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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編3年(家臣編)
148/232

148話 強敵、再び6


 ダメージを受けたロベリアを攻め切ろうとした俺は、またしてもボルグの横槍に対処することを余儀なくされた。

 しかし、この男も既にボロボロのはずだ。

 治癒魔術で応急処置はしたようだが、既に出力は完全に俺の方が上回った。

 それでも俺が仕留めきれないあたり、この連中の恐ろしい技量がよくわかる。

 こっちも二対一の消耗は激しいので、これ以上の長期戦は遠慮したい。

 もう一段階、俺はスロットルを上げて攻勢に出た。

「がっ!」

 鍔迫り合いで押し込むと同時にローキックで牽制し、ボルグの額に頭突きをぶち込む。

 向こうはロングソードで切り払いつつ後退するが、俺はしっかりと魔力を溜めてから地面を蹴った。

「“雷幻ライトニングミラージュ”――“業火(ヘルファイア)”」

 “雷幻ライトニングミラージュ”の本家はトラヴィス辺境伯の依頼で戦ったベヒーモスだ。

 目眩ましと包囲攻撃がセットになった技で、数条の“落雷(サンダーボルト)”を全方位から飛ばし、俺自身も雷に交じって、相手の死角から襲う戦法である。

 強化魔法によって体に纏う魔力が雷属性だからこそできる技だ。

 これはボルグも予想できない攻撃だったようで、紫電を纏いながら接近した俺の大剣は、ボルグの左上腕を深く抉った。

「ぐぬぉ! おのれぇ!」

 しかし、さすがは歴戦の『黒閻』の幹部。

 ダメージを無視してロングソードを振り上げ、強引に突っ込んで追撃した俺にカウンターを放ってきた。

 数合打ち合ったが、俺が再びボルグの腹にキックを入れて吹き飛ばすまでに、こちらも防御の手を緩めた分の反撃を食らった。

 ガルヴォルンのハーフアーマーには数か所の剣が掠った痕が残され、上腕もベヒーモスローブを貫通してこそいないものの強かに打たれ、防具の無い膝上辺りを浅く斬られている。

