月子のカコ
この章には、摂食障害についての記述が出てきます。抵抗のある方は、ご遠慮ください。
栗原の話はこうだった。
久しぶりに会ったいとこの「みいちゃん」と互いの近況なんかを話しているうちに、ひょんなことから加瀬弁の話題になった。そもそも月子っていうすんごいキレイな子が、毎日加瀬に弁当作ってもらってたのが始まりなんだけどね、と言うと、急にみいちゃんが目を見開いた。
「月子? って、その子、名字は?」
「え? 町田、だけど?」
いぶかしく思いながらも栗原が答えると、みいちゃんは畳みかけるように尋ねてきた。
「もしかして、髪がすーっと長くて、肌がすべすべで、真黒な目だったり、する?」
「みいちゃん、月子のこと、知ってるの?」
「知ってる、かも」
そのとき初めてみいちゃんは、自分が高校の時に拒食症になって入院していたことを打ち明けてくれた。
そこには、自分と同じようにやせ衰えた十代とおぼしき女の子が、何人か入院していたという。
「今思うと、どうしてあんなに、自分は太ってると思い込んでたのかしらって、不思議なくらい。でも、そのときはもう必死でね、自分よりやせてる子を見かけると、自分ももっとやせなきゃって、頭の中はそればっかりなのよ」
生命維持に必要な最低限の食事さえ拒否する者、食べてしまった分を消費しようとふらふらになって縄跳びをする者、もう退院すると泣きわめく者。入院患者同士の見えないバトルが繰り広げられる中で、ただひとりそんなものとは無縁に見えたのが、月子という名の、中学生の少女だったという。
「なんていうかね。わたしも含めてたいていの子は、とにかく少しでもやせたくて仕方なかったの。やせてなきゃみっともない、愛してもらえないって思い込んでたから、必死だった。でも彼女だけには、なぜだかそういうものを感じなかったのよね。ああ、別にこの子、やせたくて食べないわけじゃないんだなって。だから、なんだかすごく印象に残ってて」
そっかー、あの子、ちゃんと高校生になってるんだ、と、みいちゃんは嬉しそうにつぶやいた。
栗原はそこまで一気に話すと、重い荷物をやっと下ろしたときみたいに、ふうっとひと息ついた。
「で、加瀬は、どう思う?」




