新しい生活が始まろうとしています、が
春が来た。
僕と月子と、そして嬉しいことに栗原も、無事、西高に合格した。
あとは卒業式を待つばかりとなった教室では、受験が終わった解放感と別れの寂しさと来るべき高校生活への期待と不安とが渦を巻いて、クラスメートたちはそわそわと浮足立っていた。春休みのディズニーランドは混んでるかなとか、あそこの制服あんまりかわいくないとか、部活どうする、とか、脈絡のない会話が飛び交う。
「ゲゲッ、高校って、給食ないんだ?」
窓際で肘をつきながら、なんとはなしにみんなの話を聞いていた月子が、突然素っ頓狂な声を出した。
「あれ、知らなかったの?」
近くで固まっていた男子たちが、ざわざわと会話に加わる。
「うん」
「そんなん、購買でパンとか買えばいいじゃん? コンビニもあるし」
「そっか」
「でもさ、毎日それじゃ、飽きそうだよね」
「うーん」
「運動部の奴なんか、全然足りないだろうし」
「うちの兄ちゃん、弁当は昼食でパンは間食って言ってた」
とりとめのない話が延々と続く中で、月子が急に振り向いた。
「ヨースケは、どうするの?」
「へっ?」
クラス中の視線がこっちに集まる。
「いや、それは……弁当、作るつもりだけど」
もごもごと答える僕に、月子はあっけらかんと叫んだ。
「わたしも、ヨースケの弁当がいい!」
「なんでダメなの? ちゃんとお弁当代は払うよ」
帰る道すがら、月子は長い髪を揺らしながら、僕の顔を下からのぞきこむ。
「いや、だから、そういう問題じゃなくて」
「じゃあ、どういう問題?」
こうやって並んで歩いているだけで、僕まで必要以上にみんなの注目を集めているっていうこと、気づいてないのは本人だけなんだよね。
「あーもう、わかった、わかったから。月子の分も、作ってやるから」
「ホント? わーい、やったー」
屈託のない笑顔。こうして僕は、結局いつも月子の言いなりになってしまうんだ。
あーあ、高校でもきっと、この調子なんだろうな。




