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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編3年(家臣編)
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116話 魔剣 後編


「で、ここからが本題アルね。残りの魔剣四本。これだけものが一堂に会することになるとは。正直、目を疑ったアルね」

 ラファイエットはまずレイピアと短剣を取り出した。

 この二つは俺も濃厚な呪いの気配を感じて手を触れることすら無かった品だ。

 どうやら俺の目も呪いを察知する程度なら役立たずではないようだ。

「まずは危険な方から見せるアルよ。これはダーインスレイヴ。作られたのはここ百年や二百年の話じゃないアルね。正真正銘、本物の魔剣アルよ」

 ダーインスレイヴも名前くらいは聞いたことがある。

 レイピアにしては大きめで、全体のパーツのバランスから刺突剣の形状を見なければ、片手半剣(バスタードソード)に分類されてもおかしくない。

 どうやらゴリラ専用レイピアのようだ。

「一度抜いたら人を殺すまで納刀できない呪いを持っていたアルね。これは持ち主の精神にも作用して殺戮に駆り立てるアルよ」

 怖っ!

 いかにも呪いの魔剣だ。

「ラファイエット先生。呪いを持っていた(・・)、ということは……」

「もう解呪してあるね」

 フィリップの疑問に事も無げに答えた。

 凄ぇな。

 昨日の今日で、もう伝説級の魔剣の分析を終えて解呪までしてしまうとは。

 確かに、昨日ほどの禍々しさは、既にこの剣からは感じない。

「解呪したのは使用者に与える呪いだけアルね。元々、このダーインスレイヴは呪いの塊アルよ。斬りつけた相手にあらゆる呪いをかけ、治癒魔術が効きにくい傷を与える能力はそのままにしてアルね」

 ヤベぇ。

 使えるようにしてもらったのにまだヤベぇ。

「まさか伝承にある本物の魔剣を弄れるとはね。やはりイェーガー君の傍に居ると、次々と幸運が舞い込むアルね」

 楽しそうで何よりです。

「で、フィリップ。どうする? これ、使うか?」

 このレイピアはフィリップが気にしていた。

 まあ、目の前にある魔道具類の中で、唯一馴染みがある細剣だったという理由もあるだろうが。

「いや、私の使い慣れたレイピアと比べると大きすぎる。それに、何故だか我が聖剣と折り合いが悪そうに見えるのだ……」

 聖剣と呪いの魔剣。

 まあ、擬人化したら相性は最悪だろうな。

 フィリップは両手に二刀持つ気は無いようだ。

 仕方ない。

 こいつは俺が保管しておこう。

 それこそ斬った人間をじわじわといたぶる武器なんて俺の趣味じゃないが、まあ盗賊の拷問には使えるだろう。

 闇魔術と物理だけでもいいが、引き出しが多いのはいいことだ。



「で、イェーガー君。この短剣は、正直君が持つのはおすすめしないアルが……」

 ラファイエットはそう言って、俺に禍々しい短剣を見せてきた。

 これは彼に渡す前と一切気配が変わっていない。

「どういうものなんです?」

「これも有名な呪いの魔剣、アゾットと言うアルね」

 ああ、聞いたことがあるぞ。

「確か、悪霊が封じられているとか……」

「悪霊とは言い得て妙アルが、要は高位のアンデッドを召喚する魔道具アルね。使役なんてできない、犠牲召喚と変わらないくらいの禁忌アルよ」

 そいつは嬉しくない話だ。

 アンデッドは一昨年の事件でお腹いっぱいです。

「アゾットですか……。また、とんでもないものが出てきましたね。クラウス君、できればその短剣は宮廷魔術師団に提供していただきたいのですが……」

「……参考までに聞きますが、何に使うんで?」

「禁術の詳細を理解して対策を考えることも、国防の一端を担う宮廷魔術師団としては必要なわけでして。これは研究用の資料にさせていただきたいですね」

 まあ、ヘッケラーが仕切るのならば、そう危険なことにはならないだろう。

 素人の俺が持っているより余程マシだ。

「わかりました。箱ごとお持ちください」

「ありがとうございます」



「さて、イェーガー君。嫌なものを見た後は、最高の品を見て英気を養うアルね。まずはこれアルよ」

 ラファイエットが出したのは、総オリハルコンにも引けを取らない、美しい輝きを持つ片手剣だった。

「これはクラウ・ソラス。模倣品も数多くあれど、この剣の製法は私でも理解できない部分が多い、完全に古代の錬金術による産物アルね。古文書も古代エルフ語で書かれているので全て解読されていないアルが、この剣に関する説明を可能な限りまとめると、朽ちることの無い聖気を宿した剣、とあるよ。要は聖属性の剣アルね」

 聖属性?

