その8.対等に
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「…それでね…。」
御機嫌な光樹は、ずっと口を開きっぱなしだった。
「おい、いい加減黙れ。鳥か、お前は。」
我慢の限界に来たのか、歩みを止めて朔也が低く言う。
朔也と光樹は、森を抜けて集落を目差して歩いていた。
「だって、今までずっと一人だったんだもん。話し相手がいるのが嬉しくて!」
はしゃぐ光樹は、朔也の言葉にも全く変わらない。
「…また一人になりたいのか。」
一段と冷たい声をした朔也に、ようやく光樹の表情が引き攣った。
「ごめんなさい。」
うなだれ、反省の態度。朔也はそれに対し、不機嫌なまま左腕を軽く振って歩き出す。
「…あとどれくらいかかるんだ。」
やっと静かになった光樹と共に再び歩き始めたものの、今度は空気が重かった。仕方なく朔也が話し掛ける。
「あ、うん。二日もあれば着くと思うよ!」
パッと表情が明るくなる分かりやすい光樹の変化に、思わず吹き出しそうになる朔也。
「お前、変な奴だな。」
朔也にとって、人間は自分を利用するか迫害するかであった。
外見すら異端である事を思い知らされ、幼い頃から傷付くばかり。
だが光樹は違った。
自分の過去の傷を見せず、かつ朔也に対しても対等に接してくれる。
「えっ、僕って変?やだなぁ、もう分かっちゃった?」
何故だか照れた様に笑う光樹。
「…何ニヤついてるんだよ。ってか、二日も歩き続けるのか?他に移動手段はないのかよ。」
朔也は座り込んだ。
先程の戦闘で大量の魔力を消耗した朔也は、回復を待たなければ魔力を使えない状態である。
「うん、僕は今までの移動手段は歩きだし。乗り物って苦手なんだよね、運ばれて行く感じがさ。歩き最高~!」
右腕を上げると、大きな声で叫んだ。
「うっせー。体力だけが取り柄のお前と一緒にするな。」
座り込んだまま動かない朔也は、恨めしそうに光樹を見上げる。
「あ、何なら僕がおぶっ…痛い。」
すかさず背中を見せて背負おうとした光樹の脚に、下から朔也の蹴りが入った。
「いらん!俺はここで寝る。」
ふて腐れて横になる朔也。
「疲れたなら、そう言えば良いのに…。でも朔也、ここは少し危ない…えっ?…うそ、本気で寝てる?」
魔物との戦闘があったとはいえ、まだ太陽は真上を少し過ぎたばかりである。
「凄いな、…熟睡?」
光樹が隣に腰をかけても、軽く髪を触っても何の反応もなかった。
魔力回復の為、深い睡眠状態に入っている。
「…ここまで深い眠りだと、このままじゃ少し危険過ぎるな。」
防御魔法すら使用していない為、いくら森を抜けた場所とはいえ魔物の標的になるのは間違いなかった。
「寝てると、本当に普通の子供だよね。」
光樹は静かに朔也を抱き上げると、その場から移動する。
各地を転々としてきた光樹には土地勘があり、比較的安全な場所を幾つも把握していた。
「さすがに、抱っこは重いね。けど、下手に刺激を与えると僕が危険だし…。」
今朝見た朔也の自己防衛本能とも言うべき力は、過去の様々な経験から培われたもの。
「けど朔也が安心して寝ていられる時間くらい、魔法がなくても僕が護るさ。…とは言っても、今まで運良く生きて来られた感じだけどね。」
苦笑しながらも、光樹は真っ直ぐ力強く歩いて行った。