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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
15/232

15話 初授業とアンデッド遭遇

「ふぁぁ~」

 俺は伸びをして寝ぼけ眼をこする。

 洗面所の水道で顔を洗い、口をゆすいでから着替える。

 シャツの上はジャケットではなく制服のローブだ。

 シルエットはゆったりしているように見えるが、サイズはぴったりに作られている。

 今までは成長のこともそうだが、ショルダーホルスターの膨らみを隠すため、多少サイズにゆとりのあるものを買っていた。

 いつもより念入りに左脇に不自然さがないかを確かめ身支度を整える。

 入学式と授業の間が何分間あるかわからないため、教材を魔法の袋に納め部屋を出た。

 ちょうどフィリップも部屋から出てきたところだった。

「……おはよう、クラウス」

 顔色が優れない、ていうか半分死んでるな。

「お、おはようさん……“ヒーリング”かけようか?」

「心配いらぬ。あまり眠れなかっただけだ」

 俺は今日の入学式は多くの生徒にとって二度寝の時間となることを予想した。

 中身は30越えのおっさんの自分でさえ、昨日はなかなか寝付けなかったのだ。

 期待と不安で眠れなかったのは、フィリップだけではないだろう。

「とりあえず朝食行こっか」

「……うむ」

 朝食を終え、大聖堂へ向かう途中見知った顔が声をかけてきた。

「フィリップ、大丈夫ですの?」

「顔死んでるじゃん……」

「お前も人のこと言えないだろ」

 武器屋の親父さんの娘メアリーやガイダンスで顔を合わせた面々と連れだって、フィレンツェのヴェッキオ宮殿のような建物に入る。

 中はごく普通の礼拝堂といった感じで適当な席に陣取る。

 白髪と髭の校長が出てきて挨拶をするが、あまり耳に入らないのは生前の性だろう。

 確か名前はアレッサンドラ……何とかデ・ラ・セールだかデ・ラ・セルナといったな。

 周囲の私語を目覚ましに式の終了を悟った。


 この学校の授業は午前に魔法学、午後に戦闘および魔術訓練を5日間、午前に基礎教養を1日、休日1日のサイクルだ。

 月、週の概念は前世と変わらないので特に歪なところはない。

 特待生は訓練と基礎教養の免除を申請できる。

 俺は訓練と歴史以外の基礎教養、フィリップは訓練と数学以外の基礎教養を免除申請した。

「ほう、クラウスは歴史を取るのか」

「取るっていうほど専門的なものでもないだろう……。俺は田舎者だからな。この国の歴史なんて家の書斎の本でしか学んでない。フィリップは何故数学を?」

「苦手だからだ」

 断言しよった。

 全然かっこよくない。

「幼少のころから家庭教師に習ってはいたのだが、どうも数字を見つめて考えるのは苦手だ。当主たる者が帳簿もつけられぬのはいかんと、執事に強制的に取らされたのだ」

出ました、脳筋お坊ちゃんと教育ママ執事。

「まあ、お互い午後は空くわけだ。しっかりとクエストをこなして経験を積もうではないか」

「ああ」


 初の魔法学校の授業は魔術理論だ。

 ベルリオーズという固そうな教師が担当する。

 初日の内容は魔術の発動の仕組みを簡単に解説したものだった。

 この世界には浮遊魔力と身体魔力の二種類がある。

 浮遊魔力を時間経過とともに吸収し身体魔力として体に貯め込み、身体魔力を消費することで魔術を発動するとのことだ。

 人の魔力量とは一度に貯められる量、燃料タンクと概念づけられる。

 なんとなく予想はしていたものだが、魔術の指南書では発動するための手順しか書かれておらずこういった理論とは無縁だった。

 だが、仕組みは学んでおいて損はないだろう。

 指南書に書かれている術でもバリエーションは豊富とはいえ、オリジナル魔術を編み出すためのヒントとなり得る。

 実際、ワインを作ったときの“醸造”の魔術を最初に思いついた魔術師も、“治癒(ヒー)魔術(リング)”や“筋力強化”の代謝促進に関わる部分から研究したのだろう。

 ちなみに、基礎用語のページにも載っていたことだが、この国の言葉でも魔術と表記される場合と魔法と表記される場合がある。

 語源は諸説あるらしいが、俺は“火弾(ファイヤーボール)”などのある程度の内容や規模が決まっているものを魔術、“身体強化”など使用者のセンスによって千差万別な技能も含む広い意味の単語を魔法と認識している。


