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厩本朱鳥の証言

 九月二日の朝のホームルーム、担任教師が神妙な面持ちで教壇で話しを始める。

 その内容は、うちのクラスの男子生徒の一人、日比谷悠斗が自宅から飛び降りて死んだらしい。

 それを聞いた私は特にこれと言ったものは感じなかった。微塵も不思議だとは思わなかった。日比谷悠斗は不登校な少年だったし、まともに来ていた四月の時でさえ、暗い少年という印象だけでそれ以上の事は何も感じなかったからだ。

 だから、私はその話を聞いた直後に薫子が倒れた時、その時の方がよっぽどか驚かされた。

 その時に初めて薫子は日比谷悠斗のことが好きだったのだと知った。

 どうして、あんな明るい薫子があんな暗い少年と、って一瞬思ったけど、その瞬間にはもう答えは出ていた。嗚呼、暗いからか。

 まあ、今はそんな分析をしている場合ではない事を知っていた。

 一刻も早く如何(どう)にかしないといけないと言う事は解りきっていた。先生が彼女に何度か話し掛けるが、既に薫子に意識はなく、譫言(うわごと)で日比谷君とか、そんな訳ないとか言い続ける彼女がまともである筈がなく、取り敢えず保健室に連れていかれる事になる。うちの担任がガタイのいい体育教師で良かったと思わされる。そのお陰で彼女の譫言を聞いたのは担任教師と彼女の席の周りの生徒三名(私を含む)で済んだのだから悪くはないのではないだろうか。まあ、恥ずかしい事に変わりはないし、日比谷悠斗が帰ってくる訳でもないのだけれど。

 教室の中から担任教師と薫子が退室して暫くすると、案の定教室の中は(ざわ)つき始める。聞こえてくる話題は悠斗と薫子の事が大半を占めていた。

「智子、なんかあったの?」

 私は私を呼ぶ突然の声に一瞬吃驚(びっくり)する。

「朱鳥、今来たところ?」

 その声の主は厩本朱鳥(まやもとあすか)だった。朱鳥も私と同じグループに所属するメンバーの一人だ。この場面で私にこんな風に声を掛けるのは朝寝坊が非道い朱鳥以外には考えられなかった。

「そうそう。ところでさ、教室の雰囲気暗いみたいだけど、なんかあったの?」

「日比谷悠斗が自殺したらしい、それで今日初めて知ったよ薫子は日比谷悠斗のことが好きだったんだ」

「そうなんだ」

 その事を聞いた朱鳥は急にしゅんと静かになる。自殺したらしいのところから表情が暗く成っていたから、多分朱鳥は薫子が日比谷悠斗のことが好きな事を知っていた様だ。

「日比谷君が死んだのって、若しかしてだけど八月の十九日なんじゃないの?」

「いや、そんな事は言ってなかったけど、如何してそう思うの?」

「実は夏休みの時に、日比谷君のマンションから何かが落ちるのを見たんだよね」

 何故、朱鳥が日比谷悠斗の家を知っているのかは疑問ではあったが、朱鳥の答えは私の予想の範疇だった。朱鳥が日付を指定した時点で、それに行き着く迄の根拠が存在するのは当然の事だ。そう思っていたからだ。

 私が次の言葉を掛け様とするタイミングで担任教師が帰ってくる。勿論、朱鳥は私に一言声を掛けて自分の席に戻っていく。

「古谷は一寸(ちょっと)寝不足みたいだったから今保健室で寝てる、これから始業式だから終わったら体育館に急ぐ様に、以上」

 その後、朱鳥に言いかけた言葉を掛け様かと思ったけど、時計を一瞥すると相当ギリギリな時間だったので、話している余裕がなく、その(まま)体育館へとむかう。

 私のクラスは当然の様に一番最後に並ぶ事になる訳だが、その事に関しては事情が事情なだけにお咎めはなかった。

 勿論、始業式で校長が触れる話題は日比谷悠斗の事だ。我が校は一応は進学校に分類され、事件の様な事とかは起こる事も巻き込まれる事も稀で、(しか)も日比谷悠斗は十中八九自殺だ。話題にしない理由がなかった。唯日比谷悠斗の話題以外は普通の特に変わり映えしない始業式だった。

 終わった後に、私は朱鳥の処に行って昨期(さっき)言いかけ様とした事を言おうとした。

「薫子が心配だから保健室に行かない?」

「そうだね」

 私は朱鳥の処に着いた瞬間の朱鳥の言葉で話す機会を逸してしまった。そして、移動中も彼女のペースに乗せられて、結局話したい事を話す事は出来なかった。

 保健室に着いた時は、養護教諭は居なくそこにはベッドで(うな)される薫子の姿だけだった。

「薫子、大丈夫。もう、始業式終わっちゃったしそろそろ帰ろう」

「そうしよう」と朱鳥。

「やっぱり、薫子。日比谷君の事が余程ショックだったんだね」

「そうみたいだね」と私。

「あら、二人とも、古谷さんは今一寸起きそうにないし、もうすぐホームルームでしょ。後は私の方からお家の方に電話するから二人は教室の方に戻ったら、それとも二人ともここに残ってる?」

 何処からか帰ってきた養護教諭は私達に二択を迫る。朱鳥と話し合って、正直なところ心配ではあったけど、教室に戻る事にした。

 教室に戻ると、担任教師がこれからの予定を話す。人が死んでも、私達の時間は無常にも進んでいく、そう思うと私とはあまり接点のない日比谷悠斗の死でも一体何の意味を為したのだろうか。そう感じさせられてしまう部分がある。

こんにちは那由多です。

前回は長くなるとか言っていましたが予定が変わりました。

すいません。

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