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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
14/232

14話 魔術実演

 翌朝、食堂でフィリップを見つけた。

 同じテーブルの少女と談笑している。

 リア充爆発しろ。

「おはよう、クラウス。何を睨んでおる? 早くテーブルにつくがよい」

「……俺は邪魔じゃないのか?」

「邪魔なわけがないであろう」

 オーケー、どうやらナンパ中ではないようだ。

 許して進ぜよう。

 ふと少女のほうを見ると、こちらのほうを興味深そうに見つめている。

 どこかで会ったような気もするが、もちろんそんな口説き文句のようなセリフは吐かない。

「紹介しよう。彼女はメアリー、商店街の武器屋のお嬢さんだ」

 思い出した。

 あのアンという少女に似ているのだ。

「そうか、アンのお姉さんか」

「あら、妹を知っていますの? あの子あんまり店の奥から出ないのに」

 間違いなさそうだ。

 社交性は姉のほうに全部持ってかれたな。

「ああ、魔剣を作るのを手伝ったんだ。申し遅れた、クラウス・イェーガーだ」

「あら、あなたが例のバカみたいな魔力量のお兄さんですのね。メアリーですわ」

 あの子はどんな説明をしたんだ……。

 それにしてもアンとメアリー。

 実在の海賊のような名前だ。

 あの親父さん、本名はエドワードとかじゃないよな。

「それにしても、二人ともすごいですわね。魔術実演をやるまでもなく特待生だなんて」

「まあ、これから受ける実演試験で撤回される可能性もあるけどね」

「いや、それはない」

 俺の冗談をフィリップがまじめに訂正する。

「この学校は主に王国からの援助で成り立っている。一般生徒の授業料に頼る部分が少ないからこそ大勢を平等に受け入れることができる。同時に入学者の数は援助額に比例し、風聞の悪化は受験生の減少につながるので学生に不利益を大っぴらに被らせたりはしない。王都に限らず、大都会の魔法学校はどこも似たようなものだ」

 すばらしいシステムだ。

 前世の、授業料で職員を食わせておいて教授陣の見栄のために平気で学生を留年させ放校する大学にも見習ってほしいものだ。

 それにしても、ほかの大都会であっても共通の常識か。

 そんなことも知らなかったのは……当然か。

 イェーガー領に一番近い都会は王都、それ以外は間に街なんか無いものな。

 朝食を片づけた俺たちは、それぞれの場所へ向かう。

「ではわたくしはガイダンスに行きますわ。魔術試験、頑張ってださいまし」

「ああ、それじゃ」


 昨日のグラウンドにはいくつかの木製の的や岩などの障害物が設置されていた。

「魔術実演ってようは攻撃魔術の披露なのか?」

「攻撃魔術、成形、天候操作なんでも構わない。私は強化魔法で岩を一撃というところだな」

 いかにもフィリップらしい。

「強化魔法もいいのか? 実演という形式上いささか不利な気もするが……」

「心配いらん。それと分かるほどの効果なら問題は無いはずだ。私は放出系の魔術は苦手だからな」

「ずいぶんと単純なのね」

「むっ!」

 そこには昨日の“氷壁(アイスウォール)”の少女がいた。

 今日は昨日と違い七つの魔力結晶がついた杖を持っている。

 なるほど、これが彼女の本来の武器か。

「確か……レイアだったな」

「今日はあなたの本気の魔術が見られるのかしら?」

「どういう意味かな?」

「魔術の真髄はその制御にあるの。精度然り、射程然り、同時展開然り。ただ強力な術を放てればいいわけじゃないわ」

 それはそうだろう。

 事実、昨日の模擬戦でもこのグラウンドで“紅蓮(クリムゾン)地獄(インフェルノ)”などの戦略級の火魔術を放つわけにはいかなかった。

 昨日の模擬戦でフィリップに牽制で撃ち込んだ適当な“水弾(ウォーターボール)”がご不満なのだろうか?

 魔力制御に一家言お持ちのこのお嬢様には、説教したいところがあるのかもしれない。

「ちなみに、私は七つの魔術の同時展開ができるわ」

 と思ったら自慢と来た。

 どうやら杖の魔力結晶に無駄はないようだ。

 とりあえず褒めておく。

「ほう、それはすごい。俺はせいぜい三つか四つだな」

「っ! 楽しみにしてる」

 そう言ってレイアは去っていった。

 心なしか後ろ姿に覇気がないように思える。

「おい、クラウス。それは本当か?」

 振り返るとフィリップが目を丸くしていた。

「何が?」

「同時展開だ。できるのか?」

「うん? まあ、片手で二つずつしか使ったことはないが」

 実際の戦闘では片手は剣を持っていることが多いので、せいぜい最大三つだろう。

 しかも剣を持っている手では制御をしにくいので、精密な狙撃などを行うことは難しい。

「いや、それでもすごい。同時展開ができる魔術師は滅多にいないぞ」

「そうなのか?」

「ああ。同じ魔術の並列起動は連射の延長のようなものらしく、そこそこ魔力量のある魔術師ならばできる者もいると聞くが、異なる魔術の同時展開は違う。七つもできたら天才だ。だがどうやら貴公に鼻っ柱をへし折られたようだな。魔術特化ではない貴公にもできてしまったとあっては形無しだ」