 予定より早めに授業は終わりベルリオーズとは別の教師が壇上に立つ。

 シルヴェストルとかいう教頭だ。

 教頭がハゲなのもあるあるだ。

「え~皆さま改めましてご入学おめでとうございます。魔力の基本的な概要を学んだところで、皆さんに配らなければならないものがあります」

 そういってシルヴェストルが一人ひとりに手渡したのは30cmほどの木の棒だった。

「これが今日から皆さんの我が校での必須教材となる杖です。すでに杖を持っている方、魔術を発動するのに杖を使ったことがない方いらっしゃると思いますが、この杖は便利ですよ」

 便利の一言だけ。

 威厳とか権威はいいのか?

「杖は補助道具です。一度杖に込めた魔力を術式に再構築して放出する必要があります。特に魔力結晶を使った杖の場合、その影響が大きいため細かい操作は初心者には難しくなる傾向にあります。実際、軍での用途も一斉射撃で魔術の規模を統一するためのものが多いです。さらに戦闘用の魔術などを発動とするときは、かえって二度手間になり有効に使いこなせる人物は少ないのが現状です。ですが、熟練すれば今までより遥かに精密な魔力操作が可能となります」

 ほかにも一般的に魔力が無いくくりに入る人間でも、微量の魔力を通せるようになる機能があるらしい。

 簡単な魔法薬の作成や魔法陣を作動させるためとのことだ。

 要は、魔剣や魔道具の魔力が無くても使えるようにする機構の部分だけを、切り取ったようなものだ。

 主刃の強度は通常のナイフより劣るが、細かい便利アイテムが多いアーミーナイフのようなものか。

 メインウェポンとしては自分には合わないかもしれないが、これから戦闘以外で魔術を使う際に役に立つ機会があるかもしれない。

 どうやら魔力結晶などは自分でカスタムする仕様らしいので、魔力の縮小、制御に重点を置いた改良をしていくことにする。

 一応、浮遊魔力を時間とともに蓄える、魔力が無い人用の魔力結晶を買い求めるか。

 必要ないかもしれないが、俺の魔力量と妙に威力が高くなってしまう特性を考えると、自前の魔力にこだわって爆発事故を起こすのが怖い。

 そんなことを考えているとフィリップが話かけてくる。

「クラウス、今日はDランクの依頼を受ける方向でよいか?」

 もう授業に飽きてるな……。

 だが、月並みな魔術師の心構えの何たるに話が移行している辺り、重要そうな内容は終わったようだ。

 俺もここは聞き流していいだろう。

「ああ、フォーメーションを確認がてら軽く行ってみよう」

 いきなりCランクに挑んでボスクラスの魔物の群れに追い回されるのは避けたいところだ。

 それに高ランクの依頼には午後いっぱいで終わらないものも多い。

 実際、冒険者の収入は依頼の報酬だけではなく、半分ほどは道中で遭遇した雑魚の魔物の素材の売り上げだ。

「それにしても、この杖が役に立つ日など来るのだろうか? 少し“ファイヤーボール”の規模を大きくするだけでも一苦労なのに、大きさを限定されるなど…」

 どうやらフィリップには火をぶっ放す以外の放出魔術は念頭にないようだ。

「まあ、戦闘時の使用に関しては同感だな。鉱石の採掘にでも使ってみるさ」

 適当に思いついたこと言ってみる。

「無駄よ」

「(ギロッ!)」

「(……またか)」

 レイアだった。

「素手で扱えない魔術を杖で発動することは不可能よ」

「ほう、そうなのか」

 クスクスという笑い声がちらほらと聞こえる。

 もしかしたら常識なのかもしれない。

「だが、それでは本当にフィリップの言う通り使い道が無いのでは?」

「採掘魔術なら最低限、掘り出したものを質量別に分けられることね。そこまでいけば杖で採取と選別をより迅速に行えるわ」

「……そもそもなぜ掘った後に分けるんだ?」

「え?」

