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どーてー あにまるず  作者: 紀崎 廉
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選ばれし者たち



 皇楠学院高等学校は、由緒正しき伝統を守る学舎であり、角界の御曹司が全国から集まる。

 少数派として、一般家庭の出身者も紛れているが、肩身の狭さは異常である。


 そんな御曹司集団の中でも、一目置かれる存在が生徒会執行部だ。

 過去のメンバーには、歴代総理大臣や直木賞作家、ノーベル賞受賞者などが挙げられ、エリート中のエリートだということが分かる。

 家柄・頭脳・容姿の全てにおいて抜きん出た者だけが、生徒会役員に任命されるのであった。




 生徒会室の内装には、贅沢の限りを尽くされている。

 床に敷き詰められた真っ赤な絨毯の上には、アンティーク調の高級家具が並び、天井から吊るされたシャンデリアの細かい装飾には、思わず目を奪われる。

 入学式の準備で慌ただしい校内とは対照的に、生徒会室ではベルガモットティーの豊かな香りが広がり、何とも優雅な時間が流れていた。




 早朝から一人机に向かい、手際よく仕事に取り組んでいたのは、会計の鹿御条 敬人(かごじょう ひろと)である。

 艶やかな黒髪に切れ長の瞳、細長い指先で作業を行う姿からは、育ちの良さが滲み出るようであった。

 皇族の血筋である彼は、幼い頃から礼儀作法をみっちりと躾られてきたのである。

 今年度の生徒会役員は、近年稀にみる怠け者揃いで、役員全員が集まっていることの方が珍しく、唯一勤勉である鹿御条が、生徒会の全ての仕事を引き受けていると言っても、過言ではなかった。




「チーッス!」だらしない挨拶とともに、金髪頭の派手な男が入って来た。

「晶か、お早う。御前は顔に似合わず、時間だけはちゃんと守る奴だな。」机に向かったままの鹿御条が答えた。

「顔に似合わずは、余計だっつーの!」と突っ込みながら、ソファに深々と腰を下ろしたのは、副会長を務める豹堂 晶(ひょうどう あきら)だ。

 彼の父は、日本だけでなく、ロンドン・パリ・ニューヨークなどの各国に店舗を構える、世界的に有名なデザイナーだ。

 因みに、今彼らが身に付けている制服も、晶の父が手掛けたものだ。




 豹堂に数分遅れて生徒会に入ってきたのは、柔らかなウェーブの癖毛が可愛らしい美少年であった。

「お早う、瑞希。」

「何だよ、瑞希。俺より来るの遅いじゃん。」

 二人の言葉に、「ちょっと、トラブっちゃって。」とはにかみながら答える少年は、書記の蜂矢 瑞希(はちや みずき)である。

 彼の両親は、共に実力派の人気俳優として第一線で活躍している。

 その血を受け継ぐ瑞希にとっては、その美貌と高い演技力が何よりの武器だ。




「時間だから講堂へ向かおう。くれぐれも、新入生の前での振る舞いには、気を付けてくれ。」

 鹿御条に続き二人は立ち上がり、

「ちぇーっ、何だよ。今日も会長様は、ご欠席かよ。ほんと名前だけの会長だよなぁ。」

「仕方ないよ。ろうちゃんは、特別だから。」

 とぼやくのであった。




 講堂での式典はスムーズに進行され、理事長と生徒会からの挨拶だけが残されていた。

「Good morning everyone!」明るい声色とともに、理事長が登場した。

「狼士の親父、今年は何をやらかすつもりだろうな?」

 わくわくした様子の豹堂が呟いた。

「さぁ、何をする気でいるのかは存じ上げないが、昨晩から講堂に籠りきって練習を重ねていたそうだな。

 この後に予定されている、生徒会の挨拶は晶に任せるから、其のつもりでいてくれ。」

 そう言うと鹿御条は、事前に用意していたスピーチの原稿を、豹堂に手渡した。




「静かにしろ!俺は、生徒会副会長の豹堂晶だ。」

 突如姿を消した理事長のマジックにどよめく会場は、響き渡った声の主に注目した。

  満足気に話し始める豹堂であったが、体育教師に怒鳴られる後方の遅刻者を、生徒たちは振り返ることとなった。


 そこには、美しすぎる天使のような少年が立っていた。

 生徒全員、得体の知れない魅力を放つ遅刻者に釘付けとなり、豹堂の話に耳を傾ける者など、皆無に等しかった。




 豹堂が壇上でスピーチを始めた頃、蜂矢は何かに気付き「あっ!」と、女の子のような声をあげ、小さく手を振った。

 視線の先には、地黒でモデルのように背が高く、整った顔立ちの新入生がいた。

 男子生徒が蜂矢に気付き、軽く会釈する様子を横目で見ていた鹿御条は、「知り合いか?」と問い掛ける。

「フフッ、ちょっとした知り合いかな。」

 蜂矢は、意味深な笑みを浮かべながら、答えるのであった。




 豹堂による挨拶の言葉は、伍里山の馬鹿でかい声と美しい新入生の乱入により、まとまりのないものとなってしまった。

 席に戻った豹堂は、「あのチビ、許さねーっ!俺様の晴れ舞台を、邪魔しやがって!」とかなりの荒れ模様であった。

 彼は、生まれながらのスター気質で、自分以外の人間に注目が集まるのに耐えられないのだ。




 その後、長かった式典は無事に終了し、生徒たちは各々のクラスに移動し始めた。

 生徒会のメンバーも腰を上げようとした時、出口付近で騒ぎが起きた。

 よく見てみると、遅刻してきた美しい少年が、一人の生徒に絡まれているようだった。

 鹿御条は急いで仲裁に向かおうとしたが、その必要はなかった。


 先ほど、蜂矢と挨拶を交わしていた男子生徒が、美少年を抱き寄せて、こう言い放ったのである。



「ウサギは俺のものなんだよ!気安く、触るんじゃねぇ!!」



 男子校に同性愛者がいるのは、不思議なことではない。

 しかし、皇楠学院高等学校の歴史長しと言えども、これほど堂々とした愛の告白は今までになかった。





 何事にも動じないことで有名な生徒会のメンバーに、二人の新入生は、忘れられないほど強烈なインパクトを与えたのであった。


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