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どーてー あにまるず  作者: 紀崎 廉
1/9

プロローグ~約束~



「一緒に遊ぼうぜ。」



 そんなありふれた言葉が、二人の出会いだった。



 小学生の昼休みは、大人の想像以上に忙しい。

 口うるさい先生と一時休戦し、最大限に自由を謳歌するのだ。

 もう肌寒い季節だと言うのに、運動場は満員御礼のどんちゃん騒ぎ。

 見渡す限りあどけない笑顔が広がる中で、しんみりと一人花壇に腰掛ける少年がいた。


 声を掛けたウサギこと、宇賀野うさ吉(うがのうさきち)は愛くるしい顔とは裏腹に口が悪く、喧嘩っ早い典型的なお山の大将だ。

 一方のクマこと熊谷大樹(くまがいだいき)は、発育の悪い痩せ細った体に、地黒であることが災いして、まるで“ごぼう”のようだ。


 クマは時期外れの転校生で、通常ならばもてはやされるべき人物だったが、激しい運動が禁止された病弱な体と、人見知りで内気な性格から友達ができずにいた。

 そのため、ウサギが気まぐれに掛けた一言は、クマにとっては天使のささやきに感じられた。


 真逆な二人ではあったが、不足した部分を互いに補い合うかのようにして、急速に仲は縮まっていった。

 だが、そんな二人を良く思わない輩も中にはいた。




 ある日の放課後、遂に事件が起きた。


 一人呼び出されたクマは、数人の少年に取り囲まれ、

「お前、生意気なんだよ!」「ウサギといるからって、調子に乗ってんじゃねーぞ!」

 とヤクザまがいの御託を並べられ、謂れのない暴力を受けた。


 事情を知ったウサギは激怒し、主犯格の少年をギッタギタにやっつけたが、それで事態は収まらず倍返しの報復を受けることになった。




「威勢のわりに、大したことねーな!」

「愛しのクマの目の前でいいざまだな、ウサギ?」

 一方的に投げ掛けられる言葉に対して、反応を返すこともままならないウサギの姿がそこにあった。


「もう、やめて―!!」

 悲痛な叫びをあげたのは、大粒の涙を流すクマだ。

 ウサギがズタボロにされていく一部始終を目撃しながらも、数人がかりで押さえつけられたクマは「やめて、やめて!」と繰り返すばかりで、手も足も出せない状態だった。


「いいかげん、謝る気になったか?」

 使い古された決まり文句に、飽き飽きだといった様子で、ウサギは重たい体を起こし、途切れがちな声できっぱりと言い放った。


「俺は、誰にも、謝らない。お前らこそ、クマに謝れ。」


 火に油を注ぐウサギの発言に、クマの全身からは一気に血の気が引き、助けが来ることを切に願った。

「こらーっ、何してるんだー!!」

 遠くから聞こえてくる先生の声に安堵するクマの横を、少年たちは足早に逃げ去り、二人だけがその場に取り残された。




 涙でぐしょぐしょになった顔のクマは、立ち上がる気力も残っていないウサギの元に駆け寄ると、

「ごめっん、ごめん。僕なんかのせいで、こんなことになって、ごめん…」嗚咽交じりに謝罪の言葉を漏らした。

 しかし、ウサギからの返答は思いがけないものであった。



「僕なんかって、何だよ!お前は、俺の親友じゃねーのかよ!」

 びっくり眼のクマを横目に、ウサギは続けた。

「俺は、お前が大事だから腹を立てたし、お前のためだからこそ、必死になった。

 なのに、お前は自分のことなんかって言うのかよ?

 お前は、俺の親友だろ。」

 止めどなく溢れる涙を堪えきれないクマが、ゆっくりと首を縦に振る。

「俺は、お前に何かあったら、全力で守る。俺が、お前を守る。」

 声にならない声でクマが頷く。

「だから、俺がピンチの時はよろしく頼むぜ…親友!」

 へへっと、照れ臭そうに笑うウサギを見つめながら、クマは固く心に誓った。




『誰よりも強くなろう。

 ウサギを守れる存在になろう。

 僕が、ウサギを守る。』




 幼心に刻まれた約束は、二人の絆を強く結びつけたのであった。

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