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僕の弁当は、すこぶる評判が良かった。
ひと月もすると、噂を聞きつけた別のクラスからも注文が入るようになり、大盛り2、普通2、おかず4の計8個という限られた枠の争奪戦は、ますますヒートアップしていった。巷では、「ね、加瀬弁もう食べた?」というのがあいさつがわりになっているという。
早い者勝ちではどうしても不公平感があるということで、とうとう栗原は希望者全員によるくじびきという方法に打って出た。まるで、どこやらのアイドルグループのようだ。
「ねえ、加瀬君。昨日の卵焼き、どうしたらあんなにきれいでふわふわに作れるの?」
弁当作りを始めて以来、こうして誰かに突然声をかけられる、というシチュエーションが一気に増えた気がする。
「ああ、あれはね、焼く前に卵液を濾すんだよ」
たいていの場合、あれ、この子誰だっけ? と思いながら話をしていた。実は僕は、人の名前を覚えるのがすこぶる苦手なのだ。
「濾すって?」
「うーんと、目の細かいざるみたいなのに通してね、なめらかにするんだ」
「へーっ、そうなんだ。全然、知らなかった。加瀬君って、すごいね」
「えっ、いや……」
普段ほめられなれてないと、こんなときにどういう顔していいかわからない。ぎくしゃくと顔の筋肉を動かして、精一杯口角を上げてみる。これでちゃんと、笑えているんだろうか。
「ふうっ」
「よっ、どうした、なんか疲れてんじゃん」
のしのしと近付いてきた栗原が、だらんと椅子に座る僕の背中をバシンとたたく。
「弁当、きつい? 定休日でも作るか」
「いや、なんつーか、ほら、こういうの、慣れてないからさ」
「こういうの?」
「うーん、簡単に言うと、悪意を向けてこない人間と、いっぱい関わる感じ?」
「ああ」
栗原は、それだけですべてを納得してくれたようだった。そして何度も小さくうなずきながら、ほんの少し目を細めた。
「でもさあ、いい機会だったんじゃない?」
「え?」
「加瀬、高校に来てずいぶん雰囲気変わったもん」
「え、そ、そうかな」
考えたことなかったけれど、そう言われてみれば、そうなのかもしれない。
「月子に、感謝、だね」
「へ?」
栗原はそれだけ言うと、むふふ、と不思議な笑いを残して自分の席に戻って行った。




