食欲の秋だっつーの
夏が、終わった。
正確には、夏休みが終わった。
そしてそれは、受験生である僕たちにとっては、大変ありがたくないことでもあった。
その一方で、ノックアウト寸前のボクサーみたいにへろへろになっていた月子が、わずかずつ息を吹き返しはじめた。新学期が始まってから半月以上もだらだらと残暑は続いていたけれど、月子は学校を休むことも夕飯を食べにこないことも少なくなり、街路樹が色づき始めるころにはこけた頬もふっくらし始め、すっかり以前の調子を取り戻していた。
「うわ、きぬかつぎだあ!」
ある日八百屋の店先で見かけた小さなサトイモについつい食指が動き、シンプルに蒸して食卓に出すと、月子は嬉しそうに目を輝かせて真っ先に飛びついた。少しだけ残した皮のところを指でつまみ、しょうゆにつけてつるんつるんと口に放り込んでいく。
「う、まーい!」
この上なく幸せそうな顔で芋を頬張るその姿は、夏の間の月子とは別人みたいだった。
「そんなに、好きなの?」
「うん。山梨のばあちゃんちで、よく食べてた」
そう言って月子は、口の横についたしょうゆを舌でぺろりとなめた。
まるでペコちゃんだ。
「何? なんかおかしい?」
「いや……そんなに好きなら、これも食べていいよ」
僕は自分の小鉢を月子のほうに押しやる。
「え? いいの? ホントにいいの?」
くすくすと笑いながら、僕は答える。
「いいよ。ホントに」
「うれしー。ヨースケって、ホント、優しいね」
「なんだ、今頃気づいたのか」
「ううん。そんなの、ずっと前から知ってるよ」
急にそんなこと言うから、僕の耳はまた真っ赤になる。どうしてこいつはこうぬけぬけと、こっぱずかしいセリフを口にするんだろう。
ガキだからか?
そう考えて、複雑な気持ちになる。
こんなガキをずっとひとりで放っておくなんて、あの親はどういうつもりだよ。
僕は、自分は何もできない子どもじゃないとは思ってるけど、ひとりじゃ生きていけないことぐらい、ちゃんとわかってる。だから、ホントに困った事態になったら迷わず母さんを頼るし、万が一母さんになにかあったとしたら、きっと田舎のじじばばを頼るだろうって思ってる。
でもさ、月子には、その誰がいるというのだろう。
「なあ、その山梨のばあちゃんって、元気なの?」
「うん。おじいちゃんもおばあちゃんも、バリバリ元気だよ。なんで?」
「いや、夏休みとかって、普通行くんじゃないかなって思ってさ」
次のサトイモに伸ばそうとした月子の手が、ピタリと止まった。
「行かない。もう、行かないもん」
「へ?」
月子はそれ以上何も言わずに、憮然とした表情でただ黙々と芋を食べ続けた。




