雪原ニ 逃レ堕チルハ 我ガ帝
開け放たれたドアからは中と外の気温差のせいか、室内は白い霧でもやがかかっていた
伊丹「君は今やるべきことを優先しなさい、僕は僕を殺す」
少し前まで狂気に満ちていた笑顔だった男の面影は無く、つまらなそうな表情で伊丹は自身の氷塊に近づく
深江「だ、駄目だ‼︎そいつはあんた以上の能力を持っている‼︎」
深江は叫ぶが伊丹は足を止めない
伊丹「いいかい?能力の数で勝敗が決まる訳じゃない、実質僕は君より能力が多い筈なのに負けたのだから」
伊丹は氷伊丹から70センチ程の所で止まる
氷伊丹「・・・君が私のオリジナルか」
氷伊丹は一歩もひかない
伊丹「そうだよ、この偽物め」
伊丹は自身のコートを脱ぎ捨て、スーツだけになる
伊丹「さて、君はいつまでそこに座り続けるつもりだい?」
深江はその一言で反射的に立ち上がり、雪鳴に向かって走る
氷伊丹「・・・・おかしいですね、あなたは彼と共闘するものと思っていたのですが」
伊丹「いや?足手まといとは戦わない主義でね、さて、君もその白衣を脱いだらどうだい?」
氷伊丹「・・・・あなたの攻撃が一発でも当たれば脱ぎますよ」
伊丹は隠していた右手のオオカマキリの腕を氷伊丹の横腹に振るが、氷伊丹は硬化した左手でそれを受け止める
氷深江「・・・女神様を守らねば」
氷深江は雪鳴へと走る深江を襲撃しようとするが
蟻塚「おいおい、戦闘放棄って、そりゃあねぇだろ?」
蟻塚のバーチェルグンタイアリが氷深江の右足を噛み砕いていく
霧無「まだまだ私は本気を出していませんよ?」
霧無は圧縮した毒霧を氷深江の顔面に打ち込む
氷深江「・・・チッ、小賢しい‼︎」
氷深江は蟻とゴキブリを足元から作り出し、それらと共に蟻塚と霧無を迎え撃つ
深江「雪鳴、おい‼︎」
深江は氷結した女神を叩くが、びくともしない
恐らく、能力に飲み込まれてしまっているのだろう
深江「とりあえず外に出せば溶けるはず」
先程伊丹が入ってきた時に開け放たれたドア付近の氷は溶け始めていた
深江「建物の破壊は今は大丈夫そうだが、もしもの場合がある、翼を破壊していくか」
深江はミナミオカガニの能力を解放し、女神の肩から生える翼を切断する。
深江「これならいけそうだ‼︎」
8枚ある氷の翼は意外と簡単に切断出来た
最後の一枚に手を伸ばそうとすると
氷の女神「アァァァァァァァァァァァ‼︎」
女神は叫び声をあげるが深江は必死で最後の翼を切り離す
その時、背後からズシャと音が聞こえる、どうやら氷伊丹と氷深江が崩れたようだ
伊丹「とどめを刺そうと思ったらこれだ、今日はついてないようだね」
伊丹はつまらなそうに氷塊だったものを摘み上げる
蟻塚「とりあえず、外にでるか」
蟻塚は血を流しながらも霧無を抱き上げて扉へと向かう
薊野と元町と灘は重症ながらも外へ避難している
深江も女神を抱き上げようとするがカブトムシの能力を使ってもなかなか持ち上がらない
伊丹「ほら、変わってごらん」
伊丹は両腕をミズタコの腕に変えると軽々と持ち上げ、扉へと向かう
深江「あんた・・・なんで」
伊丹「今は共闘しているだけだからね」
伊丹は深江の問いに答えながらスタスタと外へ出て行く
外へ出ると同時に氷は溶け、建物は崩壊していく
氷の女神は内の姿を現す
深江「・・・・・・・誰だ?」
その時、灘の治療を受けていた深江以外全員が女神に視線をやる
伊丹「・・・そんな、言っておくが僕がこの教会で眠って貰った時には芦屋 雪鳴、本人だったよ」
灘「嘘・・・なんで?」
蟻塚「どうしたんだ?この娘じゃないのか?」
各々が驚愕の声をあげる
元町「深江、この人は俺と同じ深夜防衛課専門の人だ、訓練中に何度か見たことある」
伊丹「そして、どうやらもう息は無い様だね」
と言う事は
『・・・・アッハハハハハ』
何処からか声が聞こえる
薊野「あそこだ・・・」
薊野は毒で震える指を瓦礫となった教会とは反対側の建物に向ける
雲に覆われていた月が顔を出すと同時にその姿は現れる
深江「なんでだよ・・・何故⁉︎」
それは先程まで救おうとしていた雪鳴本人だった
雪鳴「皆、私を助けようとしてくれたんだねぇ?ありがとう」
雪鳴は冷酷な笑みを浮かべる
深江「お前は誰だ?」
深江は問いただす
伊丹「確かに、君の肉体は芦屋 雪鳴本人の様だが」
雪鳴?「あれ〜?ばれちゃいましたかぁ?」
一息置くと
雪鳴?「私は芦屋 雪鳴の能力として生きていたムカデだよ」
霧無「ふざけた人ですね、落ちなさい‼︎」
霧無は瞬殺の毒を繰り出す
雪鳴?「無駄よ」
雪鳴は毒を凍らせてしまう
雪鳴?「そして私は雪鳴だった者、名前は、そうね、氷雅とでも名乗っておきましょう」
薊野「全てを凍らせてしまうなんて、厄介だね」
深江「じゃあ氷雅、お前に聞く、雪鳴は何処だ?」
深江は冷静さを欠かずに問う
氷雅「ん〜、私の中のどこだろう、わかんない★」
全員「ーーーーーー‼︎‼︎‼︎」
雪鳴はどうやら自身の能力に飲み込まれた様だが、死んではいないみたいだ
氷雅「あ、そうだぁ、私用があるんだった〜」
そう言うと氷雅は誰にも目もくれず後ろを向く
氷雅「そろそろ他の帝も目覚めているだろうし」
その一言を残し、何処かへ消え去っていった
深江「・・・・・なんでだよ、なんでだよ畜生ぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎」
残るのは1人の男の叫びと名も知らぬ少女の死体と沈黙のみであった。




