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夏に眠る花  作者: 小日向冬子
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おまえ、やっぱりお嬢様なのかよ

 母の言葉がずっと引っかかって、布団に入ってからもなかなか眠れなかった。

 体の調子が悪いんじゃないとしたら、ココロの病ってことかよ。

 僕の知る限り月子は恐ろしくマイペースで、ずうずうしくて、とても心を病むような奴には思えなかった。

 でも――。

 父が死んだあと、いつだって「大丈夫よ」って笑ってた母は、毎晩夜中になると、ひとりでこっそり泣いていた。僕だってそうだ。どんなに学校でいじめられても、強がって全然平気なふりをしてたし、母の前では無理やり笑顔を作ろうとしていたではないか。

 家族だって、知らないことがある。家族でなければ、なおさらだ。

 僕は、窓の外の月を見て怯えたような顔をした、あのときの月子を思い出していた。


 その夏の間中、月子は欠けた櫛のように、休んだり登校したりを繰り返していた。うちにも来たり来なかったりで、夏休みになると小さな体がさらにひと回り痩せた気がした。でも、「大丈夫か?」と聞くと、必ず「大丈夫大丈夫、ちょっと夏は苦手なんだ」と笑顔を作って答える。他人の僕にできるのはせいぜい、倒れてないかを確認しに行くことくらいだった。

 そんなある日、何日かぶりに夕飯を食べに来た月子が、「これ、パパから」と言って白い封筒を差し出した。

「何」

「ヨースケの家でご飯食べてるって言ったら、渡せって」

 中を見ると、分厚い1万円札の束が入っていた。数十枚はあっただろう。

「い、いや、おまえの分なんて、こんなにかかってないから」

 あわてて返そうとすると、月子が泣きそうな顔で首を振った。

「渡さないと、パパに怒られちゃう」

 あーもう、頼むから泣くなってば。

 僕は困ってしまい、じゃああとで母さんに聞いてみるよ、と言って、とりあえず封筒を受け取った。


 その日も夜遅く帰ってきた母は、封筒の中身を見て目を丸くした。

「まあ、月ちゃんのお父さんって、どんなお金持ちなのかしら。こんな大金、貧乏人には目の毒だわねぇ」

 母の言葉に、月子の優雅なテーブルマナーをふと思い出す。

「で、どうする?」

「あら……ちょっと待って」

「どうしたの?」

「まだ何か入ってるみたい」

 逆さまにして振った封筒の奥からひらりと落ちてきたのは、一枚の名刺だった。誰でも知っている大手商社の名前の後に、『○○部長 町田茂樹』とある。裏を見ると、きっちりした文字で『いつも娘がお世話になっています。もし何かありましたらご連絡ください。携帯080××××・・・・』と書かれていた。

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