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雷光の聖騎士  作者: ハリボテノシシ
学園編3年(家臣編)
109/232

109話 制圧完了


 俺は指先に意識を集中し、微弱な魔力を流し込み、無詠唱で魔術を構築した。

 複雑な形状の変化などにおいてはレイアやヘッケラーの足元にも及ばないが、大きさの調整程度なら俺の魔力制御のセンスを以ってすれば楽勝だ。

 俺の指から直径二センチほどの小さな“火弾(ファイヤーボール)”が生成された。

 俺の身体魔力の性質上、火の密度は少し高いかもしれないが、人体を貫通するほどではないはずだ。

 そのまま煙草に火をつけるように盗賊の顔に近づけ、鼻の孔をこんがりと炙ってやった。

 タンパク質の焼ける嫌な臭いが漂い始める。

「んぎぃ! ば……」

 意識を取り戻した男は鎖の拘束を解こうと暴れるが、身体の擦り傷を増やしただけで終わった。

 脂汗を流しながらキョロキョロと辺りを見回している。

 どうやら俺のかけた闇魔術“悪夢(ナイトメア)”はかなりの効果を発揮したようだ。

「やあ、いい夢が見れたかね?」

「っ!」

 俺はサーベルの切っ先を男の目に近づけた。

「ひぃ! やめろ! やめてくれぇ!!」

 男は必死に顔を背けて逃げようとするが、鎖で縛られている以上どうしようもない。

「さて、これからいくつか質問をするが、答えたくないなら構わんぞ。お前はどこまで俺の呪いの実験に耐えられるかな? 今日のモルモットには期待はずれが多すぎてね……」

 俺は体を半身に引いて、男から盗賊の死体の山が見えるようにしてやった。

 あの死体はどれも剣や魔術で殺した奴らで、呪い云々など口八丁だが、動揺している男にはわかるまい。

「頼む……せめて楽に殺して……」

「さあ、まずはお前たちのアジトの場所だ。吐け」

 男は俺の質問に素直に答えた。

 あとで他の生き残りの奴らにも尋問して、照らし合わせてみればいいだろう。

「見張りは?」

「入り口に二人。中に三人残してきた」

 淀みなく喋るのが、かえって怪しい。

 俺は迷うことなく“焔呪(フレイムカース)”を発動した。

「え……うぎぇぇぇあああぁぁぉぉぉ!」

 この闇属性と火属性の混合魔術は、意識がはっきりしている者にも全身が炎に包まれる幻覚と痛みを与えることができる。

 まさに拷問に最適な魔術だ。

「おいおい、こんなの序の口だぜ。まだまだ試したいやつが、いっぱいあるんだ」

「や、やめ……ごびん、中ば五人だ……」

 掠れた声で白状して、男は気絶した。

 蹴飛ばして喝を入れ、そのまま尋問を再開する。



「では、最後の質問だ。奴隷が高く売れるとは、どういうことだ?」

 男は口を噤んだ。

 俺は男に猿轡を噛ませ、ハンティングナイフを抜いた。

 怯える男に目もくれず、その手を引き寄せる。

 そのまま男の手の指を開かせ、爪の間にナイフを突き入れた。

「っ! げひっ!」

「――“ペインバースト”」

「ぐっ、ヴ~! うぅ~!」

 痛みを増幅する闇魔術が効いているうちに、さらにナイフを捻じる。

 確実に情報を取るためとはいえ、気分がいいものではないな。

 こいつが個人的に恨みのある相手ならともかく、ただ立場によって定められた敵だ。

 ここで拷問の手を抜いて情報が欠如し、後々危険な目に遭うよりはマシだが、それでも最低限且つ確実な敵の排除以外の暴力には忌避感がある。

