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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編3年(家臣編)
146/232

146話 強敵、再び4


 俺が騎士を人質に取っていた男たち全員をヘッドショットすると同時に、フィリップとマイスナーが地面を蹴って剣を振るった。

 フィリップのレイピアがロベリアに向かい、マイスナーの二振りの魔剣がボルグに襲い掛かる。

「私の婚約者に傷を負わせた罪……その命で購え!」

「けっ」

「オラァ! どうした、ボルグ! 今度の相手はイェーガー将軍だけじゃねぇぞ!」

「ぬぅ」

 奇襲が成功したことで、フィリップもマイスナーも一時的に優勢になり、相手を抑えている。

 俺は身を潜めていた物陰から姿を現すと、隠形のローブを魔法の袋に仕舞った。

 周囲の浮遊魔力への影響を抑えて気配を消す便利な魔道具だが、ベヒーモスローブの上に羽織るので、正面切っての戦闘の際には邪魔になる。

「クソどもが……今度は生かして帰さん」

 俺はP226のマガジンキャッチボタンを押して空のマガジンを抜き取ると、グリップの底面から予備のマガジンを叩き込んだ。

 ホールドオープンしたスライドを前進させ、マガジン内の初弾をチャンバーに送り込む。

 しかし、その頃には先ほど頭を撃ち抜いた男たちが、靄によって回復し始めていた。

 ぴくぴくと手足を動かし、中には上半身を起こしかけている者も居る。

 止めを刺すのは聖属性だったな

「レイア! 浄化を!」

「っ! ――“聖域(サンクチュアリ)”」

 レイアが発動した広範囲型の聖魔術で、俺が制圧した男たちは闇属性の魔力を爆ぜさせながら活動を停止した。

「くそっ! やっぱり使えない奴らだね」

 フィリップの猛攻を凌ぐロベリアが、ただの物言わぬ屍になった男たちを見て罵った。



 ロベリアとボルグには、それぞれフィリップとマイスナーが向かっている。

 今問題なのは、あの妙な触手の生えた渦の上に縛り付けられたメアリーか。

 俺は柱を叩き折って救出しようかと思ったが、レイアの近くに倒れていたファビオラが飛び起きて先にメアリーのもとへ向かった。

「ちぃ!」

 マイスナーを蹴り飛ばして距離を取ったボルグは、ファビオラが救出を試みるメアリーの方を横目で確認すると、懐から魔法陣のような紙を取り出した。

 ボルグが紙を引き裂いて捨てると、何かが凝縮されたというか抑え込まれていたような魔力が弾ける感触を覚える。

 あの動作の意味など俺にはわからないが、ロクでもないことなのは確かだ。

 案の定、次の瞬間にはメアリーの足元の黒い渦が肥大しながら触手を伸ばし始めた。

「あ! ファビオラ、ダメよ!」

 レイアの慌てた声を尻目に、俺は横合いからボルグに斬り掛かった。

 悪いが、魔法陣や錬金術に関しては、俺はレイアの足元にも及ばない。

 あの渦自体はレイアに任せて、俺は術者の方を攻撃した方がいいだろう。

 既に俺は“倉庫(ストレージ)”から大剣を取り出しており、雷の魔力で切れ味が大幅に強化された真・ミスリル合金の刃は、唸りを上げながらボルグを襲った。

「ぬうぅぅぅ!」

 さすがにデ・ラ・セルナと互角以上にやり合っていた強敵だけあって、ボルグは俺の一撃に反応して防御態勢を取った。

 しかし、ベヒーモスの外皮すら切り裂く俺の魔力剣の火力は半端ではない。