 魔道具か魔術かはわからないが、ロベリアは影とは別の魔法障壁を展開して、俺が同時に発動した上級火魔術を防御していた。

「もういっちょ……“落雷(サンダーボルト)”――“紅蓮地獄クリムゾンインフェルノ”」

 ボルグが飛び込んだ辺りに、追撃の魔術を連続で打ち込んだ。

 先ほどの炸裂“火槍(フレイムランス)”の絨毯爆撃と同様に、仕留められた手応えは無いが。奴のダメージもゼロではないはずだ。

 一旦ボルグの深追いは止め、防御態勢を解除したロベリアに襲い掛かる。

 魔力を溜めて肩越しに担ぐように大きく振りかぶった大剣を、そのまま振り下ろそうとしたが……。

「――“影枷(シャドウバインド)”」

 俺の攻撃を凌ぎつつ、じっくりと好機を窺っていた、ボルグの攻撃だ。

 俺の火力を重視した魔術の連発に合わせることで、自分の魔術の魔力反応を隠蔽し、完璧な制御で俺に放ってきたわけだ。

 残念ながら、対人戦の小細工における技術に関しては、俺よりも『黒閻』の方が上だ。

 ボルグの発動した闇魔術のうねりが、俺の右腕に絡みついて大剣を封じる。

「もらった! ……っ!」

 ロベリアのタイミングは完璧だった。

 間髪入れず放たれた細剣の一撃は、ボルグに足止めされた俺の喉を貫いて、そのまま延髄を破壊して貫通するはずだった。

 しかし、彼女は一つだけ誤解をしていた。

 俺は生粋の剣士ではない。

 何があっても剣を手放さないだの、死んでも背中は見せないだの、そういったポリシーなど無いのだ。

 俺はボルグの阻害用の闇魔術が絡みついた右手から大剣を離し、そのまま強化魔法の出力を上げて、触手の拘束を強引に引き千切った。

 大剣を手放した分、腕を振るスピードはさらに上がる。

 そのまま拳を握ってフックを放ち、ロベリアの剣を横から殴って弾いた。

 ドラゴンボーン鋼の手甲とロベリアの魔剣が打ち合わされ、硬質な音を響かせる。

 俺のダメージといえば、掠ったロベリアの細剣の剣先で、ガルヴォルンの鎧とベヒーモスローブに、もう一つ傷を付けられたことだけだ。

「っ!」

 反撃はそれだけでは終わらない。

 右のパンチに合わせて捻った上半身の勢いを利用し、俺はそのままローキックを放つ。

 スピード型の剣士だけあって、ロベリアはどうにか脚の骨を砕かれるのを免れた。

 しかし、さらに踏み込みながら抜き放ったオリハルコンサーベルの居合い斬りは、躱すことなく剣で防御した。

 後方への二段回避は不可能だったからだ。

 ロベリアは細剣を弾かれた衝撃で重心のバランスを崩しており、先ほどのローキックも膝を掠ったのでダメージはゼロではない。

 そのままパワーの優位を利用して鍔迫り合いで押し込み、さらにロベリアが足腰の安定を崩したところで、サーベルを滑らして右の肘打ちを彼女の側頭部に叩き込む。

「ぎぃっ!」

 ロベリアも回避行動を取っていたのでクリーンヒットにはならなかったが、眼窩にひびを入れる嫌な音が俺の耳にも伝わった。

 危険を悟った彼女はどうにか離脱しようと試みたが、俺は既に左手でデリンジャーを掴み出していた。

「っ! ひっ……」

 俺はハンマーを起こしてロベリアの眉間に狙いをつけ、重いトリガーを絞り落とす。

 寸法は実銃に近い感覚で作ったので、弾丸も22口径と小さく、威力も最低限だ。

 しかし、至近距離で急所に命中させれば、人間など簡単に死ぬ。

 あの影を操る魔術が間に合うはずもない。

「ちっ」

「ぐぅ!」

 それでもロベリアはしぶとく、全身を投げ出すようにして俺の銃弾を躱した。

 追撃で放った回し蹴りは、ロベリアの頬にヒットして折れた歯を数本吐き出させたが、そのまま転がるようにして距離を取られた。



「――“風刃(ウィンドカッター)”――“氷結(フリーズ)”――“爆破(エクスプロージョン)”」

 ボルグは俺が大剣を手放している今が好機とばかりに、牽制の細かい魔術とともに後ろから斬り掛かってきた。

 しかし、奴も既に満身創痍。

 その剣にいつもの鋭さは無い。

 “風刃(ウィンドカッター)”を切り払った後でも、ボルグのロングソードは簡単に受け止められた。

 足元の氷は魔力を込めた蹴りで砕き、地面を蹴って前進することで爆炎の中心から脱出する。

 ベヒーモスローブのお陰で、黒焦げになるのは免れた。

 強化魔法を発動しながら踏ん張れば、爆風もどうということはない。

 少し髪を焦がされてローブが煤塗れだが仕方ないな。

 数合の打ち合いでボルグを弾き飛ばすと、そのまま横の闇魔術に絡めとられていた大剣を左手で拾い、後ろのロベリアに向かって振り抜く。

「っぐぅ!!」

 脚にもダメージが影響しているロベリアは、完全に回避が遅れた。

 慌てて魔道具と細剣で防御を試みるが、俺のフルパワーの魔力剣による一撃は生半可な防御では防げない。

 ロベリアの魔剣と思わしき細剣は、刀身の真ん中辺りで綺麗に断ち切られた。

