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SAKUYA  作者: まひる
23/52

その23.血の臭い

 吹き荒れる雪。周囲は足元を見る事も叶わない程の視界の悪さである。


「おい、もうヤバいぞ。雪に埋もれる。」


 先を歩く光樹コウキに告げるが、風雪の激しさに朔也の声は掻き消されそうだ。


「うん、風を防げる場所までもう少しだから。ティムも頑張って!」


 光樹が皆を励ます。


 このベグルの雪山には、ティムの同族魔物の噂を聞いた。


「ほら、ティム。俺がおぶってやるから。」


 朔也サクヤは、雪の深さの余り溺れるようにして進むティムに手を差し延べる。


「ありがと、サク。でもおいら、頑張る。」


 甘えてばかりではならない事を感じているティムは、朔也の言葉に笑顔で答えた。


「そっか、んじゃお互い頑張ろうぜ。」


 雪は朔也の腰辺りまである為、体力的に限界が近いのは同じ。ティムは体重が軽い為、朔也より雪の抵抗が少ないかもしれなかった。


「あ、あったよ!あの割れ目まで頑張ろう!」


 光樹の言葉に一斉に雪の中を走る。




「ったくぅ、寒すぎるって!」


 風を防げる山肌の割れ目で、三人は固まって暖をとっていた。


「うん、山の天気は変わりやすいからねぇ。でも、朔也が火の魔力を使えるから助かるよ。」


 本来ならば、必死に火をおこさなければならない。だが朔也の魔法ですぐに消えない火をつくれた。


「だ、だからって俺は都合良く魔法を使ってやらないからなっ。」


 褒められて嬉しいのを隠す朔也に、光樹は柔らかい笑顔を向けて来る。


「うん、最近やたらと魔法を使わなくなったね。約束を守ってくれているから、僕は嬉しいよ。」


 光樹は作り笑いをしなくなった。心から笑みを浮かべる為、ティムが懐く様になったのである。


 以前のように警戒する事なく、朔也と同じ様に接してくれていた。


「ばーかっ、お前の為じゃない。…ん?どうした、ティム。」


 朔也はティムの異変に気付く。


 仕切に出入口側に鼻を向け、匂いを嗅いでいた。


「サク…何かいる。何だろう…。」


 匂いを判別しようとしているが、決定打がないらしい。


「人間じゃない、魔物。血、匂う。」


 外はまだ吹雪いていた。だがその風の強さで消せない程の臭いをティムは感じている。


「でも今は視界が悪すぎる。少し風が静まってからにしよう。」


 朔也はティムに視線を合わせ、柔らかく伝えた。


「…うん。コー、お腹空いた。」


 ティムは光樹に空腹を訴える。大抵の場合に食糧を持っているのは彼なのだ。


「うん、あるよ!」


 そして例のゴトく、光樹は大きな鞄から果実を出すのである。




「風が止んだよ?」


 少し仮眠を取っていると、外の様子を見に行った光樹の呼び声が聞こえた。


「よし、行くか。ティム、まだ匂いは残っているか?」


 朔也はまだ夢見心地のティムを撫でながら、優しく問い掛ける。


「うん。サク、あっち!」


 ティムは勢い良く飛び起きると、四ツ脚で駆けて行った。


「ちょっと待てって!」


 朔也と光樹は慌ててその後を追う形となる。




 雪を掻き分けながら足跡をたどり、真っ白な雪の中にポツンと立ち尽くすティムを見付けた。


 だが、様子がおかしい。じっと前方に視線を向けたまま動かないのである。


「ティム?何かあった…っ!」


 問い掛けつつティムの視線の先を見て、朔也も思わず息を飲んだ。


 白銀の大地に咲く深紅の薔薇のゴトく、一面にオビタダしい程の血痕がある。


 この距離であれば、人間の朔也と光樹にも判別出来る血の臭い。


「うっ…!」


 光樹は吐き気を抑えられず、その場に崩れる様に嘔吐した。彼の脳裏に浮かぶ過去の闇。


 パスリルの国で起きた、悲惨な光景を思い出さざるを得ない。


「ティム、あそこにいる銀色の奴は?」


 朔也はティムの肩を軽く揺すり、頭上にいる魔物を指し示した。それはネジった黒い一本の角を額に掲げた銀の魔物。


「…ザザルー、山神。」


 ティムはその魔物真っすぐ見詰めると、一声遠吠えをする。


 それが魔物同士の挨拶なのか、ザザルーと呼ばれる銀色の魔物はティムを一瞥すると立ち去って行った。


「あれ…おいらの仲間。同じキリク。でも皆死んでる。」


 ティムの震える指先には、白銀の魔物キリクがその岩の様な身体を横たえている。


 近付いて確認しなくても、息がないことは明かだ。


「墓を作るか。」


 大型の魔物を埋葬するのはかなり骨が折れたが、それでもティムの事を思うと苦ではない。


 粗方片付いた頃には、いつの間にか復活した光樹が埋葬の手伝いをしていた。




「これからどうする、朔也。キリクは確かにいたけど…。」


 魔物キリクの情報を元にこの地に来たのだが、それ以上の手掛かりが見付からない。


「誰だよ、こんな酷い事…。」


 泣き疲れて眠るティムの頭を撫でながら、自身の過去を思い浮かべた。


 何故これ程迄に傷付き苦しまなければならないのか。


「俺は納得出来ない。」


 朔也の絞り出す様な声に、光樹はそっと彼の頭を抱きしめた。



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