その4.両刃の剣
「前置きはともかく、つまりお前は接近戦に不向きなんだな。で、俺を担いだ事は忘れろ。」
一瞬だけ光樹の武器に目線を向けると、自分の剣を鞘に納める。
「抱いた事を忘れるのは嫌だけど、さすがに理解が早いね。朔也は接近戦は勿論、遠距離攻撃も可能な戦士型だよね。それを見込んで、僕の右腕として力を貸してくれないだろうか。」
真っ直ぐに朔也に視線を向けた後、頭を深々と下げた。 それを無言のまま見ていた朔也は、軽く溜息をついてから口を開く。
「だからと言って、俺に何の利益があるんだ。しかも紛らわしい言い回しをするな、気持ち悪い。」
腕を組み、朔也は瞳を閉じた。
落胆する様な言葉が出たのは、今まで幾度も人間達から同じ様な言葉を聞いてきたからである。
力有る者に媚びる人間はたくさんいた。朔也に対しては魔力そのものに畏怖の念を抱きながらも、得る事が出来るであろう益に皮算用して近付いてくる者達。
「僕…って言ったら語弊があるか。僕がこれから得る事が出来るであろう、全ての利益の半分ってのはどうかな。なんなら、僕のこの身体もつけるよ。」
柔らかな笑顔を向けて来る光樹を、朔也は静かに瞼を開けて見つめる。
「ふん。そんな言葉、今まで散々聞いた。まぁ、五分の交渉は初めてか。だが結局、自らの利益の為にだろう。俺の利益には繋がらないし、お前の身体も必要ない。」
表情を変えず、視線も反らさなかった。
「そうだね、そう言われると間違ってはいないけど寂しいな。でも、僕は一族を建て直したいんだ。見ての通り、容姿が他の人間種族と違うでしょ。朔也とは違う意味で僕も…ね。」
少し悲しそうな表情を一瞬見せた光樹。だが、すぐにいつもの笑顔のポーカーフェイスに戻る。
「…お前、本当を隠すのが上手いな。その笑顔の仮面の下には、煮えたぎる様な憎悪が渦巻いているんだろう?俺の力を手に入れてどうする。一族の復興?どうやってだ。人間を絶滅させるか?」
鋭い視線を向けながら、朔也は冷たい笑みを口元に浮かべた。
「…正直言って、人間は憎いよ…。でも、全ての人間が嫌いな訳じゃない。悪い人は沢山いるけど、良い人も沢山いるもの。だからこそ僕は、この世界を変えるんだ。せめて自分の回りにいる大切な人たちだけでも、守る事が出来る世界にしたい。そんな国を造りたいんだ。」
光樹の真っ直ぐ向ける視線に、朔也はふわりと笑って見せる。
「分かった。けど条件がある。もし力を欲望のままに使う様な事があれば、その命を失うと思え。」
光樹は初めて見た朔也の笑顔に驚きつつも、両刃の剣を手にした緊張感を感じた。
強い力を有する為には、同じだけの強い心の力が必要となる。
「まぁ、本来なら契約魔法を使うんだけど。あれは後でぐちゃぐちゃになるから、酷く醜いんだ。しばらく肉が美味しく食べられなくなるから、あんまり好きじゃない。」
腕を頭の後ろに回して、不安を煽る笑みを浮かべた。
「なんか、それって怖いね。けど、初めから僕が約束を破る前提で話してない?」
光樹は寂しそうな表情で、朔也を上目遣いで見る。
「ふん、知るか。今までそうだったんだ。お前だけが違うなんて、思える訳ないだろ。っうか、後処理が面倒だから契約魔法かけておくか。」
不機嫌そうに口をヘの字にすると、左掌を空に向けた。そこに青黒い光が集まっていく。