表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏に眠る花  作者: 小日向冬子
26/52

夏の夜のひとこま

 春先までベランダの隅で小さな薄紅色の花を咲かせていたわが家のシクラメンは、今年も梅雨が終わるころにはすっかり葉を枯らし、約束通り静かに夏の眠りについてしまった。こうなるともうお手上げだ。僕にできることと言えば、夏が終わって再び自分の力で芽吹くまで、できるだけ風通しのいい日陰において、そっと見守ることだけだ。

 シクラメンが枯れていくのと時を同じくして、月子の体調も狂い始めた。去年と一緒で、食事の量が極端に少なくなり、外にあまり出ようとしなくなっている。

「そろそろだめなのねえ、月ちゃん」

 ラップのかかったチキンソテーの皿を見つめ、母がちびちびとビールを飲む。

 僕は肉屋で安く手に入れた鶏ガラを使い、時間をかけてコトコトとスープを煮込む。タマネギ、人参、ジャガイモ、セロリ、思いつく限りの材料を入れて。

 くつくつと煮える鍋を見ながら、料理は、祈りなんだな、と思う。


 どうか

 君の体の隅々にまで、この栄養が染みわたっていきますように。


 どうか

 すべてが血となり、肉となり、君の人生を、力強く形作ってくれますように。


 どうか

 弱ったいのちが消えることなく、眠りの夏を越え、再び芽吹いてくれますように。


 何もできないもどかしさをただただぶつけるように、僕はスープを作り続けた。


「母さん」

「ん?」

「僕ね」

「うん」

「父さんにも、このスープを、飲ませてあげたかったな」

「……そうね」


 静かに夏の夜は更けていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