 逆効果だったようだ。

 イェーガー領にいたころから、系統の違う魔物を同時に相手取ったときには同時展開を実践してきた。

 しかし、実戦では敵は詠唱や制御の間、待ってはくれない。

 幼少期の冒険が常にソロだったことも原因ではあるが、有効な同時展開がせいぜい片手二つずつだったことも必然といえるだろう。

「ん? よくよく考えれば実戦では七つも使えたところで大して意味は無くないか? 真髄云々とかいうわりに的外れな自慢……」

「そう言ってやるな。実戦では役に立たないからこその自己満足だろう」

 なかなか辛辣な伯爵様だった。

「なるほど、それで今日は突っかからなかったのか」

「うむ、金持ち喧嘩せずというわけだ。私に挑めば杖を構えるまでもなく串刺しだしな」

 ビバ、正面突破。

 フィリップは平常運転だ。


 フィリップは宣言通り目にも留まらぬ速さの刺突で岩を砕いた。

 レイアはしばし杖を構えた後、“火弾”、“氷弾”、“岩弾”、“光弾”などの七種類の魔術を放ち、的にまばゆい光が降り注いだ。

 しばらくして俺の名が呼ばれる。

「(おい、あいつだぜ。クラウス・イェーガー)」

「(剣の申し子、オルグレン伯爵に勝った奴か)」

「(あの戦いはすごかったな)」

 注目されてますな。

 どうやら、昨日のフィリップとの模擬戦を覚えているらしい。

 ほかの学生の実演を見ているうちに何を使うかは考えておいた。

 披露するのは無詠唱、即応性、威力、そして三つを同時展開だ。

「ぶったまげろ」

 俺は右手を上げると同時に左手を振り抜いた。

 左手に集中した魔力ではすべての的を“(アイス)(ランス)”で貫き、左の大岩にわざと大回りで通常より溜めた“竜巻(トルネード)”を放ち地面ごと岩を切り刻んだ。

 右手では“熱線(サーマルレイ)”を岩に放ちドロドロに溶かす。

 どれも中級魔術だが威力は一般的な魔術師のものとは桁違いだ。

 振り返るとほとんどの生徒が戦慄の視線を向けていた。

 レイアも例外ではなく口を半開きにしている。

 フィリップだけは「感心した」というような表情だ。

「うむ、思った通りすばらしい腕だな。これだけ強力な魔術を無詠唱で正確に放てるとなれば、剣士にとっては理想的な後衛だろう」

「それはどうかな? 詠唱の時間を気にしなくていい分、前衛に回されそうだがな」

「ええ、そうね」

 レイアだ。

 口調はいつも通りだ。

 すでにショックからは立ち直ったらしい。

「あなたなら前衛も務まるでしょうね」

「そりゃどうも」

「でも、ベテランの冒険者パーティでもあなたほどの魔術師はそうはいないわ」

「…………」

 だから視線が痛いんですよ、お姉さん。

「ふん、やっとわかったようだな」

「……あなたくらいの剣士は珍しくない」

「むっ!」

 また始まった。

 もう止める気すら起こらなかった。


 その日の夜、夕食を終えた俺とフィリップの姿は冒険者ギルドにあった。

 あの後のガイダンスでは制服の採寸や教材の配布などが行われ、魔術実演の試験を受けていたせいで夕食前に時間が取れなかったのだ。

 いつぞやのエルフの受付嬢に声をかける。

「すみません、パーティ登録をしたいのですが……」

「はい、パーティ登録ですね。こちらの用紙にご記入ください」

「どうも」

 紙を受け取る。

「パーティについてご説明いたしましょうか?」

 フィリップの方を振り返ると頷いている。

 一応聞いておけということなのだろう。

「お願いします」

「はい、冒険者のパーティ制度は協力して依頼を達成するためのシステムです。主にCランク以上の強力な魔物の討伐依頼などに臨む場合、パーティを組むことを推奨します。ギルド側から課す規約は、報酬の平等な分配とリーダーの任命義務だけです。受けられる依頼のランクはメンバーの最大ランクです。達成ポイントのカウントはメンバーのランクと受けた依頼の内容によって適正に経験値として分配します」

 最後のほうは曖昧だが、特にランクアップを急いでいるわけではないので問題ないだろう。

 フィリップが登録用紙に記入する。

 さすが中央の貴族だけあって達筆だ。

 だが書き始めた内容がおかしい。

「フィリップ、なぜリーダーが俺なんだ?」

「何か問題あるか?」

 大ありだ。

「君の方がランク高いじゃないか」

 おまけに貴族。

 しかも当主!

「別に最大ランクの人間がリーダーとは決まってない。そもそもリーダーとは代表者のことだ」

「なら尚更、君の方が……」

「多くのパーティのリーダーは、交渉が得意な者や見栄えのする者が務める。だが我々は冒険者の中では若輩者だ。少しでも舐められないためには貴公が務めるのがよい」

 雑用を押し付けられただけのような気がするが、気にしないことにした。

「パーティ名はどうする? リーダーを押し付けた詫びだ。貴公が好きに決めよ」

 それもあんたが面倒くさがりなだけだろ、伯爵様よ。

「……『カタストロフィ』で」

「……ふむ」

「どうせ君も例のアンデッド事件と無関係でいる気はないだろ? もし背後にいるのが本当にカタストロフィなら釣れるかもしれない。本物でないのなら、あらぬ疑いをかけられて迷惑しているはずだ。俺たちが善行を積んでやろう」

 ここに来るまでにフィリップがアンデッドの件を気にしていることは聞いている。

「ふむ、情けは人の為ならずというわけだな」

 そう言ってフィリップは見事な飾り文字?のようなサインでカタストロフィと記入した。


 寮の自室に戻ると部屋には採寸の終わった制服が届いていた。

 制服といっても黒いローブだけだ。

 さすが魔法世界。

 処理速度が段違いだ。

 それに、このローブには何と温度調節機能までついているらしい。

 何度も言うが、さすが魔法世界だ。

 明日は入学式と初授業だ。

 授業なるものに縁が無くなって久しい。

 この世界の授業とはどんなものか、年甲斐もなく興奮でなかなか寝付けないのであった。

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