最高傑作と最低駄作の会話
何故こうなった。
その日はいつもと同じように惰眠を貪っていた。
最近仲良くなった新米妖精のルーシーちゃんに刀身を磨いてもらった時のとこだ。
前世では妹に背中を流してもらうなどという夢のような出来事はなく、そんな事を言ったら間違いなく汚物を見る目で見られるだろうな、とか正直どうでもいいことを考えていた。
そんな俺の前にまた一人の男が現れた。
「僕は勇者カケル、伝説の剣と呼ばれる君の主人だ!!」
やっベーこいつ厨二だ、つか絶対に日本人だ。
この世界ではあまり見ない純粋な黒の髪と瞳を持つフツメン少年がイタい台詞を吐きながら俺を掴む。
そんな顔を真っ赤にしても絶対に抜けないよ。
お供の騎士っぽい人達もがっかりした様子をしてる。
勇者(笑)は地団駄を踏みながら肩を怒らせて帰っていった。
いったい何だったんだ?
《ねぇ》
《ん?》
《そこの綺麗な君、下だよ下〜》
頭……はないが、頭に直接響くような、金属音の混じった声が聞こえて俺は下を向いた。
そこには藍染めの紐で結わえられた外見は美しい一本の小刀が落ちていた。
《初めまして、神斬之紅姫。僕は《斬雨一式》、さっきの勇者に造られた脇差しだよ》
《あぁ、道理でお前は刀で(・)は(・)な(・)い(・)筈だな》
その脇差しは軸がぶれ、刃は歪み、刀身はくすんでいた。
まるで素人が刀に似た何かを真似たようなお粗末な造りをしていた。
確かに美しい小刀ではあるが、これでは使い手がつかないだろう。
《あはは〜そうだよね。あの子、頭が可笑しいんだ。僕みたいな駄作も駄作を作ってさ〜。だから………》
狂気的なまでに狂った声で
心底愉快そうに
そして何処か寂しげに
その脇差しは最高傑作に頼んだ
《僕を折ってくれない?》
伝説にまで讃えられる神斬之紅姫に壊されることを望む。
それは世界最低の駄作に唯一もたらされた希望だった。
最高傑作に壊されるという名誉、しかしそれはまやかしでしかない。
それでも駄作はそれに縋らずにはいられない。
そんな狂った脇差しの願いに応えた最高傑作は何千年もの間動くことのなかったその刀身を持ち上げ脇差しを叩き折った。
《ありがとう、やっぱり君は美しい最高傑作…だ……》
そして脇差しの意思は消えた。
神斬之紅姫は元の位置に収まると粉々に砕けた脇差しを見て、
《俺はそんな高尚なもんじゃねぇよ、斬雨》
もう作った当人でさえ忘れてしまったその名前を呼んだ。
それからその勇者は魔王に敗れて死んだ。
もともと悪政を敷いていた国の上層部が臣民の不満を全て魔王になすりつけただけであったのだが、愚かな勇者は自身の強大な力に溺れて事実を知ることはなかった。
攻め込んできた勇者たちに魔王と同盟国の武人たちがなんの苦労も怪我もなく完封勝利を収めたのだ。
その魔王の横には緋色に輝く刀身の、伝説の刀が有ったとか無かったとか。