その7.一緒に行こう
光りが辺りを包み込む。全てが金色に染まってしまったかの様だ。
「さ…朔也…、朔也ーっ!」
光樹はただ、風の魔法に護られた半円の中心にいる。
「くっ…そぉ!朔也、開けろぉ!僕が君を守るって言ったじゃないかっ!」
朔也を捜しに行きたくても、行く手を阻むのは彼の防御魔法。
「あーけーろーっ!」
再び叫んだ。すると、その声に呼応する様に防御魔法が吹き飛ぶ。
光樹は考える間もなく、その金色の光に走り出した。
「朔也っ!」
見つけ、抱き締める。そこに立ち尽くしていた朔也を、自分の胸にすっぽりと入ってしまう小柄な彼を。
「…っ、朔也?」
その顔を覗き込んで驚いた。
意識を失っている。
「朔也、しっかりして!」
光樹は朔也の頬を軽く叩いてみた。
「…んっ…ぅ。」
ようやくその瞳をうっすらと開ける。だがぼんやりと宙をみたまま、それ以上の反応がなかった。
「朔也、どうしちゃったのさ。…あ、刺激を与えればっ!」
突然朔也に顔を近付ける。
「………っ痛!」
朔也から放れた時、光樹の唇から一筋の紅い光が見えた。
「激しいね、朔也。寝起きのチューに、噛み付くのは反則だよ。」
唇を拭いながらそれでも、朔也を支えている腕の力を抜かない。
「うっせー、意識ない奴に襲い掛かるお前に言われたかない!」
顔を真っ赤にしながら、必死に腕を伸ばして光樹から放れようとしていた。だが両足に力が入らず、突き出す腕も非力である。
「どうしたのさ、朔也。全然力が入っていないよ?もしかして、僕のチューに腰が砕けちゃったかな?」
上から覗き込む光樹の顔に、朔也は渾身の拳をぶつけた。
その拍子に体勢を崩した光樹と、支えられていた朔也が倒れる。
「痛いなぁ、本当。」
しっかりと光樹に抱き締められ、朔也は怪我一つなかった。
「う、うっせー。放せよ、苦しいだろ!」
どうやら起き上がる力もない朔也。
「んもぅ、我が儘さんなんだから。ほら、これで楽?」
光樹にそのまま大地に寝転がしてもらい、大きく深呼吸の朔也である。
「…わりぃ…。雷の魔力を使うと、全身が痺れた様に力が入らなくなるんだ。」
つまり朔也にとって、雷の魔力は両刃の剣。それでも状況によっては使わざるを得なかった。
「そっかぁ、それが朔也の言っていた相性って物なんだね。」
大地に転がったまま周囲を見回す。
先程まで取り囲んでいた魔物達は、全てその動きを停止していた。
「あぁ…、風は得意なんだけどな。」
少し照れた様に笑みを見せた朔也は、再び大きく深呼吸をする。
「僕はもっと強くなりたい。周りの大切な人を護れるくらい、強く。」
光樹は一族を目の前で失った。
「俺は…もう何も失いたくない。」
朔也は全てを無くし、あるのは己のみである。だからこそ、ただ一人で生きてきた。
何故か今、光樹に外ならぬ感情を抱き始めている。
自分でも気付いていないが、光樹を護ろうとした事がその証であった。
「よぉし、じゃあそういう事で!何処に行く?僕はね、人間の集落に行ってぇ…。」
立ち直りが早いのが光樹の長所なのだろう。
「ってか、誰が一緒に行くって言った?俺は一人が良いんだ。お前みたいな危ない奴となんか、誰が!」
身体の自由が利くようになり、朔也は勢い良く立ち上がった。
「そんな事言っちゃってぇ。」
光樹は半身起こすと、真っ直ぐ朔也を見る。
「一緒に行こう、朔也。」
その姿に、自然に顔が綻ぶ朔也。
「ったく、仕様がないな。けど、飽きたらやめてやる。」
変わらない強気な態度に、光樹も笑顔がこぼれた。
「はい、はい。では、飽きさせないように頑張ります。」
そして始まる二人の旅。その先に何があるのかは、まだ分からない。
だが、確かに始まった。一人は護るべき場所を作るため、一人は失う事のない場所を探して。