その3.忌み子と呼ばれ
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魔物達の声が聞こえる。夜の魔物と昼のそれとが入れ代わり、自分達の力を誇示するかのようだ。
「…さ…い…。」
寝返りを打ちながら、朔也が意識を浮遊させている。どうやら、寝起きはかなり悪いようだ。
「…るさいっ!」
朔也が叫んだ途端、物凄い圧力が周囲に解き放たれる。同時に二人を包んでいた風の防御魔法が消えた。
途端に今までの騒がしさがなくなり静まり返る。
「ひゅー、一気に静かになったよ。これだけの威圧感を浴びせられたら、さすがの魔物も息を潜めるか。」
周囲を見渡し肩を竦めた。
少し前に目が覚めていた光樹は、ずっと朔也の寝顔を観察していたのである。
「昨日言っていた言葉、まんざら冗談じゃないみたいだね。それ以上近付いたら命の保証はしないって、無意識下での自己防衛だったんだ。」
苦笑いの光樹。
「けど、寝起きの悪いのは要注意だね。」
独り言を言っていると、朔也がゆっくり目を開けた。
「…誰だ…?」
大きな欠伸をしながら、ゆっくりと身体を起こす。
「おはよう、朔也。僕の事、忘れちゃった?」
笑顔を向け、乾いた服を裸の朔也に差し出した。
「あ…、ありがとう。…光樹…だっけ?」
服を受け取り、光樹の顔を見て首を傾げる。
「うん、光樹だよ。良かった、覚えていてくれて。初めて名前を呼んでくれたね。」
光樹は照れ笑いを浮かべ、服を着始めている朔也を見つめた。
「ところで朔也は、目指すところがある?僕はこの世界を変える。良かったら、一緒に来てくれないかな。」
突然の話に、服に首を通そうとしたまま動きを止める朔也。
「…いきなりだな。俺はまだお前の事を知らない。それに基本的に人間は、残虐で自己愛の塊的な生き物と認識している。いつ寝首を掛かれるか分からない奴と行動を共にするなんて、馬鹿げている事とは思わないか。」
服を着替え終わると、剣を鞘から抜いて刃の状態を確認する。
「うん、それも承知の上で聞いているよ。朔也は魔力を持つが故に忌み子と呼ばれ、周囲から異端視され迫害を受けてきただろう事も知識として知っている。でも、知っていてほしい。僕は絶対に君を傷付けたりしない。法力もない。使える武器はこのぱちんこだけ。剣すらまともに扱えない。僕は腕力に自信がないからね。あ、でも朔也を抱き上げる事は出来るよ。」
そう言いながら光樹は、Yの字の木の枝に伸縮性の植物のつるを結び付けた道具を見せた。