表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SAKUYA  作者: まひる
7/52

その7.一緒に行こう

 光りが辺りを包み込む。全てが金色に染まってしまったかの様だ。


「さ…朔也サクヤ…、朔也ーっ!」


 光樹コウキはただ、風の魔法に護られた半円の中心にいる。


「くっ…そぉ!朔也、開けろぉ!僕が君を守るって言ったじゃないかっ!」


 朔也を捜しに行きたくても、行く手を阻むのは彼の防御魔法。


「あーけーろーっ!」


 再び叫んだ。すると、その声に呼応する様に防御魔法が吹き飛ぶ。


 光樹は考える間もなく、その金色の光に走り出した。


「朔也っ!」


 見つけ、抱き締める。そこに立ち尽くしていた朔也を、自分の胸にすっぽりと入ってしまう小柄な彼を。


「…っ、朔也?」


 その顔を覗き込んで驚いた。


 意識を失っている。


「朔也、しっかりして!」


 光樹は朔也の頬を軽く叩いてみた。


「…んっ…ぅ。」


 ようやくその瞳をうっすらと開ける。だがぼんやりと宙をみたまま、それ以上の反応がなかった。


「朔也、どうしちゃったのさ。…あ、刺激を与えればっ!」


 突然朔也に顔を近付ける。


「………っ痛!」


 朔也から放れた時、光樹の唇から一筋の紅い光が見えた。


「激しいね、朔也。寝起きのチューに、噛み付くのは反則だよ。」


 唇を拭いながらそれでも、朔也を支えている腕の力を抜かない。


「うっせー、意識ない奴に襲い掛かるお前に言われたかない!」


 顔を真っ赤にしながら、必死に腕を伸ばして光樹から放れようとしていた。だが両足に力が入らず、突き出す腕も非力である。


「どうしたのさ、朔也。全然力が入っていないよ?もしかして、僕のチューに腰が砕けちゃったかな?」


 上から覗き込む光樹の顔に、朔也は渾身の拳をぶつけた。


 その拍子に体勢を崩した光樹と、支えられていた朔也が倒れる。


「痛いなぁ、本当。」


 しっかりと光樹に抱き締められ、朔也は怪我一つなかった。


「う、うっせー。放せよ、苦しいだろ!」


 どうやら起き上がる力もない朔也。


「んもぅ、我が儘さんなんだから。ほら、これで楽?」


 光樹にそのまま大地に寝転がしてもらい、大きく深呼吸の朔也である。


「…わりぃ…。雷の魔力を使うと、全身が痺れた様に力が入らなくなるんだ。」


 つまり朔也にとって、雷の魔力は両刃の剣。それでも状況によっては使わざるを得なかった。


「そっかぁ、それが朔也の言っていた相性って物なんだね。」


 大地に転がったまま周囲を見回す。


 先程まで取り囲んでいた魔物達は、全てその動きを停止していた。


「あぁ…、風は得意なんだけどな。」


 少し照れた様に笑みを見せた朔也は、再び大きく深呼吸をする。


「僕はもっと強くなりたい。周りの大切な人を護れるくらい、強く。」


 光樹は一族を目の前で失った。


「俺は…もう何も失いたくない。」


 朔也は全てを無くし、あるのは己のみである。だからこそ、ただ一人で生きてきた。


 何故か今、光樹に外ならぬ感情を抱き始めている。


 自分でも気付いていないが、光樹を護ろうとした事がその証であった。


「よぉし、じゃあそういう事で!何処に行く?僕はね、人間の集落に行ってぇ…。」


 立ち直りが早いのが光樹の長所なのだろう。


「ってか、誰が一緒に行くって言った?俺は一人が良いんだ。お前みたいな危ない奴となんか、誰が!」


 身体の自由が利くようになり、朔也は勢い良く立ち上がった。


「そんな事言っちゃってぇ。」


 光樹は半身起こすと、真っ直ぐ朔也を見る。


「一緒に行こう、朔也。」


 その姿に、自然に顔が綻ぶ朔也。


「ったく、仕様がないな。けど、飽きたらやめてやる。」


 変わらない強気な態度に、光樹も笑顔がこぼれた。


「はい、はい。では、飽きさせないように頑張ります。」


 そして始まる二人の旅。その先に何があるのかは、まだ分からない。


 だが、確かに始まった。一人は護るべき場所を作るため、一人は失う事のない場所を探して。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