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夏に眠る花  作者: 小日向冬子
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深く憂慮いたします

「へえ、月ちゃんのお父さん、帰ってきてるんだ」

 いつも夏は月子に合わせてあっさりめのメニューが多いのに、今週はやたらがっつり系のおかずばかり続いているのをいぶかる母に、僕はようやくことのあらましを説明した。こっちも期末だったし、母もこのところかなり仕事が忙しいらしく家ではほとんど使い物にならないように見受けられたので、あえて月子の話を持ち出すこともしなかったのだ。

「あのあとは連絡ないんだ?」

 あの、というのは、以前月子の父親が「わたしにはどうすることもできないんです」と言って電話を切ったというときのことだ。

「そりゃそうよ」

「いや、でもさ、世話になってるのわかってるんだし、こっちにいるなら電話なり直接あいさつ来るなりするのが筋じゃね?」

 別に恩に着せたいわけじゃないが、僕はこういうことに関しては結構義理がたい人間なのだ。

「まあ、そうとも言えるけどねえ」

 母さんはいつものようにビール片手に、ニンニクたっぷりの牛肉スタミナ焼きを頬張っている。

「でもさあ、なんか、月ちゃんのお父さんの気持ちも、わかる気はするのよ」

「何が」

「まあ、人間負い目があると、どうしてもね」

 そう言ってクピッとビールを飲む瞬間の母は、本当に幸せそうに見える。

「負い目って?」

「うーん。帰ってこようと思えば、もうちょっと来れるんだろうけど。時間がないだけじゃ、ないのかもねえ」

「それって、どーゆー……」

「ん? 親にもまあ、いろいろ、あるのよ」

 そう言って母はあいまいに笑う。最近、肝心なところになるといつもそうだ。わかってる? 親もいろいろあるなら、子どもだっていろいろあるんだから。

 僕は食器を洗いながらこっそりと口をとがらせた。


 結局、今回の期末も、最後までロクに集中できなかった。

 そういえば一年前もおんなじようなことをしてた気がする。あのときは確か月子の体調が最悪で、こっちもずーっと気が気じゃなかったんだ。今年は逆に月子が元気過ぎて、いやというほど心がかき乱されたまま終わってしまった。どのみち自分が常に月子に振り回されてることに僕は深く憂慮する。

 父親の休みは一週間って言ってたけど、そしたら今日で終わりのはずだ。このあとはどうするんだろう。また前みたいに、月子はほぼ放置されてしまうんだろうか。

 そのことについても、僕はさらに深く憂慮した。

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