置いてきぼりは、もういやなんだ
月子が選んだ弁当箱は、くまのキャラクターがついた子ども用みたいなちっちゃなやつだった。二段重ねの下段にごはんを、上段におかずを入れる、よくあるタイプ。蓋の間に箸と小さな保冷剤まで入れられるようになっている。でも、こんな量で果たして一日もつのだろうかと、他人事ながら心配になる。
確かに、普段から月子はひどく少食だった。好物のカレーや芋料理なんかは調子が良ければびっくりするくらいおかわりするけれど、そうでなければたいていは僕たちの半分も食べないうちにごちそうさまをする。そもそも男子である僕と、「ダイエットしなきゃ」が口癖なのに一向に痩せる気配のない母を基準にしていいものかどうか、よくわからないけど。
とにかく高校生活初めてのお弁当は、幼稚園児の母よろしく食べやすく栄養が偏らないようにと細心の注意を払ったメニューだった。甘辛たれの肉団子にひじきの煮物を混ぜた卵焼き、椎茸のソテーとブロッコリーの塩ゆでにプチトマトを添えて。ご飯は、ゆかりを混ぜ込んでひと口大に軽く握ってみた。
形も大きさもバラバラの三つの弁当箱にそれぞれぎっしりと彩り豊かなおかずが並んでいるようすを見ると、我ながらその出来栄えに思わず口元が緩む。
「あらあ、今日から洋介たちもお弁当なのね。なんだか、嬉しいわぁ。お昼には、三人でおんなじお弁当食べてるんだものねぇ、うふふ」
母が皿に残っていた卵焼きをつまみながら、嬉しそうにテーブルの周りをぐるぐる回る。
そっか、別々のところにいても、おんなじお弁当を広げてるんだ。
なんだか僕も、嬉しくなった。
弁当は、登校前に月子の家に届けることにした。
すでに月子の周囲は、一年前に転校してきたばかりの頃とすっかり同じ、いやそれ以上の騒がしさだった。休み時間になると上級生までが美しく整った陶器のような新入生を一目見ようと押しかけてくる。そんな中で手作り弁当を渡すなんて、想像するだに恐ろしい。
「じゃ、学校でな」
玄関先でそう言って先に行こうとする僕を、パジャマ姿の月子が呆気にとられた顔で見つめた。
「なんで? 一緒に行かないの?」
「へ?」
僕は一瞬何を言われているのかわからなかった。
「すぐ支度するから、ちょっと待ってて」
「いや、おまえ着替えだってしてないじゃん」
「いいから。すぐ、ホントすぐだから」
月子はパジャマに手をかけながら、バタバタと家の奥に入って行く。
「急に、どうしたんだよ。今までだって、別々に行ってただろ?」
月子がいる方向に向かって、僕は叫んだ。
「今までとは、違うじゃん。なんで、そこにいるのに、わざわざ置いてくの?」
ハッとした。
月子の声が、震えている。
「一緒に行く」
絞り出すみたいな、月子のことば。
「頼むから……ヨースケまで、わたしを置いてかないでよ」
パパ、パパ
体中で、ちっちゃな子どもみたいに叫んでいた月子。
僕は玄関に立ちすくんだまま、それ以上何も言うことができなくなった。




