表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏に眠る花  作者: 小日向冬子
29/52

暗黙のリョーカイ

 高校生活はじめての期末試験は、散々な結果に終わった。試験の一週間前まで続けた弁当作りや、体調を崩した月子のケアなどを考えれば充分予測できたことだから、そこはまあ、あきらめもつく。

 が、前日まで欠席を続け、試験当日も老人のような足取りでかろうじて登校した月子が、僕より平均点が20も高いっていうのは、いったいどういうわけだ。普段は親に対する感謝を一瞬たりとも欠かさない僕だけれども、こと頭の作りに関しては、このDNAを受け継いだことを心底後悔するね。

 試験が終わって安心したのか、ここのところ月子の体調はいくらか落ち着いているようだった。久しぶりにわが家で夕飯をとりたいというのでリクエストを募ると、「冬瓜のそぼろあん」というしぶーい答えが返ってきた。もちろん作りましたよ、腕によりをかけて。しばらくろくに固形物をとっていないことを考慮して、とりわさの薄造りと特製スープのジュレも用意する。

 あの日、栗原にどう思うかと聞かれた月子の入院疑惑について、僕は何も答えることができなかった。正確には、自分の考えを口にすることができなかった。本当は「みいちゃん」の話を聞いて、僕はすぐに確信したのだ。そこにいたのは、月子だと。けれどそれは、あまりに「不確かな確信」だったから、どうやって説明したらいいのかわからなかった。

 なぜなのだろう、と思う。なぜ自分は、確たる根拠もないままに、それは人違いでも何でもなくて、月子本人に違いないと言いきれてしまうのだろう。そのくせ実際にこうして向かい合っていると、とても本人に確かめることなんかできないって思ってしまう。まるでそれが、ずっと以前からの暗黙の了解であったみたいに。

「なに? なんか、顔についてる?」

 氷に乗せた薄っぺらなとりわさを箸でつまみながら、月子が不思議そうな顔をする。

「月子ってさ、子どもの頃から、夏はこんな感じなの?」

 核心を避けるようにして、僕は常々思っていたギモンだけを口にした。

「ん……?」

 月子は箸をくわえたまま、天井のある一点をじっと見つめて動かなくなった。

「月子?」

 そこに過去の映像を見ているかのように、月子はぼんやりと口を開いた。

「夏休み……いっつも、旅行してたかも」

「へえ、どの辺?」

「覚えてるのは、ハワイとか、スイスとか」

 サクッと言うか、そういうこと。自慢じゃないけど、こっちはまだ海外になんぞ一度も行ったことなどないんだぞ。っていうか、そもそも本州から出たことないし。

 ん、待てよ。ということは、その頃は月子、夏も元気だったんだ。

 それじゃあこいつは、いったいいつから、こうなったんだ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