*第18話*
-ryota-
俺はまだ別に酔っていなかった。
俺は寝る振りをした。理由は
後ろに座っている圭吾の視線が気になったから。
俺は圭吾の気持ちも音々の気持ちも知ってる。
知ってるうえで二人が両思いだという事も把握してるわけで
圭吾が音々に偽りの恋人をやろうと言ったことも知っている。
そして俺は両方の相談を聞いて
両方の悩みを一緒に考える。
けっして相手の気持ちは言わない。
唯一の親友の音々と圭吾の仲を引き裂きたいわけでもないし
だからといって早くくっついてほしいと思わない。
ただただ、二人ともが自分の気持ちに正直になって
幸せになってほしいだけなんだ。俺は。
俺が寝て10分ほどしたとき、
はるかに俺より身長の低い音々は
俺にもたれ掛かって寝息をたてはじめた。
もたれてるほうは一応俺だけど
それでも音々が俺にもたれ掛かれるぐらいに身長は違うわけで。
「ったく・・・」
俺は普通の体制になって、音々をそのままもたれている状態にしていた。
もちろん、圭吾の視線が後ろからとんでいるのも知ってる。
でも、こうでもしないと圭吾は前に進もうとしない。
それに、鈍い音々を相手にするならこのぐらいの事しなければ
どうにもこうにもならない。
休憩所でバスは止まり、昼飯になった。
もうかれこれ5時間は走ったからな。
さすがの俺もギブアップってことだ。
音々はまだスースーと可愛い寝息を立てて寝ている。
音々っていう生物は黙っていればすごい美少女で
寝顔は誰でも可愛いというだろう。
「おいりょー。ちょっと面かせや」
不意に後ろから圭吾が声をかけた。
表情はこれぞ鬼の形相って面。
俺はにっこり笑って
「なにかな?」
とわざとらしく言ってやった。
音々はよこには裕真を置いて。
休憩所の人が少ないところまで
圭吾に引っ張られると、いきなり俺は怒鳴られた。
「てめぇ、俺の気持ち知ってんのにどういうつもりなんだよ!!」
さすがもとヤンキーの上だ。厳つい。
「どういうつもりって言われても。音々が俺にもたれかかってきただけ」
「その前にお前がもたれかかってただろ!」
「あれ、見てたの?てっきり裕真たちとおしゃべりに夢中だと思ってた」
「はぁ?りょー!お前まじで喧嘩売ってんのかよ!」
「別に売ってないよ。売る必要もない。でも・・・まぁ
売られた喧嘩は買うけど?」
「っ・・・」
俺はよく怒ったらどぎつい表情になるといわれる。
=怖いらしい。自分ではあまりわからないけど。
「だいたい、圭吾が音々にちゃんと気持ち伝えねぇからだろうが。
なのにあんなことで俺のせいにするとかお前恋心嘗めてるだろ?
てか、音々から聞いたけどお前最近音々の事避けてるんだってな?
なに?まじでお前こそやる気ないわけ?」
「お、おれは・・・」
「・・・・お前がそんなやる気のないんだったらさ。」
俺は本心を言わない。ただ、がんばる人にはライバルがいる。
「俺が音々を獲る。覚悟しておけ。」
そういい捨てて俺はバスの方向に歩きだした。
圭吾はその場に立ち竦んだまま
俺を呆然と見ていたに違いない。
-ryota-




