表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

日比谷悠斗の死

 私の片想いは(とても)脆く、そしてあっという間に崩れ去った。

 九月二日の長期休暇明けの教室で担任教師が私達に伝えた。日比谷悠斗が自宅から飛び降りて死んだ、と。

 そんな筈がない、そんな訳がない、そんな事はない、私は胸中で唱えていた。

 担任教師も、他の同級生も、彼を知っている人なら、そう思う筈だ。

 日比谷君は、誰よりも優しくて、誰よりも臆病で、誰よりも死を恐怖していた。そんな日比谷君が、自ら命を絶つなんて考えられなかった、いや今も考えられない。

 私の脳内の時計はその日のその時間から停止する事を余儀なくされた。

 なんでだろう、どうしてだろう、日比谷君が死ぬなんて、日比谷君が死ぬなら代わりに一方通行な愛情表現をしていた私を殺してくれれば良かったのに、なんでだろう。

 四月八日、有名な人の誕生日らしいけど、私にはそんな事がどうでもよく思える程、素晴らしい日だった。

 その人を一目見た瞬間に私の脳内で今まで作られた事のない電気信号が発せられて、何とも形容し難い高揚が全身を駆け回った。強いて言うなら、恋、運命、神の悪戯、そんな何かだった。

 四月の私は、間違いなくこの世界で一番幸せな生き物だった。日比谷君は私にとって永遠に近い存在だった。手に届かないけど、何故か惹かれて、そして、つい求めてしまうものだった。そんな日比谷君に出逢えた事が何よりも幸せだった。

 あの日は幸せだった。

 五月は辛かった。日比谷君が、一日も学校に来なかった。それは迚々辛くて、その時は何が起こったのか理解出来なかった。一日だけでも辛いのに、それが毎日だったなんて、そして時間だけが、残酷に過ぎて、何も出来ない自分が只々、歯痒くて、胸から込み上げる感情は空虚さと恐怖を混ぜた色をしてた。

 六月は幸せだった。日比谷君が来ないのは相変わらずだったけど、担任教師は私に最高の幸福の機会と口実をくれた。

 普通は入る事の出来ない神域に到達する権利を私にくれてありがとうございます、私はそう呟いて、自分の幸せを噛み締めていた。

 久し振りに会って、私に顔を見せてくれた日比谷君は迚素敵で、彼と初めて会話が出来た事実だけで充分過ぎて、内容なんて私にはどうでも良かった。

 七月に入ると、私の中で稀だった日比谷君との会話も頻繁に行える様になった。

 彼は私に学校に来ない理由を教えてくれた。彼がずっと悩んでいた事も教えてくれた。彼の優しさにも触れられた。

 そして、日比谷君は久方ぶりに学校に顔を出した。

 言っていた、日比谷君はこう言っていた。

「馬鹿みたいだけど、『死』が怖くて仕方がないんだ。僕が外に出たら、僕は突然の出来事で消えるかもしれない。僕が仲良くなった人が、突然目の前から居なくなるかもしれない。そう思うと堪らなく、辛いんだ。だから君は死なないでくれる」

 日比谷君が私に見せてくれた弱さも堪らなく愛しかった。私の中で永遠が近づいて来た様な気がした。

 八月は何をしていたのか思い出せない。日比谷君に会わなかった事は確かだった。

 今の私に思い浮かぶ八月の光景は、いやこれは嘘、事実じゃない。

 マンションから飛び降りる少年の姿で、その少年は不気味に(わら)っていて、その行為自体が悪巫山戯(わるふざけ)みたいで、まるで、喜んで死んでいる様だった。

 私は八月に日比谷君に会っていない。私は八月に日比谷君に会っていない。彼は自分から死なない。

 だから、私は八月に日比谷君とは会ってはいない。そう結論付けられる。

 九月二日、私は全てを失った。彼への思いははまるで、砂の楼閣の様だった。

 私達の担任教師は意味不明な言葉を朝から発しており、私はその言葉と今までの思い出と、八月の映像と、九月の休み明けの担任教師の言葉を半永久的に脳内で再生し続ける。

 四月八日の月曜日、空はこれ迄にない程澄み切っていて、幸せで、君と出会えた。

 日比谷君は死なないよね、日比谷君は死なないよね、日比谷君は死なないよね、だって死ぬのが怖いんだもんね。君との邂逅(かいこう)は必然だよね、運命だよね、だって、だって、だって、私が人の事を好きになったんだもんね。だって、だって、だって、日比谷君が自殺する筈がないもんね。全部悪い冗談で、悪い夢で、私が目覚めたら全部元通りになってるよね。そんな事を心の中でずっとずっと呟いて、本当にそうだったら私のこの涙は無駄って事で済むんだけどね。何回か呟いてるうちにやっと私はそう思えた。

 日比谷君、君が私の事をどう思っているのかどうかなんて、もう知る由がないけど、私は日比谷君の事が好きだった。いや、好き。もう言っても無意味なのは知ってるけど、その気持ちを心の中で噛み締めていた。本当は日比谷君に伝えたかったけど。

 日比谷君の言ってた通り、死は怖いものだった。私の心の虚しさも、目から流れる涙も死の所為だもん。

 日比谷君ありがとう。私に永遠をくれて。

こんにちは、那由多と申します。

恋愛系が全く解らない自分なのですが、頑張って書いてみました。

ミステリー色を如何するかは現在考え中です。

次は長くなりそうなので、気長に待って下さる方がいれば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