「それは聖剣とは違うのですか?」

「聖剣の模倣品アルね。しかし、本物のクラウ・ソラスは先代勇者の時代も限られた優秀な職人と錬金術師しか製造できなかった幻の剣アルよ」

 そいつは凄いな。

 確かに、フィリップのレイピアと比較すると一段劣るが、それでも聖魔術を使えない俺にとってはありがたい武器だ。

 これからはアンデッドが相手でも、いちいち聖水を武器にかける必要がなくなるのか。

 試しに持ってみると、確かに刀身からは溢れんばかりの聖属性の波動を感じる。

 これなら低級のアンデッドなど掠っただけで消滅だ。

「こいつは凄ぇ。掘り出し物ですね」

 ちょうどエクスカリパーやレーヴァテインもどきとバランスの感覚が近い。

 スムーズな二刀流ができるだろう。

 右手にクラウ・ソラス、左手に回復効果のあるエクスカリパーを持って持久戦に備えるか、比較的アンデッドに効果が高い火属性のレーヴァテインもどきを装備して火力を優先してもいい。

 使えないと思っていたレーヴァテインもどきだが、クラウ・ソラスの補助として日の目を見る可能性が出てきたな。

 まあ、アンデッドの巣窟に突っ込むのはご免だが、俺の弱点を補ういい武器が手に入った。

 ありがたく使わせてもらおう。



「次はこの両手剣アルね。銘はデュランダル。不滅にして不壊の刃を持つ、不死身の剣アルよ」

 俺の大剣よりも遥かに大きい、完全に重量で相手を叩き切るための両手剣だ。

 刀身は二メートルを超え、幅は五十センチに及ぶ。

 詳しいメカニズムはラファイエットにもわからないらしいが、刃も柄も非常に壊れにくく、万が一傷ついても瞬時に修復する生命力?に満ち溢れた魔力が剣全体に通っているそうだ。

 エドガーに渡したエストックの、少しの傷なら修復してしまう魔法陣とは違うらしい。

 このデュランダルの方が遥かに強力だそうだ。

「デュランダルか。こんなデカい剣だっけか……?」

「私も気になって詳しく調べたアルよ。元々は両刃の片手剣だったらしいアルね。これは千年前の勇者の時代よりも昔に打たれた剣アルよ」

「そんなに古いんですか」

「今より精錬技術の低い鉄で作られた、とっくに朽ち果てていてもおかしくない代物アルね」

 とてもではないが、そうは見えない。

 この巨大な両手剣の耐久力は俺の大剣に匹敵、あるいは凌駕するだろう。

 切れ味や火力こそ俺の魔力を通した大剣には及ばないだろうが、それでもただの鉄の大剣と言うには無理がある。

「確かに、微量のミスリルやオリハルコンやアダマンタイトの反応もあるけどね。どうも組成が普通じゃないアルよ。鍛冶師が鍛えて打ち重ねたというより、まるで……そう、オルグレン君のレイピアがドラゴンの牙を取り込んだように、と言うべきか……」

「……元は聖剣だったとか?」

「う~ん、その可能性も無きにしも非ずね。ただ、竜種の素材に似た波動も凝縮されてるアルけど、いろいろ取り込み過ぎて凝縮しきれず肥大化したような形跡も……」

 要は、どういう経緯でデュランダルがこんな形状になったのか、わからないということだ。

 それでよく剣の正体が分かったな。

 原型なんて留めていないだろうに。

「そこは企業秘密アルね」

「……何か、大した理由なんぞ無さそうですが、まあいいです。それよりも、呪いの類は無いんですね? 竜やら何やら変なものを取り込んだなんて……一歩間違えば最凶の呪いの武器になっていそうですけど」