 人間として正常だと自信を持つか、自己満足だと嫌悪するかは人それぞれだが、自分がやられる側になる可能性が一ミリでも存在する以上、尻込みするのは仕方ないだろう。

「ぶふぅー……ぐぅ……」

 俺は気を取り直して、魔術の効果が切れてきたタイミングで猿轡を緩めた。

 完全に外すと、舌を噛み切って自殺する可能性がある。

「…………」

 俺は黙って無表情に男の顔を覗き込んだ。

「い、いうから……いつも盗品を引き取ってくれる闇商人が、奴隷を高く買うって……」

 男からそれ以上の情報は得られなかった。

 他の生け捕りにした盗賊たちにも同様の尋問をしたが、話す内容な最初の男と似たようなものだった。

 それよりも最初に尋問した男が、盗賊団のリーダーだったことが驚きだ。

 盗賊の頭といえば、頭一つ抜けた強さを持つ腕っぷしが自慢の男だと思っていたのだが、こいつらはどうやら違うらしいな。

 まあ、あとは王都に連行して、それこそキャロライン嬢に任せよう。

 闇商人の捜査は俺の専門外だ。

 下手に突いて色々とぶち壊しにするリスクを考えたら、さすがに一人で乗り込む気は起きない。

 盗品の奴隷の高騰か。

 水面下でとんでもない事件が動いてないといいが……。

「イェーガー将軍、盗賊のアジトの場所はわかったのかい?」

「ええ、ランドルフさん。そこまで遠い位置じゃないです」

「わかった。私たちはこの近くで野営の準備に入る。敵の始末は頼めるか?」

「了解です。戻ってきたら、さっきと同じ“プラズマランス”を撃ちあげます。合図無しに近づく者には警戒してください」



 俺は野営地の準備と防衛態勢が整うとともに、森の奥に向けて出発した。

 盗賊たちの襲撃から時間が経ってしまったので、急いで飛行魔法で低空を移動する。

 帰りが遅いことで、アジトで厳戒態勢が敷かれていたら面倒だ。

「(っ!)」

 案の定、先ほど場所を聞き出した盗賊のアジトがある方面から、偵察と思わしき軽装の盗賊が近づいてきた。

 こちらの“探査”は距離が長く、魔力を薄く延ばす技術も俺は習得しているので、盗賊ごときが感知できる代物ではない。

 しかし、斥候に出されるくらいなのだから、奴も狩人としての技能はある程度持っているはずだ。

 草の動きなどでこちらの位置がバレないように、大回りで盗賊の後ろまで移動し、そっとクロスボウで延髄を撃ち抜き即死させた。

「(ちっ、面倒な)」

 死体を放置しておくと、野生動物や魔物をおびき寄せて騒がしくなり、敵に異変を感じ取られる可能性があるので、盗賊の死体は俺の魔法の袋に回収だ。



 盗賊から聞き出した場所に到着すると、いかにも盗賊の隠れ家ですといった風情の洞窟が目に入った。

 歩哨に立っているのは二人。

 情報通りだ。

「お頭たち、遅ぇな。ドジ踏んだんじゃね?」

「おい、滅多なこと言うもんじゃねぇよ」

 俺は音を立てないように注意しながら、草叢を横に移動して回り込む。

「お前ぇ、ちょっとビビりすぎじゃねぇのか? うちのお頭はそんな強くねぇだろ。手下が居なきゃ何もできねぇんだ。俺らをどうこうする度胸なんか無いって」

「確かにそうかもしれねぇが、あの人のおかげで俺たちの生活は大分マシになったろ? 高く売れる獲物に狙いを定めて、いい具合に売りさばく。腕っぷしだけじゃ、どうにもならねぇってことさ」

