が100メートル先まで更地になるとは思わなかった。

 おかげでサンプルになるコヨーテの残骸は焦げた毛皮一片しか残っていない。

 それでも物証としては十分らしいが。


 街にたどり着いた時にはすでに日は落ちており、寮の夕食には間に合いそうもないので、騎士団の詰所で報告がてらご馳走になることにした。

 詰所の前まで来ると歓声が上がった。

 大勢の鎧甲冑を着こんだおっさんたちにもみくちゃにされ、マイスナーが俺たちのことを紹介すると胴上げされそうになる。

 さすがにフィリップは伯爵家の当主なので手荒い扱いはされなかったが、俺にはお構いなしだ。

 挨拶もおざなりに済ませ、マイスナーと共に警備隊長室に向かう。

「すまねぇな、面倒な場所に連れてきちまって」

「いえ……」

 副官が面倒扱いする隊長とはいかなる人物か?

「心配するなクラウス。私も会ったことがあるが嫌な人間ではない。……少々融通が利かんがな」

 フィリップが単細胞扱いするとはいかなる人物か!?

 憂鬱になっている間に隊長室に到着した。

 もう引き返せない……。

「ジークハルト・マイスナー、入ります」

「入れ!!!!」

 マイスナーがノックするが早いが、想像以上の大声が響く。

「失礼します」

 中にいたのは50代くらいのガチムチの男だ。

 机にバカでかい戦斧が立てかけられている。

「何だ!! そいつらは!?」

「(声でけぇ……)」

「本日の任務に協力していただいたフィリップ・ノエル・オルグレン伯爵とクラウス・イェーガーです」

「協力だと!?」

 何故、この爺さんが不機嫌なのかはわからない。

 だが、マイスナーは間違いなくこういった状況に慣れている。

 いつもこの調子なのだろう。

「バイルシュミット殿、お久しぶりです」

「ん? おお、オルグレン伯爵か。久しいの。大きくなったの」

「……成長期ですからな」

 名前を聞いただけでは思い出せなかったようだ。

 頭は……少なくとも記憶力はよくないらしい。

「隊長、本日のアンデッドの捜索ですが、進展がありました」


 王都騎士団警備隊隊長フェルディナント・バイルシュミット。

 50代にして筋肉もりもりマッチョマンの変態である。

 そのコマ○ドーじじいは苦虫を噛み潰したような表情だ。

「なるほど、要はこの黒焦げのゴミを纏っていた畜生三匹にボロボロにやられて、オルグレン伯爵と少年に助けられたと」

「はい、その通りです」

 マイスナーが責められそうだったので、ここぞとばかり援護する。

「黒焦げにしてしまったのは私のミスです。貴重な資料を申し訳ありません」

「よいよい。少年はなかなか見どころがありそうだからの」

 どうやら気に入られたようだ。

 正直嬉しくはないが……。

 バルトロメウスがいたら押し付けたい。

 あのガサツな兄となら意気投合してくれることだろう。

「ところで、二人には何か礼をせねばならんの。とはいえ、警備隊のもので誰かに差し上げられる物といったら、犯罪者から鹵獲した武器くらいしかあるまい。さすがに今回の件は、ただ魔物との戦闘で冒険者から援護を受けた場合と同様に金一封だけで済ますのは忍びないのでな」

「それはありがたい」

 俺が「お気になさらず」と言って早々に逃げ出そうとするのをフィリップが阻止してしまった。

「(断ると余計面倒になるであろう)」

 フィリップはバイルシュミットの習性を熟知しているようだ。

「よし、ディアァァス!!!! 倉庫の鹵獲武器を持って参れ!!」

 鼓膜が破れたかと思った。

 遠くから絞り出すような「了解」という枯れた声が聞こえる。


「ふぅ、それなりの装備をもらえたことはうれしい誤算だったな」

 俺とフィリップ、マイスナーの姿は詰所の庭にあった。

 大鍋では騎士たちが業務中に倒した魔物の肉が煮えている。

 隊長室に運ばれてきた武器はどれも一級品とは言い難いが、それなりに造りの良さそうな物もあった。

 俺はサーベルを選んだ。

 普段腰に下げている実家から持ってきた鉄の剣よりは品質が良く、室内などで素早く抜き放って振り回すのに良さそうだからだ。

 フィリップは小振りのナイフを選び「これは便利そうだ」とバイルシュミットを気遣った。

「それにしても、バイルシュミット殿があのようなことを……」

 謝礼を受け取った後、そそくさと退出しようとした俺をバイルシュミットは呼び止めた。

 彼は同じ大型武器を扱うものとして俺に稽古を付けようと申し出たのだ。

 マイスナーは慌てて止めようとしてくれたのだが時すでに遅し。

 暴走筋肉親父はフィリップも巻き込んで、定期的に全員(・・)で稽古をすることを強行したのだ。

 確かに、父以外から武芸を習うのは意味があることかもしれない。

 だが、あの筋肉じじいの暑苦しさを思うと、嫌な予感しかしないのだ。

「隊長に気に入られるなんて、ホント何もんだよ……。(まあ、クラウスほどの腕利きと伯爵様が懇意となれば奴らも下手なことはできないか)」

 俺はマイスナーのわずかな安堵の表情を見逃さなかった。

 バイルシュミットは部下を無駄死にさせるタイプには見えない。

 もしかしたら今回の明らかにおかしい部隊編成は警備隊の上、騎士団の上層部が関わっているのかもしれない。

 魔物の肉のシチューはあまり美味しくなかった。


 俺とフィリップは冒険者ギルドへ向かった。

 心なしかフィリップの元気がない。

「クラウス」

「どした?」

「結局、バイルシュミット殿が私にまで稽古をつけると言ったのは、貴公のついでなのか?」

「? 突然何を言い出す?」

「いや、今回も私が言い出した割に全く役に立っていなかったからな」

 どうやら救助に向かった時のことを気にしているようだ。

 自分で言い出しておいて役に立てなかった。

 役に立たなかったのに賞賛を受ける。

 俺はその気持ちは痛いほどよくわかった。

 自分も十一プラス二十ン年生きてきて似たような経験は何度もした。

 自分が必要のない人間だと思えるのだ。

 こういった自分のすべてが劣っているような錯覚に陥っているときに慰めは逆効果だ。

「フィリップ、今度一緒に飛行訓練をしよう」

「?……どういうことだ?」

「今回は意識を保っててくれたからアドバイスを受けられ何とかなった。だが君が気絶していたら、素早い物理攻撃が必要な相手だったら俺は死んでいた」

少々盛っているが言いたいことはわかるだろう。

「次からは自分で飛んでくれ。幸い飛行魔法は放出系の魔術より身体強化に近い性質だから君にも扱える可能性が高い。それに人が運転する乗り物に乗るより、自分で運転したほうが酔いにくいものだ」

「そうか、ではよろしく頼む」

 チョロい……。

 だが、俺はこの時初めてフィリップと本当に信頼関係を結べた気がした。

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