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夏に眠る花  作者: 小日向冬子
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マジ、やばいんですけど

 次の日も、その次の日も、月子は学校に来なかった。

「誰か、何か聞いてないか?」

 電話にも出ないのだと、担任が心配そうに言った。

 あの日から、うちにも来ていなかった。三日前のハンバーグも、おとといの冷しゃぶも、昨日の夏野菜カレーも、ジップロックで冷凍保存という食べ物としては不本意であろう憂き目にあっている。

 体調でも悪いんだろうか。

 もしかして、僕のせい?

 うわ、どうしよう。このままずっと、不登校なんかになって、高校にも行けなくなって、ずっと引きこもりなんかになっちゃったりしたら……

 考え始めると、これでもかこれでもかと最悪の状況ばかりが頭に浮かんでくる。

 と、とにかく、帰ったら、月子の部屋を尋ねてみることにしよう。そう思ってなんとか自分を落ち着かせる。


 ピンポーン

 ピンポーン

 10階でエレベーターを降りてすぐの部屋。表札が出ていないからちょっとドキドキしたが、うちの真下なのは間違いない。が、何度ドアホンを押しても応答がない。出かけてるのか? いや、それにしても学校に連絡がないのはおかしいし。中で倒れてるとか? あの父親は、あまり帰ってこなさそうだし。ああ、洒落にならないほど怖い想像ばかりが浮かぶ。僕は、筋金入りのビビリなのだ。

 とにかく、もう少ししてからまた来てみよう。気を取り直して、自分の部屋に戻る。

 今日の夕飯は、トマトの冷製スープパスタと、シーザーサラダだ。すりおろしたトマトに、オリーブオイルとニンニク、塩コショウを加える。サラダにはゆで卵とツナをトッピングして、冷蔵庫で冷やしておく。麺は食べる直前にゆでよう。これならもし月子がうちに来ない間ずっと何も口にしていなかったとしても、スープぐらいは飲めるだろう。

 スープに散らすパセリを採りに、ベランダに出る。温度設定をかなり高めにしているとはいえ、やはりエアコンは偉大だ。外に出た瞬間に、まとわりつくようなこの熱気。ベランダに置いた室外機からも熱風が出てるから、よけいに暑く感じる。

 と、どこからか途切れ途切れの歌うような声が聞こえてきた。

 なんとなく、聞いたことがあるようなメロディーだけど、これって何の歌だっけ?

 あれ、ちょっと待て。この声、どこかで……

「月子!」

 僕は反射的に、ベランダの床に設置された避難ハッチに向かって呼びかけた。

 声が止まった。

「月子……そこにいるの?」

 返事はなかったけれど、確信があった。僕は力を込めてハッチを持ちあげ、ロックをはずした。

 果たして階下のベランダの隅に、膝を抱えて座り込んでいる月子の青ざめた顔があった。

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