 絶句された。

「いや、採掘って普通何が埋まっているか調べてから別々に掘るだろ」

「……つまりあなたは杖もなしに“抽出”ができるってこと?」

 気が付けば教室が静まり返っていた。

 壇上の教師も興味深そうに話を聞いている。

 仕事しろよ。聞いてる奴いないけど。

「抽出……」

「特定の物質だけを選んで採取することよ」

 それはわかる。

「まあ、そうなるかな。そう簡単にできないものなのか?」

「あたしはできるわ。……あたしはね」

 普通の魔術師にはできないということだろう。

「あれ? 杖もなしにって、杖より素手のほうが魔術の習得は先なんだろ?」

「鉱物の抽出は採掘系の魔術をより精密に使うもの。上位魔法よ。一定以上の精密さや制御技能が要求される魔術は、杖を扱えないと普通は発動すら無理」

なるほど、そもそも複雑な魔術は杖がある程度使えることが前提のようだ。

「採掘自体むずかしい魔術なのに……」

 レイアがボソッとつぶやいた。

 いや、勝手にできないものと勘違いしたのあなたですよ、お姉さん。

 しかし通りで採掘に関する解説が基礎魔術教本に少なかったわけだ。


「さて、今日の依頼は……」

 フィリップは冒険者ギルドの掲示板を眺める。

 さすがに午後だと目ぼしい依頼は、すでに専門の冒険者たちに取られてしまっている。

 だが、それでもDランクに炭鉱への道沿いのゴブリン討伐及び武具の鹵獲があった。

「この依頼でよいか?」

「そうだな、ついでに植物でも見てみるとしよう」

「ほかの魔物がいたら潰せばよいだけだしな。はっはっは」

「……言っておくが、やばいのがいたらすぐ逃げるからな」

「ああ、わかっておる」

 この目は絶対わかってない。

 そっと溜息をつきながら俺は依頼の受諾手続きをした。


「ハァ!」

「――“風刃(ウィンドカッター)”」

 街道から少し外れた森の中には、この一帯から絶滅したのではないかと思えるほどのゴブリンの屍があった。

 ほとんどが寸分たがわず喉や心臓を貫かれ、首を切り落とされている。

 今日のフィリップは左腕に小型の盾を付けた籠手も装備していた。

 盾の扱いも巧みだ。

 これなら安心して前衛を任せられる。

 俺も首だけをきれいに落とすように完璧に制御した“風刃(ウィンドカッター)”を放っている。

 最初は大剣を試してみたのだが鹵獲すべき武器まで粉砕してしまった。

 明らかにオーバーキルなので、今回は“風刃(ウィンドカッター)”の効率アップの訓練としている。

 大剣を使ってのフィリップとのフォーメーションは、何度か現れたオーガを相手に試してみたところ抜群だった。

 騎士団に比べれば練度で劣るだろうが、見込みは十分だ。

 第五波あたりまで片づけたところで、風でゴブリンの血の匂いを飛ばすのをやめる。

 魔石や鹵獲したゴブリンの武器とオーガの角を魔法の袋に納め、死体を焼き帰路につく。

「大猟だったな」

「ああ」

「この調子なら次はもっと大物に挑んでも問題なかろう」

「そうだな、オーバーキル過ぎて技を試すこともできなかったしな」

「おーばー……? まあ、言いたいことはわかる。さすがに手ごたえがなさすぎる。貴公、途中で何体か素手で倒してなかったか?」

「まあ、下級の魔物なら素手で仕留めたことは何度かあるから」

 正直なところ、ノッていた。

 このあとのフラグイベントのことなど知る由もない。


 予定より早く討伐は完了し、帰り道は“探査”にヒットした果物を集めながら移動した。

 王都はイェーガー領より南部からの輸送ルートが充実しているため、砂糖がたっぷり流通しており値段も安い。

 幼少期よりため込んでいたフルーツのリキュールや果実酒の製造にも、ぼちぼち取り掛かるつもりでいた。

