拉致?
アイリスが泣き止むのを待ち、ようやく話が出来るようになった頃合いを見計らって結城が切り出した。
「見てしまった事は謝る!でもさ、さっきの話を聞いてたら別に俺じゃなくてもアールだっけ?そっちの世界にも探せばいくらでもいるんじゃないの?その、胸目当てじゃなくて崇拝してくれる人はさ。」
「グスッ、確かにいない事は無いんですけど、アールでは加護がその人のステータスとなり、人生に大きく関わってくるんですよ。だから、現在候補生の私の加護を聞いてみんなどこかいっちゃうんです。」
「え?運命を司る女神の加護ってそんなに価値の無いものなのか?凄そうな気がするんだけどな!」
「いえ、違うんです!今の運命神様の加護はそれは凄いものなんです!ですが、今の私は只の候補生であって、役職に就いてない平社員って感じなんで見た目で加護の名前が変わるんです。たとえば筋肉ムキムキの神の加護なら『増筋の加護』、お酒好きの神の加護なら『酒豪の加護』といったふうになるんです。」
「………。もしかして、アイリスさんの加護ってさ。見た目のまんまだったりする?」
「はい。私の加護は…………『巨乳の加護』です、ふぇーん!ほんとは私だって他の加護がよかったのにーっ!!アールじゃ、私の加護をバカにして誰も相手にしてくれないし、候補生の中でも出来が悪いから運命神にはなれないって言うし!どうせ、私なんて『巨乳の加護』から『垂れ乳の加護』になって、最後に『スルメおっぱいの加護』になるんですよぉだ。」
「まぁまぁ、そう卑屈にならないで。でも待てよ?アイリスさん!加護っていうのは、与えられたらそれで終わりなのか?さっき言ったように変化したりするのか?」
「スルメおっぱいなんて誰も相手にしないし、あははっ。神人の中で初の使徒無しかぁ。グズッ、うぅっ。」
「あぁもう!スルメおっぱいでも垂れ乳でもアイリスさんの事は好きだから!教えてくれ!加護ってのは変化するのか?!」
「えっ!?私の事好き?!本当ですか?!やったぁーっ!!スルメおっぱいでも好きなんですよね??きゃーっ///一生、私と生きてくれませんか?きゃーきゃー/////」
「(なんかウザい。迂闊に言うべきじゃなかったな。)なぁ?とりあえず加護の事を」
「あっ、加護ですか?それはもちろん変わりますよ!私達のような神人の行いでも変わりますし、使徒の行いでも、ふとしたきっかけで変化することもあるんですよ!……ふふふっ、結城様かぁ。ノゾム様?ノゾムさん?いっそのこと、ノゾム?なんて言っちゃったり!きゃーっ//」
結城は思っていた。今まで描いていた髪の色や目の色は違えど、理想通り、いや理想以上の女性が自分が発した『好き』という言葉でここまで喜ぶとは。悪い気はしないが、いまだに続くアイリスの独り言を聞いているとウザいを通り越して恐怖を感じている自分がいると。
それに、気になる事もある。アールと地球で加護は成り立つのか?加護を与えたという事実があれば問題無いのか?
「アイリスさん。加護っていうのは、地球とアールで離れた場所でも成り立つのか?」
「もう、ノゾムったら//まだ入って来ちゃダメだよ♪え?一緒にって、もう甘えん坊さんなんだからっ///あっ!ダメよ、そんな!
……はっ!?え?何ですか?地球とアールで加護が成り立つ訳無いじゃないですか。何言ってんですかー。さぁ、時間もかかっちゃってるし行きましょうか!」
「うわぁ。無いわぁ。その妄想力。ん?何処に行くの??え?引っ張らないで?え??ちょっと、何処にそんな力があんの?!痛い痛いイタイ!!離して!やだその笑顔怖い!」
180cmの細身ではあるが筋肉の付いた体の結城を、160cmも無いであろう胸が大きいだけで腕や足は細くしなやかな少女は、手を握りズルズルと引き摺り何もない真っ暗な空間を眩しい程照らす如現れた光の渦に結城の悲鳴と共に吸い込まれていった。