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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編1年
13/232

13話 入学試験

新キャラ出ます。

 俺が王都魔法学校のことを知ったのは、商隊が持ってきたパンフレット?だった。

 彼らは生活物資だけでなく書物や現代でいう広告雑誌のようなものまで持ち込んでくる。

 とはいえ、俺が得た情報は試験日時と集合場所、5年制であるということくらいだった。

 前世なら公式ホームページで見れる程度の情報すら入手できない。

 入学試験で落とされる人間などほとんどいないということも、王都の宿屋ワイバーン亭の女将さんに聞いて知ったほどだ。

 ネットのない時代の田舎者といったらこんなものかとは思うが、前世で情報からの隔絶を経験したことのない身としては辛いものがあった。


 前世の癖で集合時間のだいぶ前に到着した。

 ホ○ワーツのような湖上の城ではなく、せいぜい中心街の平均よりは大きく立派なレンガ造りといった感じだ。

 正門の受付で書類一式を受け取り、案内に従い待合室代わりの講義室の席に着く。

 書類に目を通しながら受験用紙を記入していき、ふと手を止まった。

 冒険者ギルドの登録用紙と同じく魔力の有無の欄があるのだ。

 よくよく考えれば落ちる奴がいないとは、魔術を使える人間は決して多くないのに変な話だった。

 この学校は魔法学校とは言うものの、通常の学校と同じく読み書きや算術なども教えている。

 具体的には1年と2年では基礎的な学校教育がカリキュラムに含まれており、3年から5年は学科へ分かれて研究などを行うらしい。

 学科の内容は多岐にわたり自分自身は魔力を有していなくとも、魔道具の開発や魔法関連のビジネスのための勉強ができる。

 要は魔術師だけの学校ではないというわけだ。

 1年から在籍するのは11歳だが、ほかの学校を卒業してから3年に編入するケースもあるらしい。

 パブリックスクールと大学の合いの子のようなものか。


 筆記試験は当然余裕だった。

 読み書き算術は曲がりなりにも大学受験を経験した以上、できない方がおかしい。

 この世界の地理や経済なども幼少のころ読んだ本の記憶で解ける範囲だ。

 難なく上位に入り、一部の授業が免除された。

 中身は30越えのおっさんなので喜べるものではないが……。

 教科書の購入と入寮手続きを済ませ、午後の実技試験の説明を聞く。

 実技試験は戦闘訓練の免除を希望する学生が受けるものだ。

 当然受けることにした。

 受からなければそれでいいし、受かったのならその時間を文献で魔術を学んだり実戦を経験することに費やすつもりだ。

 内容は木製の武器を使った模擬戦と、後日、魔力のある学生は魔術の実演がプラスされる。

 こちらは魔力のある学生を対象にした魔術演習の免除の試験だ。


 模擬戦はひどく単調なものだった。

 魔力持ち同士が戦えば、ほとんどが初級の“火弾(ファイヤーボール)”と“水弾(ウォーターボール)”の撃ち合い、しかも遅い。

 魔力のない受験生は俺からすると恐ろしく低レベルなチャンバラを繰り広げ、魔力持ち相手には放たれた魔術を必死に弾いている。

「(こいつは何とも……俺も適当にお茶を濁す程度に留めるべきかね……)」

 そんな中、一人の少女が進み出る。

 エルフの血が混じっていると見える耳に青みがかったセミロングとみすぼらしいローブ、しかし魔術にはかなり熟練していることがわかる。

 相手の受験生は……。

「ふっ、僕は紳士だからねぇ。少しは手加減してやるかねぇ」

「はい! それがよろしいかと」

 こらアカン。

 魔力量だけでも彼女は頭ひとつ飛び抜けているのに、それすらも感じ取れないのだろう。

 この、いかにもなお坊ちゃんと腰巾着っぽい少年の力量はお察しだ。

 少女は適当に選んだ木剣を持ち、あからさまに余裕の笑みを浮かべる相手と対峙する。

「氷雪よ、集いて盾と成せ――“(アイス)(ウォール)”」

 詠唱短縮。

 やはり相当の使い手。

「っ! ど、どうなっているのかねぇ」

「……まだやる?」

 いきなり分厚い氷の壁に囲まれた相手の受験生は震えながら降参した。

 “(アイス)(ウォール)”は火系の魔物のブレスなどを防ぐのに使われるが、あの少女は相手を囲むように構成した。

 言葉でいうのは簡単だが、詠唱に魔力を載せて発動する魔術というのは、術式がすでに完成されている。

 具現化の形を変えるのは、そう簡単にできるものではない。

 実際、先ほどの“(アイス)(ウォール)”も見る者が見れば高度な制御のもとに綺麗に形づくられたことがわかる。

 さらに、気付いた人間は少ないが“氷結(フリーズ)”を微弱にかけ徐々に氷を内側に増やしながら、彼女は降伏を迫ったのだ。

 恐らく強力な術でなければ無詠唱で放てるということであろう。

「見事だ」

 戻ってきた少女にそっと声をかける。

 決してフラグを立てるつもりはない。決して……多分。

「…………」

 少女はしばらくこちらを興味深そうに見ていたが、一言も発することなく踵を返した。

 社交的とは言い難いね。

「ふむ、噂通り礼儀知らずな」

 ふと隣を見ると金髪の背の高い少年が険しい目つきをしている。

 左腰には使いこまれたレイピアを下げており、一目で剣の腕が立つことを感じ取った。

「彼女を知っているのか?」

「ああ、今年の首席候補らしい。いけ好かない奴だとは聞いていたが……」

「なるほど。まあ、どこにでもギスギスした秀才はいるものさ」

 少年の眼光がいくらか和らいだ。

「っと、失礼。私はフィリップ・ノエル・オルグレン伯爵だ」

「ああ、俺はクラウス・イェーガー。……貴族の方でしたか」

 そういえば服の生地は俺のものよりずいぶん上等だ。

 それにしても、この年で当主?

