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夏に眠る花  作者: 小日向冬子
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僕が料理を好きなわけ

 いつもながら、なんともストレートな物言いだよね。まあ、そのほうが下手に気を使われるよりもマシか、なんて、真っ直ぐに僕を見る大きな瞳を見ながら思う。

「病気。僕が小3のときね」

「小3……」

「うん。料理が上手な人でね、病気になるまでは、ごはんはいっつも父さんが作ってたんだ」

「今のヨースケみたいに?」

「そう。母さんが作ったことなんて、ホントに数えるほどしかなかった。それも、だいたい失敗してたしね。だからね、父さんが死んでからは、すっごい大変だったんだ」

 クスッと思い出し笑いをしてから気が付いた。自分の中ではもう、その頃のことは笑い話になってるらしい。

 月子は不思議そうな顔で、そんな僕を見ている。

「いや、なんかさ。母さん的にはね、手作りの料理こそが愛情の証みたいなのがあったらしくてね。遅くなっても疲れてても、出来合いのものですませずに、絶対に何か作ろうとするんだよね。でも、もともと苦手なもんだから、ひどいのなんのって。べちょべちょになって皮が破れた餃子とか、パンクしたクリームコロッケとか。麺類にチャーハンってのもあったな。それも、量が半端ないの。でもね、残すとすごく悲しそうな顔するんだよね。知ってたからさ、父さんが死んでから夜中にこっそり母さんが泣いてたこと。だから、まずくてもお腹パンパンでも、頑張って食べ続けてね。で、気付いたらーー」

「気付いたら?」

「おデブになってた」

 月子は真っ直ぐ僕を見ながら、息をするように、ああ、と言った。


 おデブになるにつれ、セオリー通りに僕はクラスでいじめられるようになっていった。デブの近くは汗臭いとか暑いとか言って毎日のようにからかわれ、教科書にも机にもいたずら書きされ、もちろんお約束の上履き隠しもされた。まあ、だいたいの人が想像するひと通りのことはあったということで、これ以上のことは割愛。

 とにかく毎日がそんな感じで鬱々としているうちに5年生になり、家庭科で調理実習が始まった。そのとき、ひらめいたんだ。僕が、バランスのいいおいしい食事を作れるようになればいいんだ。

 目の前がぱっと明るくなったような気がした。

 父さんが元気なころはお手伝いくらいはしてたけど、ひとりで最後まで作るなんて無理だったから、僕はホントに真剣に調理実習にのぞんだよ、家庭科の先生が感心するくらいにね。そのあとは家にある料理雑誌なんかを見て、わからないところは何度も先生に聞きにいったりした。

 その甲斐あって僕の料理の腕はどんどん上達し、最初はサラダを作っておくくらいだったのが、中学生になるころには、ハンバーグ、オムレツ、からあげ、生姜焼き、肉じゃがと、基本のおかずはほとんど作れるようになっていた。母は「まあ、まあ、すごいわぁ、洋介ったら」と言って喜び、僕に食事の支度を一任してくれた。

 その頃になると、僕の体型はバランスのよい食事のおかげですっかり元に戻っていた。それだけじゃない。いつの間にか僕は、ゲームをやるよりも、テレビを見るよりも、友だちと遊ぶよりも、料理が大好きになってたんだ。

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