暗黙のリョーカイ
高校生活はじめての期末試験は、散々な結果に終わった。試験の一週間前まで続けた弁当作りや、体調を崩した月子のケアなどを考えれば充分予測できたことだから、そこはまあ、あきらめもつく。
が、前日まで欠席を続け、試験当日も老人のような足取りでかろうじて登校した月子が、僕より平均点が20も高いっていうのは、いったいどういうわけだ。普段は親に対する感謝を一瞬たりとも欠かさない僕だけれども、こと頭の作りに関しては、このDNAを受け継いだことを心底後悔するね。
試験が終わって安心したのか、ここのところ月子の体調はいくらか落ち着いているようだった。久しぶりにわが家で夕飯をとりたいというのでリクエストを募ると、「冬瓜のそぼろあん」というしぶーい答えが返ってきた。もちろん作りましたよ、腕によりをかけて。しばらくろくに固形物をとっていないことを考慮して、とりわさの薄造りと特製スープのジュレも用意する。
あの日、栗原にどう思うかと聞かれた月子の入院疑惑について、僕は何も答えることができなかった。正確には、自分の考えを口にすることができなかった。本当は「みいちゃん」の話を聞いて、僕はすぐに確信したのだ。そこにいたのは、月子だと。けれどそれは、あまりに「不確かな確信」だったから、どうやって説明したらいいのかわからなかった。
なぜなのだろう、と思う。なぜ自分は、確たる根拠もないままに、それは人違いでも何でもなくて、月子本人に違いないと言いきれてしまうのだろう。そのくせ実際にこうして向かい合っていると、とても本人に確かめることなんかできないって思ってしまう。まるでそれが、ずっと以前からの暗黙の了解であったみたいに。
「なに? なんか、顔についてる?」
氷に乗せた薄っぺらなとりわさを箸でつまみながら、月子が不思議そうな顔をする。
「月子ってさ、子どもの頃から、夏はこんな感じなの?」
核心を避けるようにして、僕は常々思っていたギモンだけを口にした。
「ん……?」
月子は箸をくわえたまま、天井のある一点をじっと見つめて動かなくなった。
「月子?」
そこに過去の映像を見ているかのように、月子はぼんやりと口を開いた。
「夏休み……いっつも、旅行してたかも」
「へえ、どの辺?」
「覚えてるのは、ハワイとか、スイスとか」
サクッと言うか、そういうこと。自慢じゃないけど、こっちはまだ海外になんぞ一度も行ったことなどないんだぞ。っていうか、そもそも本州から出たことないし。
ん、待てよ。ということは、その頃は月子、夏も元気だったんだ。
それじゃあこいつは、いったいいつから、こうなったんだ?