「ああ、父は私が幼いころ他界したのでな。物心ついたときには爵位を継がされ見世物扱いさ。フィリップでいい、敬語もいらんぞ。今日から貴公はともに席を並べる学友だ」

「そうか、よろしくフィリップ」

「うむ、よろしく頼む。ところで、家名があるということは貴公も貴族家出身か?」

「田舎の士爵の三男だけどね」

 そんなことを話しているうちに俺とフィリップの名前が呼ばれた。

「貴公が相手か。言っておくが手加減はなしだ。クラウス」

「ああ、望むところだ」


 俺はいつも腰に下げている鉄の剣に似た形状の木剣を選んだ。

 刀の形状のものは無く、両手剣は実戦で使ったことがないので不安だ。

 対人戦で一番使い慣れたものを選ぶのは定石である。

「……はじめっ」

 開始の合図と同時に木剣のぶつかり合う音が鳴り響いた。

 ほとんどの受験生は何が起こったのか、わからなかっただろう。

 フィリップの深く踏み込んだ刺突を俺がブロックしたのだ。

 カウンターは取れなかった。

「よもや防がれようとはな」

「これでも、それなりに鍛錬してるんでね」

 最初の一撃はお互いに入らず。

 フィリップは今のは挨拶といわんばかりに攻めてくる。

 巧みな剣捌きを見せるフィリップの攻撃を、俺がパワーで弾く。

 今までの受験生たちとは一線を画す攻防がしばし続いた。

 しかし、驚いた。

 強化魔法を使っておらず剣技のみの応酬とはいえ、同年代でこれだけできる奴がいるとは思わなかった。

「世界は広い……とでも言うべきか。田舎から出てきただけで、これほどの使い手がすぐに見つかるとは」

「こちらのセリフだ。本職の騎士でも私に勝てる人間はそう多くないのだがな」

 この時の俺は知らないが、彼は剣技に関しては幼少期から神童と言われるほどの才を見せていたそうだ。

 当然、そんな予備知識など無くても手を抜いて圧勝できる相手でないのはわかる。

 俺は慎重に戦いの流れを変える瞬間が訪れるのを待った。

「まだまだ!」

 フィリップは俺が攻撃をいなした後、引かずに連続して斬りかかってきた。

 上体が泳いでいるので、今回は一撃が鋭くない。

 しっかりとブロックできる。

 千載一遇のチャンスだ。

 だが、剣でのカウンターでは躱される恐れがある。

 だから俺はレイピアを鍔本から押し返し、ミドルキックを放った。

「くっ!」

 何とか受け身を取り衝撃を緩和したフィリップの着地点に“水弾(ウォーターボール)”を連発する。

 しかし、大して魔力を込めていない“水弾(ウォーターボール)”はすべてフィリップの木製レイピアに弾かれた。

 同時にフィリップの纏う魔力が強くなった感じがした。

「……強化魔法か」

「これしか能が無いのでな。いくぞっ!」

 体勢を立て直したフィリップが渾身の刺突を放つ。

 先ほどの攻撃より速度も威力も一段階上だ。

 だが、このタイミングでの強化魔法では動きの単純化は避けられないのだろう。