 今回の俺は毒針や闇魔術も食らっておらず、二年前よりも魔力と剣の扱いに熟練し、武器の性能も上がった。

 腕力でも完全に上回った俺の攻撃は、ボルグのロングソードにひびを入れながら持ち主にも威力をしっかりと伝導する。

 衝撃を殺しきれなかったボルグは、茂みに向かって吹き飛んだ。

「ぐっ!」

 ボルグが背中から激突した木が鈍い音を立てながらへし折れたが、奴はこの程度でくたばるタマじゃない。

 そのまま俺は左手をかざして魔力を収束する。

「“プラズマランス”……並列起動――“火槍(フレイムランス)”」

「っ!」

 止めとばかりに打ち込んだ数万度の光の槍に、追撃で百発ほどの炸裂ミサイルを放ち周辺一帯ごと絨毯爆撃してやった。

 比較的近い距離に撃ったので、ホワイトアウトしそうな閃光と共に、一瞬だが耳鳴り以外の音を認識できないレベルの轟音が生じる。

 数百メートル四方の街が作れそうなほどの範囲の森が、一瞬で瓦礫と土埃に覆われた更地になった。

「わぷっ」

「くっ……」

 マイスナーとレイアが顔を顰めるほどの爆風と砂煙だが、ここまでやってもボルグの魔力は消えていない。

 奴はまだ生きているだろう。

「なっ、ボルグを「よそ見をするな」っ!」

 息の根を止めずともボルグが圧倒された光景を見て、ロベリアは一瞬フリーズした。

 ロベリアはフィリップの刺突への対処が遅れ、慌てて体を浮かせて衝撃を逃がしつつ細剣で防御はしたものの、フィリップのレイピアは防ぎ切れない。

 ロベリアは刺突の衝撃をもろに吸収し、そのまま後ろへ吹き飛んだ。

 フィリップのレイピアが掠ったようで、肩の防具の一部が破損している。

「ちっ、舐めるんじゃ……ひっ!」

 当然、その隙を見逃す俺ではない。

 俺は一旦ボルグの深追いを中止し、空中のロベリアに斬り掛かった。

 先ほどボルグに放った初撃よりも雷の覚醒魔力を大きく溜めた、横薙ぎのフルスイングだ。

 踏み込みと同時に空間ごと切り裂くように振るわれた刀身から、数十メートルの射程を持つ雷の剣閃が放たれる。

 魔力剣の斬撃はバリバリと紫電をスパークさせながら、重低音を轟かせてロベリアと後方の倉庫に着弾した。

 フィリップと息を合わせたコンボだ。

 雷の刃は倉庫をズタボロにしただけでは飽き足らず、後ろの森の木々も何本か切り倒している。

 しかし……。

「……っはぁ……ぜはぁ……………………くそっ……何なんだい、こいつは……」

 ロベリアは俺の一撃をギリ躱していたようだ。

 こいつの姿はしっかり捉えて狙いすまして打ち込んだはずだが……。

「また魔道具か。いくつ持っておるのだ……」

 フィリップがぼやいた。

 どうやら、幻影か何かで回避する魔道具を使われたようだ。



「ファビオラ! ああ、何て……」

「下がれ! がっ……」

 レイアの悲痛な声とマイスナーの鈍い呻き声に、俺たちは振り返った。

 見ると、レイアがメアリーとファビオラを介抱し、三人をマイスナーが黒い触手の塊から庇っていた。

 あの黒い物体はメアリーの足元に居た化け物か。

「マイスナー大尉!」

「っ! おう!」

 俺が呼び掛けると、マイスナーは触手との押し合いを止めて後退する。

 俺は後ろから渦の化け物を魔力剣で一撃する。

 完全に入った。

 俺の放った雷の刃は、触手に接触することすら無く、渦の中心に着弾した。

 追撃とばかりにマイスナーが魔剣から剣閃を飛ばす。

 しかし……渦の化け物にはまるで堪えた様子が無い。

「あ、ダメよ! そいつは魔力も喰らってしまうわ」

 何と!?

