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夏に眠る花  作者: 小日向冬子
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僕が、守ってやらなくちゃ

 校庭の桜が満開を迎え、ベランダのシクラメンの花がすっかり枯れてしまったころ、僕たちは高校二年になった。

 始業式の朝、いつものように月子と一緒に登校すると、掲示板の前にはすでに黒山の人だかりができていた。

「加瀬! 月子!」

 黒山の向こうから目ざとく僕たちを見つけた栗原が、手を振りながら大声で叫ぶ。見ると、その指がVの形になっている。どうやら今年も三人同じクラスのようだ。僕は誰もこっちを見ていないのを確かめてから、ふにゃっと頬を緩める。

「桃ちゃーん!」

 月子がぴょんぴょん飛び跳ねながら栗原に駆け寄っていく。あいつがついててくれるなら今年も安心だと、そんなことを思ってしまう僕は、やっぱりちょっと過保護なんだろうか。

 入学当初、僕が月子の彼氏ではと大騒ぎしていたクラスメートたちも、日が経つにつれ僕たちの関係がどうやらそういう艶っぽいものではないらしいと気づいたようで、今では僕は月子の「保護者」として認識されるようになっていた。

 保護者。

 確かに、それは一番的を得た表現なのかもしれない、と、一抹の寂しさとともに思う。


 月子は、汗をかかない。

 この二年間ほぼ毎日顔を合わせているけれど、月子の肌が汗ばんでいるのを目にしたのは、覚えている限り熱を出したあのときだけだ。それもたぶん、解熱剤を飲ませたからに過ぎない。何かの拍子に触れる月子の体は、いつだって氷のように冷たかった。そしてどんなに暑い日でも、彼女が自分からエアコンをつけるのを見たことがなかった。

 僕たちが通う高校は、一応制服はあるものの別に強制ではないから、入学式からしばらく経つと、ほとんどが私服で登校するようになる。けれど月子は、夏でもときおり長袖のタートルネックを着てきたりした。「暑くないのかよ」と聞いてみても、平然としたようすで「別に」と答えるだけで、特に我慢している風でもない。

 こいつには、何かのセンサーが欠落しているのかもしれない。

 それに気づいてから僕は、毎日必ず一度は月子の家に行き、空調を確かめるのが習慣になった。それ以外でも、暑い日にはちゃんと水分を取っているだろうか、寒くなれば冬用の布団を使っているだろうかと、気がつくと細かなことにいちいち気を回している。

 そういえば父も、どこかスコーンと抜けたところのある母に代わって家の中のことにあれこれ気を配り、料理も洗濯も掃除も看病もごく自然にこなしていたような気がする。もしかするとこの性質は、遺伝なのかもしれない。

 六月になると、梅雨のじめじめした暑さと季節が逆戻りしたような寒い日が何度も繰り返されるようになった。そろそろ月子の調子が狂い始めるころだろう。僕は弁当作りの傍らで、できるだけ少量で栄養がとれそうな献立作りに頭を悩ませた。

 僕が、守ってやらなくちゃ。

 自分でも気がつかないうちに、その思いは僕の中で、とても強く揺るぎないものになっていたのだった。

 

 そんな風に僕たちは、出会ってから3回目の夏を迎えようとしていた。

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