風が吹いても猫屋は儲かりません
不意に話が途切れて、沈黙がおりてきた。
僕は、はた、と我に返った。おいおい、なんで、こんなことまでしゃべってるんだ、クソ恥ずかしい。
内心の動揺を悟られまいと、つとめて平静を装っている僕に、屈託のない笑顔で月子は言う。
「でもさー、よかったよね、いじめられて」
なんと、そうくるか。
「おまえ、けっこうひどいこと言うな」
わりと本気でムカついて、僕は月子をにらんだ。
「えー、でもさ、ヨースケがおデブになったのって、結局は優しかったからじゃん」
うわっ、しれっと言うなよ、そういうこと。僕の耳は、またカッと熱くなる。
「それにさ、そのおかげで、わたしも毎日おいしいごはん食べれるし。ほら、風が吹くと猫屋が儲かる、みたいな?」
ふふふ、と月子が笑う。
いやそれ桶屋だろ、と思い切り突っ込んでから、僕はふと浮かんだ疑問を口にした。
「じゃあ聞くけどさ、月子の母ちゃんって、リコンしたの? 死んじゃったの?」
それまでずっと、お互いにいないほうの親の話題ってなんとなく避けてきた。でもこっちはこれだけ恥ずかしい話したんだから、もう聞く権利だって充分あるはずだろう?
けれどもそれに対する答えは、なんともとらえどころのないものだった。
「ママはね――月に帰ったの」
なんだよそれ、ずるいじゃん、と言おうとしたとき、月子の視線が不意に窓の外の青い月をとらえた。と、陶器みたいなきれいな顔にほんの一瞬怯えた色が浮かんだ気がして、僕は何も言えなくなった。




