真っ暗
「ん~。ん?…あぁもう夜か。んっ、…はぁ~。久しぶりによく寝れた感じがするな。」
目を覚まし、辺りが暗くなってる事に気がついた結城は軽く伸びをして、意識が完全に覚醒するのをぼ~っとしながら待った。
ここのところ猛暑が続き、寝不足とストレスで心体共に絶不調だったのに今はかなり調子が良いようで、結城は徐々に覚醒する意識と同時に喜びが大きくなっていき、
「いやぁ、かなり良い感じだな!頭もすっきり!体調もバッチリ!それに、なんと言っても暑くない!!扇風機だけじゃ耐えられなかったもんなぁ!………、何で暑くないの?…あれ??」
喜びも束の間、あの格安アパートではあり得ない快適な温度に結城は段々不安になっていった。
「おかしい。これは、おかしいぞ?どうなってんだ?車の音が聞こえない…っ!どこだ?!ここは何処なんだ!?おいっ!誰か、誰かいねぇのか!!」
自分の部屋から聞こえるはずの絶え間無く走る車の音が消えた。暑さとは違う汗が流れ始め、更に真っ暗な辺りを目を凝らして見回してみると机がない。窓もない。乱雑に置かれていた雑誌も服も何もかも無い。この空間が狭いのか広いのか、それすらも分からない。
混乱する結城はどうすればいいか分からず助けを求めて叫び続けた。
「お~い。誰か~。誰かいませんか~。ものすごいトイレに行きたいんですけど~。誰もいないんですか~?ここでしちゃいますよ~。これマジっすから!マジでしちゃいますからーっ!絶対ウソだって思ったっしょ?!自分、やれば出来る子ですからー!!…………、もうキレた!今からするから!もう止めても無駄だかんなっ!!結城望!いっきまーす!」
体感でもう3時間近く暗闇の中にいた結城は、いくら叫んでも誰も返事もしないし、歩き回っても壁にも突き当たらないこの空間に最初に感じていた恐怖心や焦りは無くなり、そう。やけくそになっていた。
唯一の衣服、パンツをこれでもかと言わんばかりに勢いよく下げ構えに入った。
「やったるけぇ!やったるけぇのぉっ!!ワシの男気よぉ見とけぇええっ!!!!」
何故か広島弁になった結城から一筋の水が放物線を描きながら放出された。と、同時に暗闇だった空間に眩しい程の光を放つ球体が結城のすぐ横に現れた。
その球体は波打つ様に動き、次第に人型に変化した。完全に人だと分かる輪郭を型どった瞬間、閃光を放ち空間を白く染めた。
「見つけました!貴方が、貴方が希望!私の、私達の未来の光っ!ようやく出逢う事が出来まし?ぎゃぁあーーーっ!!!!ななな何を、ししていいいるるのですかぁっ!!」
光の球体から姿を現した少女、青く空をイメージさせる長い髪に宝石のように見る者を全て魅了するルビィさながらの紅い目。柔らかそうな唇、透き通る程の白い肌、身体のラインを隠すようなゆったりしたワンピースをきていても自己主張している胸、スラッと長い足、まさにお伽噺に出てくる絶世の美女とはこの事か!
と、止める事の出来ない放水を、いや止める事も忘れて両手で真っ赤になった顔を隠しつつ指の間からチラチラとこっちを見ている少女に釘付けになっていた。