だって食べれないんだもん
せっかく熱も下がって元気になったと思ったのに、次の日も月子は学校に来なかった。僕は休み時間にこっそりと職員室に行き、担任に昨日の状況を伝えておいた。もしクラスの誰かに聞かれでもしたら、せっかく栗原がおさえてくれた騒ぎがまた大きくなるのは目に見えていたからね。
「そうか。いや、保護者ともずっと連絡が取れなくてな。うーん、加瀬、悪いけど、ときどきでいいから、ようす見てやってくれるか」
「はい、わかりました」
言われなくても、これじゃほっとくわけにはいかないでしょ。まったく、何してるんだよ、あいつは。
「ね、町田さん、どうしたの」
教室に戻ると栗原がさりげなく近寄ってきて、体に合わないちいさな声でささやいた。
「うーん、昨日は熱出してた。なんかあそこ、親があんまり帰ってこないみたいなんだよね」
「……そっか」
栗原は、ほかの女子がよくやる例の、いかにも心配してます的な表情は絶対しない。それでも、いや、だから、本気で相手を心配してるっていうのがよくわかる。まったく、女にしておくにはもったいない奴だ。
「ま、学校終わったら、行ってみるよ」
「わかった。手伝えることあったら、何でも言ってよね」
「おう」
僕は何だか、心強い援軍を手に入れたような気分になった。
学校から帰るとすぐに、月子の家に向かった。
ピンポーン
ピンポーン
昨日と同じように、ドアホンを鳴らす。昨日と違っていたのは、ほどなくして反応があったことだ。
『……はい』
「月子?」
『……ヨースケ?』
「うん。どうした、まだ調子悪いのか? ドア、開けられる?」
『……うん』
ズズッ、ズズッと不気味な音がかすかにしたあとに、ガチャッと玄関のドアが開いた。
「お、おまえ、大丈夫か」
ドアの隙間から見える月子は、亡霊みたいに青ざめていた。
「力、出ない……」
「また熱上がってんのか? とにかく、上がるぞ」
おでこに触ってみると、どうやら熱はないみたいだった。相変わらず殺風景な部屋の中は、昨夜から一ミリも変わっていないように見える。おまけに置いて行ったトマトスープもヨーグルトもサンドイッチも、手つかずで冷蔵庫に入ったままだ。
「全然食べてないのかよ、まったく。そんなんじゃ力出ないのあたりまえだろ」
見ると月子は涙ぐんで、口をへの字に曲げている。
「だって……食べれないだもん……」
そう言うと、いきなりホロホロと泣き始めた。