 ホワイトリカーもどきはジャガイモからどっさり作ってある。

 新しい酒は絶対に売れる。

 ランドルフ商会を通すにしても、自分で売り出すにしてもまず閑古鳥ということはないだろう。

 そんなことを考えながら呑気に歩いていたが、ふと“探査”の見慣れない反応に気付く。

 生命反応は微弱だが闇属性のような魔力が思いのほか高い反応が三つ。

 フィリップにそっと耳打ちする。

「まさか、例のアンデッドか?」

「それにしては数が少ない。斥候か、別物かもしれない」

「アンデッドなのは確実なのか?」

「わからない。見たことないからな」

 俺はごくりと唾を飲み込む。

 前世のゾンビゲームはひたすら射殺していけばよかったが、この世界のアンデッドがどのような存在なのかは知らない。

 一旦、街に引き返して騎士団に知らせるべきか?

 しかし、そんな悠長な作戦は、例の闇反応の付近に多くの生命反応を見つけたことで却下される。

「この反応は……王都の兵士たちだな。なら、くたばる覚悟も……」

「早く言え! 加勢するぞ」

 フィリップが突然、身体強化魔法を使い走り出す。

 微妙に方角が違う。

「フィリップ! そっちじゃない。森の奥の方だ」

「了解だ!」

 こちらも敏捷性を強化して走る。

 前世では警官は市民の盾になって死ぬのも仕事のうちだと思っていた。

 だがフィリップは逆に助けに行くらしい。

「なあ、何故さも当然のように助けに行くんだ?」

「民を守るのが貴族の務めだからだ! よって騎士たちは我が同志も同然」

 同志というより配下じゃないのか?

 まあ、そこまで乗り気なら仕方ない。

 騎士団に恩を売っておこう。

「摑まれ!」

「ぬおっ!?」

 フィリップの腕をつかみ飛行魔法で目的地まで一直線に飛ぶ。


「うぇ……」

 着地と同時にフィリップが口を押える。

「吐くのは後だ」

 フィリップに“ヒーリング”をかけ、物陰に隠れながら目標地点に接近する。

いた。

 見た目はデビルコヨーテのようだが、明らかに普通じゃない闇のオーラを纏っている。

 騎士の多くは負傷しており元気なのは銀髪の二刀流の騎士だけだ。

 フィリップに対処法を相談しようとするが、三匹のコヨーテはすでに攻撃モーションに入っている。

 作戦会議の時間すらない。

「先手必勝」

 クロスボウで先頭のコヨーテを狙い撃ちする。

 鋼鉄の弓から放たれた矢はすさまじい速度で飛びコヨーテの鼻から後頭部を貫き、同時に残った二匹が跳躍する。

 銀髪の騎士は一瞬気が逸れたがすぐに近くの味方をかばう位置につく。

 治療を受けている騎士に飛び掛かろうとしたコヨーテが銀髪の騎士に切り裂かれた。

 残った一匹は俺が大剣で両断した。

「お前たちは?」

「礼ならうちの伯爵様に」

「クラウス! まだだ!」

 見ると真っ二つになったコヨーテが再生している。

 どうやら物理攻撃は無効らしい。

 武器が無事なのが幸いか。

「フィリップ、どうすればいい?」

「聖魔術は使えるか?」

 浄化系の魔法は実家の魔術教本には載ってなかった。

「いや、無理だ。ほかに方法は?」

「火を使え!」

 銀髪の騎士が言った。

「聖属性より効果は低いが、火も威力が高ければ効く」

 即座に中級火魔術“炎波(フレアウェーブ)”を放つ。

「ぐぎぇぁああぉぉぉ~!!」

 手加減はしていなかったためコヨーテの断末魔とともに、前方が放射状に更地になった。

 ちょっと、やりすぎたかもしれない。

 だが、救出作戦は成功したので問題ないだろう。

 振り返ると予想通りの反応。

「な、何だこりゃ……」

「……はあ、さすがだ、クラウっ……おぇぇ……」

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