 勝利のヴィジョンが見えた。

 俺の剣が手から弾かれる。

「おおぉ!」

 歓声が上がり誰もがフィリップの勝利を確信したそのとき「ぐぇ!」という絞り出すような声とともにフィリップが背中から地面に叩きつけられた。

 ほかの受験生たちが唖然とする中、フィリップは地面からせり出した“(アース)(ランサー)”の鋭い先端に囲まれる。

「そ、そこまで」

 真っ二つに折られた俺の木剣はようやく地面に落ちたところだった。


「いてててっ」

「お疲れさん。まあ、悪く思わないでよ」

 フィリップの傷を治癒魔術で治療しながらつぶやく。

 幸いフィリップは軽傷で医務室に運び込むほどではないので、俺は尻拭いとばかりに治療を申し出たのだ。

「いや、別に恨んではいないが…………いったい何をしたのだ?」

「ただの魔法障壁さ」

 フィリップの突きを受けたとき考えたことは、受け流せるなら受け流す、受け流せないなら剣を捨てる。

 これだけだ。

 結果、木剣は真っ二つになり吹き飛ばされたが、準備していた魔法障壁で剣筋を逸らし、手首をつかんで合気道の要領でぶん投げることができた。

「ただの、か。剣術で私に引けを取らず、その魔力量に私の刺突を防ぐ魔法障壁に格闘。貴公はいったい……」

「何者なの?」

「へ?」

 頭上から降ってきた声に間抜けな声で答える。

 そこにいたのは先ほどの“氷壁(アイスウォール)”の少女だった。


「…………えっと」

「何者……?」

 あれ、何で俺は睨まれてるの?

「何者って言われてもね……」

「おい、お前。いきなり失礼ではないか?」

 フィリップは今にも掴みかからんばかりの勢いで立ち上がった。

 けが人だろ、あんた……。

「あなたに用は無いわ」

「な、何だと!?」

 いきり立つフィリップを抑える。

「おい、よせ!」

 先ほどの模擬戦でも垣間見えたが、フィリップは早い話が単純な奴のようだ。

 俺は流血沙汰になることを予想して憂鬱になった。

 しかし少女は予想外の行動に出る。

 興味を失ったとばかりには踵を返したのだ。

「……暴力を振るわれそうなので出直す」

 俺は衝動的に呼び止めた。

「待て、俺はクラウス・イェーガーだ。君は?」

「……レイア」


 その日の夜、俺とフィリップの姿は中心街のレストランにあった。

 普段なら行かない高級そうな店だ。

 自分も冒険者ギルドに売り払った魔物の素材で懐は温かいが、今回はフィリップが奢ると言って聞かなかった。

 模擬戦の勝ち負けはともかく、治療の礼として奢ってもらうのは悪い気分ではない。

 メニューも久しく味わっていないものばかりだった。

 前菜は複雑な味わいのレバーパテ、スープはとろみのついた上品なコンソメでメインはスズキに似た白身魚のポワレにシカ肉のロースト、デザートはフルーツのコンポートがのったヨーグルトだった。