「そこは私の目と勘を信用してほしいアルね」

 話せば話すほど心配になってきたが、覚悟を決めてデュランダルを持ってみると、思ったよりも手に馴染む。

 ただ、俺の愛用の真・ミスリル大剣に比べると遥かに重く、バランスの面でも普段通りの剣術を扱うことは不可能だ。

 強化魔法を発動すれば力任せに振り回すことはできるが、メインウェポンとして愛用したいほどの品ではない。

 これは予備だな。

 愛用の大剣が故障したときや二本目の武器を抜くときに、サーベルや他の魔剣では力不足だと思ったら、こいつを抜いて叩きつけることにしよう。



 十二本の魔剣の行き先が全て決まった。

 どうしようもない呪いの短剣アゾットはヘッケラーと宮廷魔術師団の研究バカの許へ厄介払い。

 水の鞭を放つ短剣はレイアの護身用に、猛毒のダガーはファビオラが装備する。

 そして、オリハルコンの刀身を持つ修復と軽量化の魔法陣が仕込まれた質実剛健な高級魔剣は、オルグレン伯爵家の家宰で剣聖の異名を持つエドガーの手に渡った。

 残りは俺の装備だ。

 大剣の予備で、とにかく壊れない桁外れの耐久力を誇る強力な重量武器デュランダル。

 俺の使えない聖属性の刃を持つ片手剣クラウ・ソラス。

 回復効果のあるエクスカリパーも刃のブーメランこと偽フラガラッハも炎の剣レーヴァテインもどきも、本物には及ばない模倣品だが十分実用的な機能を持っている。

 ヴァンパイアナイフも血抜きに使える便利な道具だし、ドラゴンの素材から作られたスティレットも暗殺者の真似をしなければならないときには心強い味方だ。

 呪いのある大型レイピア、ダーインスレイヴは……気は進まないが盗賊の尋問の際にチラつかせてみるか。

 俺のものになった魔剣は八本だが、これも大幅な戦力アップだろう。

「いやはや、まったく。これだけの魔剣を一度の盗賊討伐で手に入れてくるとは。イェーガー君は幸運の女神の加護を持っているアルね」

 ラファイエットはご機嫌だが、俺に女神の加護があるならもう少し女運があってもいいんじゃないかね。

 キャロライン嬢?

 今のところ実家のデヴォンシャー公爵家にも問題は無いし、本人にも下らない見栄のために俺を利用しようって腹は無さそうだが、あの性癖に付き合うのは無理だ。

 まあ、盗賊退治の収穫には恵まれていたのは事実だ。

 金儲けと略奪の神に感謝しておこう。居るのかわからんけど。



「そういえば、盗賊から分捕ったお宝で一つ忘れているものがあった。これなんだけど……」

 俺は戻って来た当日に見せるのを忘れていた収穫を魔法の袋から取り出した。

 盗賊のアジトの宝物庫に無造作に置かれていた絵画だ。

 十枚以上あるので、ここに出したのはニ、三枚だ。

「ほう、これは……」

 ヘッケラーが何やら聞き慣れない人名を上げて一人で頷いている。

 どちらさんの話題ですかね?

「この二つは著名な画家のものです。もう一つはわかりませんね。私もそれほど絵画に詳しいわけではありませんから」

 そんなことないです。

 画家の名前を聞いたとき、俺と一緒に首を捻っていたフィリップよりは役に立ちます。

念のため他の絵も見てもらったが、ヘッケラーから絵の素性が出てきたのは半分ほどだ。

「私でも知っている有名画家の絵の盗品がこれだけあるとは。他もそれなりに価値のある物でしょう。ロベルトならもっと詳しくわかると思いますが」

 どうやら近衛騎士団長のニールセンは美術品に詳しいようだ。

 意外だな。

 しかし、それならパーティーに来ているうちに話しておけばよかった。

「じゃあ、王城に行く用があったときにでも、手土産に持っていきますか」

「いいえ、クラウス君。できるだけ早くアポイントを取って彼と話し合った方がいいでしょう」

 呑気な俺に、ヘッケラーは緊張感のある声で話した。

「師匠?」

「今回の盗賊の件、今まで慎重だった悪名高い賞金首が違法奴隷に手を出し始め、クラウス君が警備隊経由で上に話を持ってくるのを利用させてもらい網を張った。しかし、結果はご覧の通り」

 エドガーも大きく頷き、ヘッケラーも忌々しさを隠さず言い放った。

 収穫は無かったんだな。

「軍務局での取り調べは順調に進んでいますが、彼奴の言う闇商人どもの尻尾は未だつかめておりません。既に内偵は動いているのに、です」

 そういえば、キャロラインもそんなことを言っていたな。

「痕跡の消し方や徹底具合、あの盗賊本人はともかく周囲の人間に『黒閻』の息がかかった者が居ることは確実でしょう」

 やはり、奴らの関与は濃厚なわけか。

 毎年毎年うざい連中だな、ホント。

「クラウス君が確保した絵画は明らかに貴族や上流階級からの盗品です。来歴を調べれば、奴らの関係者を追う手がかりになるかもしれません。何せ、高価な美術品の軌跡や背景には、必ず有力者が絡んでいると言っても過言ではありませんから。今日、魔剣の話を聞けたのは大きな収穫でしたが、絵画の方も色々と明らかにしておいた方がいいでしょう。僅かな手掛かりでも、『黒閻』に繋がる可能性があるのならば調べない手はありません」

「わかりました。明日にでもニールセン団長に届けましょう。……何か、重大な情報を呑気に忘れていたみたいで、すみません」

「いえ、私こそほとんど思い付きですから。念のためです」

 まさか盗賊の戦利品の絵画が『黒閻』の手掛かりになる可能性があるなど、考えてもみなかった。

 まあ、ヘッケラーも当たりが出ればいい、というような感じで話していたから、俺もそれほど期待せずに構えておこう。


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