その48.創
「これ以上はお許し下さい。」
ラディンの研究所では、医師がリラーデに深く頭を下げている。医師とリラーデの前には、いくつもの管が繋がっている朔也が横たわっていた。
「何故だ。どういう理由があって私を制する?」
リラーデは至極不思議そうに首を傾げる。
「申し訳ございません。ですが、これ以上は実験体が持ちません。少々お時間を頂きたいのです。」
医師の言葉に、持っている注射器を見ながら少し考えるリラーデ。
「よし、じゃあこれだけ。」
そう言うとリラーデは、躊躇いもなく朔也の無防備な腕に注射器を刺した。
「…ぐっ…あぁ…ぁぁぁ…っ!」
意識のない朔也が、薬の激痛で反射的にのけ反りながら叫ぶ。
「リ、リラーデ様っ?」
医師が焦りながら朔也の周辺の機械類を操作し始めた。
「ふん、後は何とかしておけよ?死なすなよ、まだ遊び足りないんだからな。」
リラーデはそれだけ言うと再び別の部屋へ行ってしまう。
「リラーデ様は、無茶をなされる。一体幾つの実験体を駄目になさるつもりなのやら。こんなにも薬を大量に投与すれば、いくら丈夫な魔力所持者でも駄目になってしまう。」
医師の治療により何とか容態が落ち着いた朔也だが、スリープ状態から目覚める前に薬漬けにされていたのだ。
「私はこの魔力所持者に特別な思い入れはないが、転送の魔法を使うと聞いたので調べたかったのに…。この状態では、魔法を使えるまで回復するだろうか…。おい、誰か。」
過去に研究所で調べた結果では、魔力所持者は感情が魔法能力自体に大きく影響すると出ている。
だが今の朔也は感情は疎か自己の認識すら出来ていないのだ。
「…はい、お呼びでしょうか。」
医師に呼ばれて一人の男が部屋に入って来る。
「ん?新人か、見た事ない顔だが…まぁ良い。この実験体を洗っておけ。薬で嘔吐して汚れた。」
あくまで朔也を品物の様に扱う医師は、そのまま自室に消えて行った。
「…はい。」
命令された男は医師の姿が見えなくなるまで深々と頭を下げている。
だがその瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「朔也…、ごめん…。」
密かに侵入した光樹は、自慢の情報収集能力で朔也の居場所を突き止めたのである。
漸く見付けた朔也は…蜘蛛の巣に絡められた蝶の如く、身動きすら出来る状態ではなかった。
「今…、自由にしてあげる…。」
幾つも繋げられた管やコードを外しながら、動かない朔也を機械から開放していく。
「…くっ…。」
光樹は涙を流しながらも、薄い布に巻かれたままの朔也を隣接したシャワールームに連れていった。
「朔也…、一緒に帰ろう。」
朔也の瞳は開いているが、ただの硝子玉の様に何も映してはいない。
「はい、はーい。何処に帰るって?っていうか、色違いの民が何故ここにいるのかな?」
振り向いた先にいたのは眼鏡の男リラーデ。
「…朔也は僕と一緒に帰るんだ。君の玩具じゃない。」
鋭い眼差しを向ける光樹は、朔也をそっと壁に背を預ける様に座らせた。
「何を言っているんだ。私は総てを自由に出来る権利があるんだ。魔物も魔力所持者も色違いの民も、総てだ!その為の組織なのだ。」
狂ったように両腕を拡げて高笑いするリラーデである。
純人類という組織を創ったのはリラーデ自身だったのだ。