 やはりあの盗賊の頭は脳みそで勝負するタイプだったか。

 力が全ての単純な盗賊の世界では、舐められる可能性もあるよな。

 この見張りの二人でも派閥は割れているようだ。

「……おい、お前。まさか、お頭に密告するつもりじゃねぇよな?」

 男たちがお互いに牽制するように睨み合いを始めたとき、俺はクロスボウの引き金を引いた。

「――“ブースト”」

 補助用の風魔術をかけた太い(ボルト)が、男たちの首をまとめて貫いた。

 二人が喧嘩の相手に集中していたため、完全に不意を突くことができた。

「かはっ……」

 まだ息のある一人に近づいてサーベルで刺殺し、もう一人の延髄もサーベルで抉っておく。

 歩哨の二人の死体も、念のため魔法の袋に回収し、俺は洞窟に足を踏み入れた。

 情報通りなら、洞窟の中はあと四人か。



「げはっ……」

 最後の盗賊を始末した。

 サーベルすら使いにくいほど狭い部屋に居たので、こいつは後ろからナイフを心臓に突き刺して仕留めた。

 念のため延髄にも一刺ししたが、喉を掻き切る趣味は無いのでやらない。

 洞窟の中は“探査”で隅々まで調べたが、情報以上の人間の気配は無かった。

 “アクティブソナー”を使っても反応は無し。

 これで俺の索敵に引っかからずに潜み続けていられたら、そいつはアサシン〇リードの世界からの転生者だろう。

 物資がありそうな部屋の場所を再度確認し、まずは一番近い食糧庫らしき場所へ向かった。

「うくっ……」

 これはひどい。

 毒ガスかと思うような悪臭が充満している。

 中世で暮らして十三年。

 日本人だった前世に比べれば、悪臭には耐性が出来たと思っていたが、これはさすがに限界を超えている。

 風魔術で匂いを散らしながら、どうにか奥へ進んだ。

 辛うじて食料と認識できる物体は、ほとんどが下処理の甘い干し肉だ。

 チーズや乾パンも原形を保っているものはあるな。

 血抜きが下手過ぎるための臭いなのか、住んでいる不潔な人間の悪臭なのか。

 酒の瓶も埃と汚れに塗れ、悪臭が染みついている。

 潤沢な食料があるだけでも盗賊にしては裕福な方なのだろうが、俺にとって価値のある物資ではないな。

 さすがにここを掃除するのはご免だ。

「……燃えるゴミだな」

 俺はすぐさま厨房を脱出し、ドアを厳重に閉める。

 この盗賊のアジトを立ち去るときは、忘れずに燃やしていこう。

固く決心した俺は、次の戦利品を確保しに向かう前に、ローブや防具、自分の髪にも洗浄の魔道具を使った。



 続いて足を踏み入れたのは武器庫だ。

 馬車を襲っていた盗賊のほとんどは鋳造の安物の武器を使っていた。

 まとめて魔法の袋や“倉庫(ストレージ)”に保管しておけば、投げたり人に貸したりする場合に使える。

 まあ、使い捨てだな。

 予想通り、武器庫の中身は半数が安物で、他も数打ちの品ばかりだった。

 短剣や短槍は投擲武器になる。

 片手剣や両手剣にメイス、槍や斧にハルバードなども持っていて損は無いか。

 あまり活躍の機会は無さそうだが……。

 いや、これも投擲武器の括りでいいか。

 鍛造のある程度の品質があるものもそれぞれ数十本単位で確保できたので、鋳造のものは剣や長槍も使い捨てにしてしまっても構わない。

 弓矢もクロスボウを手に入れてからはご無沙汰な武器だ。

 弓矢がクロスボウに勝る点は連射速度だが、火力や制圧力ではそもそも魔術の方が上なので、使いどころが見つからないのも仕方ないだろう。

 一応、貰っておくか。

「さて、お楽しみの宝物庫だな」

 俺はローブの襟を正し、最後の収穫を確保しに向かった。



「おいおい、あの頭目は怪盗エ〇イカだったのか」

 あの漫画は好きだった。

 ただの少女漫画の範疇に収まらない秀逸なギャグセンスと独特の世界観で、男性でも楽しめる傑作だったな。

 何はともあれ、目の前には十枚以上の絵画が無造作に置かれていた。

 絵のことはよく分からないが、こんな状態で保存しては愛好家がブチ切れるのではないだろうか。

「回収だな」

 俺も絵の扱い方なんぞ知らないので、とにかく余計なことをせずに魔法の袋に突っ込む。

 前世ならゴミ袋でも被せただろうが、生憎俺の手元にそんな気の利いたものは無い。

 ひどい保存方法でどれだけ価値が下がっているかはわからないが、時間が経過しない魔法の袋に入れれば、最低でも今の状態より悪くなることは無いだろう。

 油絵と水彩画の違いこそどうにか分かるものの、保存や運搬の方法など見当もつかない。

 俺にできるのはここまでだ。

 そして、売っ払うにしてもアテが無い。

 帰ったらヘッケラーにでも聞いてみるか。

「さて、気を取り直して……」

 宝物庫の金細工や銀細工に宝石、無造作に積み上げられた金貨などを回収していく。

 現金だけでも金貨二千枚以上あるな。

 総額二億円以上、馬車と野営地を守っている冒険者たちに分け前を渡しても一千万円単位の儲けか。

 これだから盗賊狩りはやめられないね。

 魔道具は……ありふれた物ばかりか。

 出たよ、パン屑を一定間隔で落とすやつ。

 王都の魔道具店でも売っていたが、これを考えた先輩の転生者は、そんなにヘンゼルとグレーテルを広めたかったのか?

 その割には書店でも魔法学校の図書館でも見たことは無いが……。

 魔法学校や書物で見覚えのある魔道具が無いか探したところ、最終的にはコピー機もどきを見つけた。

 これはエドガーかロドスのお土産に持っていくかな。

 他は野営地で欲しがる奴に渡すか金貨に変えるってことで。



「お、こりゃ魔剣か」

 絵画を仕舞い、魔道具と金銀財宝を撤去したところで、奥の方から箱に入った宝剣らしきやつらが出てきた。

 ただのミスリルのショートソードにオリハルコンのロングソードも一振りずつあった。

 貰っておこう。

 盗賊たちは武器としての性能よりも換金性に着目して、武器庫ではなく宝物庫に保管していたようだが、俺にとっては高性能な予備の(・・・)武器だ。

 他はどれも複雑な魔力を感じる魔剣の類だが、結構な数があるな。

 片手剣が三振りに、俺のものより大きい大剣が一振り、細剣が二振りに、短剣が五本。

 それに大型のカトラスのような形状の剣が一振りだ。

 効果がわからないので、手に取るのは親父さんかラファイエットに見てもらってからだな。

 呪いの武器だったら大変だ。

「ふぅ、大収穫だったな」

 食料と酒は駄目だったが、消耗品の武器と金目の物はたっぷりと入手できた。

 盗賊のアジトに魔術で執拗に火を放った俺は、暖かい懐を撫でてニヤ付きながらランドルフたちと合流するのであった。


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