 ヨーグルトはイェーガー領のものより濃厚だった。

 だがコンポートに合わせるあたり、この世界にはアイスクリームは無い可能性が高い。

 また一つ商売のネタを見つけたな。

 模擬戦の後、俺たちは難なく特待生の資格を得て、戦闘訓練の免除が言い渡された。

 王都魔法学校の特待生制度は思いのほか曖昧で、免除申請ができるのは高得点の科目だけではない。

 フィリップは魔術訓練を取る気は無いとのことだ。

 本来ならば明日の魔術実演で優秀な成績を残さなければならないが、認められる可能性が高いらしい。

 彼は魔力持ちではあるが、強化魔法以外ほとんど使えない。

 日々の鍛錬において、放出系の魔術よりも、やるべきことの種類が少ない強化魔法特化の使い手としては、あながち的外れな選択とも言えないだろう。

 いざとなったら俺に教えを乞うという。

 少々馴れ馴れしいと思ったが頼られて嫌なわけではない。

 と、ここまでの話は和やかなものだったが、先ほどからのフィリップは絶賛不機嫌中だ。

 理由は言わずもがな、例の人物のことを思い出したのである。

「まったく! いけ好かない女だ」

 そっとため息をつく。

 この世界の成人は15歳だ。

 前世に比べればかなり早いが今現在、酒を飲ませて黙らせる手が使えないのは残念だ。

「ところで、町がやけに騒がしいようだが」

 何とか話題を変えた。

「ああ、昨日のアンデッドの件でついに騎士団が動くらしい。何でもカタストロフィとかいう奴らが関係してるんじゃないかという噂だ」

 予想外の情報だ。

「なに? 何故カタストロフィが?」

「さあ、そこまでは知らぬな。単に脅威となる可能性のあるものは何でも結び付けて考えたいだけではないか? 一つの事件から芋ずる式にすべて片付いたと思いたいのが人の常だ」

「なるほどね」

 どうやら、自分とパウルを例の騒ぎの主犯扱いする奴がいるようだ。

 人々の記憶から忘れ去られるのなら謎のままでも良いが、妙な事件が起こるたびに引き合いに出されてはかなわない。

 調査くらいはしてみるか。

「ところで、クラウス。貴公、冒険者登録はしているのか?」

「ん? ああ、この街に来た時にしたな」

「そうか。というとEランクか?」

「そうだな」

 フィリップはしばし考えた後、口を開いた。

「パーティを組まないか?」

「パーティというと協力して依頼に挑むということか?」

「そうだ。私はCランクだが、貴公ほどの腕であれば私と同じ依頼でも問題ないだろう。私の効率も上がるし、貴公も私と共に依頼を受ければ無駄な下積みを省き、Cランクを受けることができる」

 確かに魅力的な提案だ。

 高ランクの方が報酬はいい。

 しかしCランクの依頼での死亡率が高かったことを思いだす。

「うむ、確かにCランクからは危険な依頼が増える。私一人でも余裕だといえば嘘になる。だが貴公もいつまでも低ランクでくすぶり続けるつもりはないであろう?」

 フィリップは表情から察したようだ。

 まあ、結局はやってみなければわからないだろう。

 いくら考えても断るという選択肢は出てこないな。

「……よし、わかった」

「そうか、よろしく頼む」

「それにしてもCとはすごいな」

「数をこなしただけさ。貴族たる者、人を使ってばかりではいかん。共に戦う姿勢を見せなければ人はついてこない」


 その後、俺達は連れだって寮に帰る。

 俺はすでに荷物は部屋に運んであるが、まだ整理は終えていない。

 荷物のほとんどを仕舞える魔法の袋があるのは、俺の片づけが苦手な性分にとっては幸運だった。

 コインロッカーなど存在しないこの世界では、魔法の袋がない受験生は今日まで宿を取っておくかすべて手元にまとめておくしかない。

 俺の私物を魔法の袋無しですべて携帯するなど、どう考えても不可能だ。

 だが、魔法の袋の便利さに慣れてから余計に部屋が乱雑になった気がする。

 まあ、今のところ不都合は無いので良しとしよう。

 部屋の備品はベッド、クローゼット、机、ランプのみ。

 要は、机の上に散乱している文房具や資料、床にぶちまけられている教科書の類はこの一日というか一瞬で俺が散らかしたことになる。

 まあ、貴重品は全部魔法の袋か“倉庫(ストレージ)”の中だし、容量は余裕だからいいよね。

 明日は魔術実演と入学ガイダンスだ。

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