 それはまた面倒なことだ。

 しかし、それよりも問題なのは……。

「……メアリーさんは、助け……づぅ!」

「ファビオラ! 動かないで! できる限り治療する……」

 ファビオラの右手が無くなっていた。

 まるで、大型の猛獣か魔物に食いちぎられたように。

 痛々しい傷だが、あの渦にやられたのか……。

 レイアが慌てて治療を試みている。

 見た限り血は止まっているようなので、彼女に任せておけば大丈夫か。

 メアリーもファビオラが縄を切って無事に助け出したようで、ファビオラと同じくレイアの近くに横たわっていた。

 今も気を失ったままだが、目立った外傷は無い。

 俺はひとまず敵の対処に集中することにした。

「あれは?」

「『冥界の口』という闇の錬金生物らしい」

 フィリップに聞けば、あの渦のような化け物の名前が出てきた。

 詳細は後で聞くとして、まずはあのおぞましい生き物を倒し、『黒閻』の幹部二人を始末しなければならない。

「フィリップ、渦の方は任せた」

 あの渦も、闇の生き物ということは、聖属性の覚醒魔力を持つフィリップが適任だろう。

 魔力を吸うらしいが、聖属性が使えず魔力剣を主な攻撃手段とする俺よりは、フィリップの方が役に立つはずだ。

「貴公は?」

「俺はな……」

 俺はフィリップに答えつつ、体に纏った魔力から紫電を迸らせながら前を向いた。

 視線の先には強大な敵対組織の幹部が二名。

 復帰してきたボルグは、血の気が失せてローブも所々破れており、愛用のロングソードにもひびが入っている。

 ロベリアは冷や汗を垂らしながらも虚勢を張った笑みを浮かべているが、土埃に塗れて防具が破損している。

 満身創痍のはずだが、この二人は桁違いの強敵だ。

 この連中による被害は王国だけに止まらない。

 何としても、息の根を止めなければならない相手だ。

「ゴミ掃除だ」



 倉庫の瓦礫が散乱する中、俺がボルグとロベリアに向かって歩を進めると、二人も剣を構えた。

「へっ、舐められたもんだね。あたいらを一人で相手にするってか」

「小僧……」

 俺はゆっくりと二人を見据えた。

 ボルグと相対するのはこれが二度目で、ロベリアと顔を合わせたのは初だ。

 しかし、間接的なものも含めたら、この連中が齎した損害は数えきれない。

 デ・ラ・セルナの言っていたことが確かなら、こいつらは世界征服的な野望があるヤバい集団で、封印されている首領イシュマエルの復活のために災厄をばら撒く。

 名前こそ判明しているものの、神出鬼没で正体不明、国家や司法による追跡が意味を成さない凶悪な存在。

 それも、権力と癒着して保身を固める類の巨悪ではなく、生粋の悪党として指名手配されながら、正攻法で追跡者を撃退してくるような連中だ。

 俺の前に幾度となく立ちはだかる敵。

 倒さなければならない敵だ。

「数千の魔物の誘引による王都襲撃、デ・ラ・セルナ校長の暗殺、ミアズマ・エンシェントドラゴンの解放、王国全体に蔓延しかけた『フェアリースケール』」

「あん?」

「…………」

 俺が魔法学校の1年生だったころから、『黒閻』によって引き起こされた数々の事件。

 ロベリアはとぼけた顔をしながら鼻で笑い、ボルグは沈黙を保っているが、全て王国全体を揺るがすほどの出来事だった。

「お前たちは厄介すぎる。生かしておけば、必ず俺たちに牙を剥く」

 メアリーの誘拐然り、ファビオラの腕然り。

 この連中の所業には、俺たちは散々な被害を受けてきた。

 最早、理解し合うことなどできない。

「ここで、二人とも始末する」

 俺は明確な殺気を以って二人を睨みつける。

 虚勢を張った笑みを浮かべていたロベリアも、沈黙を保って俺の隙を窺っていたボルグも、臨戦態勢になって剣を構え直した。

 二人の体にも、魔力が漲って循環を始める。

「っ! へへっ……面白れぇ……。やってみな、お坊ちゃんよぉ!」

「貴様はイシュマエル様の覇道を阻む者……死んでもらう」

 ロベリアの細剣の刺突にボルグのロングソードによる袈裟斬り、そこに俺の魔力剣の横薙ぎが交差した。


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