その46.移動
初めに動いたのは朔也である。
「風刃!」
男達の足元目掛けて風の刃を放った。
舞い上がる砂埃に身を隠し、撤退をしようとする。
「甘いな、忌み子よ。ここで逃がすと思うのか?」
眼鏡の男は魔力所持者の血を小瓶に入れて持っていた。掲げた小瓶から風を起こし、瞬時に砂埃を消し去る。
「ちっ。」
舌打ちをする朔也だが、すぐに次の魔力を構成した。
風を身体に纏い、光樹と二人で宙に飛び上がる。
その足元を地割れが襲った。立っていれば、かなりのダメージを受けたはずだ。
「朔也、三人とも血の小瓶を持っているよ!」
組織の男達はそれぞれが赤い液体の入った小瓶を掲げている。
「ぅわっ!」
若い男が砂の力で朔也と光樹の足を掴んみ、大地に叩き付けた。
「っ…、光樹っ?!」
光樹が咄嗟に朔也を抱くように守った為、朔也のダメージは軽度で済んだのである。
「…良かっ…た、朔也…っ。」
片目だけでこちらを見たが、反対は出血の為に赤く染まって開く事がなかった。
朔也は光樹が傷付いた事で理性が吹き飛び、普段抑えている自身の魔力が暴走する。
「氷槍っ。」
砂の力を使った若い男に、瞬時に氷の槍を放った。男は避ける事も次の魔力を放つ事も出来ず、串刺しになってその動きを停止させる。
「氷刃っ。」
すぐに朔也は年配の男に対しても、巨大な氷の刃で両断した。
「素晴らしい魔力だ。是非とも私の研究材料に欲しいものだ。」
仲間が倒れた事に眉一つ動かさない眼鏡男は逆に、感情無く二人を仕留めた朔也に感嘆する。
「氷浪。」
だが朔也は傷付いて意識を失った光樹を抱いたまま、眼鏡男に対しても見上げる程の氷の津浪の魔力を放った。
「中々の魔力を練り込んでいるが、まだ足りないな。」
笑みを浮かべたまま血の小瓶で竜巻を起こし、朔也の魔法を吹き飛ばす。
「殺意…か。うん、そうだな。明らかな殺意が足りない。ほぼ無意識に攻撃しているようだ。自我のない今の状態では、私に傷すら付けられないぞ。」
男の方が魔法戦において経験が上の様だ。
「…朔…也、逃げ…て…っ。」
巻き起こる爆風にふと意識を取り戻した光樹が、片目を開いて焦点の定まっていないまま呟く。
「光樹っ?…ぐぅぅっ!」
彼の言葉に我を取り戻した朔也だが、次の瞬間眼鏡男の放った稲妻に身体を強張らせて倒れ込んだ。
「何だ、もう終わりか?…まぁ遊べたほうか。あとは帰ってからにしよう。」
眼鏡の男は朔也に近付くと、その手を伸ばす。
「空移風転っ。」
朔也は男に触れられる直前、麻痺する身体に残る全ての魔力を使って光樹を瞬間移動させた。
眩しいほどの白い光が光樹を包み込み、そして光と共に掻き消える。
「…まさか、転移の魔法を使えるとはな…。驚いた、面白い忌み子だ。だが、異色の民だけ飛ばすとは甘い奴だ。一人しか飛べないのなら、自分自身を魔法対象とすれば良いものを。」
そして男は朔也の赤銅色の髪を乱暴に掴み上げた。
「……。」
だが既に朔也の意識は深く沈み、何の反応も示さない。
「…また楽しませてくれよ?」
男は意識のない朔也の髪を掴んだまま、引き擦るようにして建物の密集した方へ消えて行った。




