手作り弁当、承ります
「これ……ホントに、全部加瀬が作ったの?」
僕たちが弁当の蓋を開けた瞬間に、栗原が固まった。
「そう、だけど」
「はあ。うちの嫁に、欲しいくらいだわ」
コンビニの袋から菓子パンをがさがさと取り出しながら、栗原がため息をつく。
そのやり取りを聞いて、クラスメートが周りに押し掛けてきた。
「うわっ、すげっ」
「かーちゃんの弁当より全然うまそーだわ」
「何これ、加瀬って何者なの?」
さっきとは違う種類のざわつきが、微妙に僕の心をくすぐる。
「いーなー、加瀬の彼女はただでこんな弁当作ってもらえて」
「い、いや、違うって。そういうんじゃなくて……」
断固としてそこだけは言っとかないと。けれどみんな、僕の言葉などまともにとりあおうとしない。
「なんだよ、今さらごまかすなよ」
ヒューヒュー、と誰かが口笛を鳴らし、そうだそうだと周囲がはやし立てる。
そのとき、ずっと黙ってそのやりとりを聞いていた月子が、憮然とした表情で突然口を開いた。
「ただじゃないよ。ちゃんと、お金払ってるし」
一瞬、その場が鎮まる。
「え? そうなの?」
「うん。そーゆー契約だから」
月子が肉団子をぱくつきながら、こともなげに答える。
「ちなみに、いくらなの」
僕は頭の中でざっくりと計算する。
「さ、三百円くらいかな」
再び教室内がどよめく。
「マジかよ」
「すっげー安いじゃん」
「いや、町田さんの分は、量が少ないから…」
言い訳みたいに付け加えたが、実際は僕と母の分を作るついでに少しだけとりわけているだけだし、余った食材や作り置きのおかずをちょこちょこ利用したりしてるから、三百円もかかっていないんじゃないかと思う。
「え、じゃあさ、もし普通の量で作るとしたら、いくらでできる?」
「さあ、たぶん四百円……とかあれば?」
「そんじゃ、大盛りだったら五百円ってとこか」
「まあ、そうだね」
「よし、買った!」
「へ?」
「だって、コンビニ弁当よりずっとおいしそうだし」
「ちょ、ちょっと待って……」
「ずるいな、それなら俺だって」
「あ、わたしも欲しい」
「早いもん勝ちだってば」
え――っ?
こっちが呆気にとられている間に、栗原がすっかりその場を取り仕切っていた。
「で、加瀬は何食分なら作れそうなの」
「え、え……と、炊飯器が五号炊きだから、僕と母さんと月子の分を抜かすと、普通と大盛り二人前づつがせいぜいかな。おかずだけならもう少し作れるかもしれないけど」
「それじゃあ、希望者は前日の朝から放課後までにこの注文票に名前を記入すること。大盛り五百円、普通盛り四百円、おかずだけなら三百円、支払いは弁当の受け渡しの時で、ツケはなし。あと、試験前とか、加瀬の都合が悪い時には閉店、ってことで、いいね?」
「は、はい」
いいもなにも、じろり、と周りを見渡した栗原の迫力に、その場にいた全員が何も言えなくなっていた。
もちろん、僕も。
栗原は僕がうなずくのを待っていたかのように、例の三日月眼でにんまり笑ったかと思うと、自分の名前を真っ先に明日の注文票に記入した。
こうして僕は意図せずしてクラスのほぼ中心に巻き込まれながら、新しい高校生活を踏み出したのだった。