 ついでに自分の武器の破片に顔を切り裂かれて、ロベリアは顔を歪めて苦悶する。

「くっ……ロベリア! お前は撤退を……」

「――“ペインバースト”」

「なっ!?」

 俺はボルグに向かって闇魔術を発動した。

 傷の痛みを増幅する、拷問にしか使えないと思っていた魔術だ。

 二年前は戦闘中にボルグに使われて、俺は敗北寸前まで追い詰められた。

 今度は俺がボルグの動きを阻害するために役立てた。

 因果なものだな。

「くっ……早く行け……がっ!!」

 ボルグは不利を悟って逃げ腰になるが、それ故の注意散漫さが彼にさらなる悲劇を齎すこととなった。

 後ろから襲い掛かる魔力の剣閃に対処できなかったのだ。

 背中から血を噴き出しながら苦悶の表情を浮かべる。

 今の一撃の痛みも“ペインバースト”で増強されているのだろう。

「へっ、後ろがお留守だぜ」

「貴様……オレの……」

 剣閃はマイスナーの魔剣によるものだった。

 間髪入れず、俺の大剣がロングソードを握るボルグの右腕を切り飛ばす。

「ぁがぁぁ!」

 流れるような動作で横薙ぎのサーベルを放つと、今度は左腕の肘の辺りに命中した。

 ボルグは残った左上腕で抵抗しようとしたが、俺は返す刀で喉に向かって刺突を放つ。

 致命傷は回避されたが、サーベルはボルグの左肩に突き刺さった。

 ついでに、今度は躱す余裕の無いボルグの左脚に、膝を踏み折るタイプの右ローキックをお見舞いした。

 ボルグの膝が逆関節であり得ない方向に曲がり、脚から崩れ落ちた。

 サーベルを離した右手でボルグの髪を掴み、顎に膝蹴りを入れ、左手に持った大剣の柄を鼻にぶち込む。

「っぶげぇ!」

 鼻梁を破壊されたボルグは、仰向けに倒れた。

 ボルグの左肩を貫通したオリハルコンのサーベルは、その体を地面に縫ける形になる。

 そのまま止めを刺そうと思ったが……俺は背後で魔力がうごめく気配を感じ、“倉庫(ストレージ)”からAKMを抜き出すと、振り向きざまにトリガーを引いてフルオートでライフル弾を連射した。

 強化魔法があれば、反動の強いAKMのフルオートでも片手で制御できるのだ。

「っぎゃぁぁぁあああぁ!!」

 数発の7.62×39mm弾がロベリアの体に着弾する。

 胴体に数発、二発は顔に向かい下顎と目を吹き飛ばした。

 しかし、三十発のマガジンを撃ち終わる頃には、ロベリアは霞のような魔力の奔流とともに消えてしまう。

「くそっ」

 俺がAKMを発砲したときには、既にロベリアは何かの塊を地面に叩きつけていた。

 腹が立つことに、今回も『黒閻』の幹部に転移の魔道具で逃げられたようだ。

 恐らく、ロベリアは生きているだろう。

 本来なら、この距離の人体標的への射撃はほとんど外さない。

 三十発もアサルトライフル弾を撃ち込めば、さすがのロベリアもくたばるはずだった、

 しかし、先ほどは影か靄のようなスモークを張られ、十発も命中しなかったのだ。

 あの女の防御にも使える闇魔術は厄介だ。

 こうなったら、何としてもボルグだけは仕留めなくては。



「くっ……」

 俺が振り返っても、ボルグは逃亡していなかった。

 まあ、既に両手が無いので、魔道具を取り出すこともできないのだろう。

 しかし、こいつは捕縛や生け捕りを試みられる相手ではない。

 今も必死に左肩に刺さったサーベルを、左の上腕だけで抜こうともがいている。

 近づく俺を認めると、ボルグはなおも攻撃を仕掛けてくる。

「――“影討(シャドウリベリオン)”」

 それはもう見た。

 俺は自分の影から生えてきた突起に、魔力を込めた大剣を突き立てた。

 二年前には苦しめられた魔術も、魔力量に物を言わせた火力で吹き飛ばせることはわかっている。

 闇魔術を構成する魔力は、俺の大剣を通して凝縮する雷の魔力の奔流に呑み込まれ姿を消した。

 俺は地面に突き立てた大剣を放置し、後退って逃げようとするボルグへさらに近づく。

 先ほどのローキックで折った方とは別の脚を踏み潰して、ボルグの動きを完全に止めた。

「ぅぐっ……」

「終わりだ」

 俺は“倉庫(ストレージ)”から空いた左手でデュランダルを取り出した。

 不滅の刃の名を冠する、最強の耐久力を持った両手剣だ。

 俺はボルグを足で押さえたままデュランダルを振り上げて肩に担ぐように構える。

「ぐっ、“魔法障壁(マジックシールド)”」

 振り下ろされた俺のデュランダルは、重厚な音を響かせながら目の前の敵に叩きつけられた。

 障壁によって軌道を狂わされたが、それだけで二メートルを超える巨大な魔剣の刀身を止めることはできない。

 刃は横一文字にボルグの胸辺りに吸い込まれ、ついに宿敵の体を斜めに断ち切った。


どうにか戦闘終了です。

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