その50.覚
「…キ…、コウ…キ。」
青白い光は光樹の途切れかけた意識に呼びかける。
「…朔…也?」
視界が極端に狭くなっているぎりぎりの意識の中で、かろうじて剣を放していない右手に力を込めた。
「リラーデ…っ!」
自らの脇腹に刺された剣を左手で抑え、渾身の力で右手の剣でリラーデの心臓を狙って突く。
「何っ?」
光樹の絶命を確信していたリラーデは、突然の攻撃に急所を外す事しか出来なかった。
だが、剣はリラーデの身体に刺さっている。
「…外し…た。…朔也ーっ!」
光樹は叫んだ。
「雷。」
突如稲光がリラーデを包み込む。
多少避けたところでその身に突き刺した剣が避雷針となり、確実にリラーデを狙って雷が落ちるのだ。
「くっ!」
リラーデは光樹も道連れにと、彼に向かって駆け寄って来る。
「馬鹿か、そんな行動くらい予測している。雷。」
何と光樹を包み込む青白い光の中に、不機嫌そうな顔で朔也が立っていたのだ。
「な…、馬鹿なっ?」
そして再び放たれた雷がリラーデに落ちる。
激しい音と光を齎した雷は周囲を広範囲で焼き尽くし、建物の地下であったはずなのに空が見えるようになっていた。
「痛ぅ…。朔也、寝過ぎ。」
裂いた服で朔也にきつく脇腹を縛られている光樹は、辛そうだが顔が緩んでいる。
「悪ぃ…。けど転移させる時、光樹に結晶石を仕込んでおいて良かった。危機的状況にしか発動しない様にして、普段は光樹自身の守護的役割にしておいたんだ。」
朔也にとって賭けでもあったが、普段から朔也の魔力に耐性がある光樹だからこそ拒絶反応が出る事がなかった。
「あ、でも朔也は大丈夫なの?」
ふと先程迄の状態を思い出す。
「あぁ、光樹の結晶石に俺の回復用魔力も封じておいたんだ。あいつ、おかしな薬ばかり投与しやがって…。おかげで回復まで少し時間がかかったじゃないか。もう少しで光樹の内臓が汚されるところだったぞ。」
朔也はブスッと頬を膨らましながら、再び光樹の傷口に魔力を結晶化させていた。
「あ、なんか楽になった気がする…。凄いね、朔也。」
痛みが和らぎ、呼吸が楽になった光樹。朔也の顔を真っ直ぐ見詰め、柔らかく微笑む。
「…何だ、その目の傷…。あの時のか?」
光樹の左目の傷痕に気付き、辛そうな表情を見せた。そしてそっと指先でそれに触れる。
「ごめん…、護りきれなくて…。凄くなんかない、俺の力なんて…。この傷痕も治せないんだ、壊すだけ…なんだ…。」
泣きそうな表情の朔也を、優しく包み込む様に抱きしめる光樹。光樹にとって一番辛いのは朔也の悲しみであった。
「僕もごめんね、朔也を泣かせちゃった。」
膝立ちの光樹に抱きしめられながら、朔也はふと空気が変わったのに気付く。
「…奴だ。」
鋭い視線を周囲に巡らした。
大地の焦げた場所が盛り上がり、黒い煙が見えてくる。
「…私…に…よくも…傷を…つけた…な…っ!」
リラーデは魔力所持者の血液を身に纏い、怒りで黒い煙を全身から立ち上らせていたのだ。




