火力発電所
― 火力発電所 ―
19:50
俺達は、人工島に繋がっている連絡橋を解体してから、火力発電所制圧部隊に合流する為に中央制御室のある施設に向けて移動した。
《こちら強襲班、職員を保護した。》
《了解。 そのまま治療を続けてくれ。》
《あ~、こちら狙撃班。 其方の現在位置は、目標地点でいいか?》
《ああ、そうだ。 早く戻って来い。》
《了解。》
そのまま、中央制御室へと向かおうとした時、微かにローター音が聞こえた気がした。
「なぁ、今の音聞こえたか?」
「ん? 音? どんな音だ?」
「いや、何でも無い」(俺の気のせいか?)
《チッ、ありゃ何だ!?》
《どうした!! 何を見たんだ?》
《感染者が走り回ってやがる!!》
《はぁ? 何を寝ぼけたことを言って…… あー、こちらからも確認した。》
感染者の集団が制御棟へと走って行くのが 見えた。
「……あれは、何だと思う?」
「どう見ても感染者だろ…… おいおい、走るとか何処のゾンビ映画だよ!! 何という俺得」
《この建物に近接航空支援を回してくれ。》
《こちら航空支援部隊。 了解した、2分程で到着予定。》
《狙撃班、外を掃除するのを手伝ってくれ。》
《了解。 向かいの建物から射撃するから誤射するなよ。》
制御棟の向かいの建物の中へと入り、窓際の一室に入り、窓枠に狙撃銃の二脚を立てて、使い掛けの弾倉を外し、未使用の弾倉を込めて狙撃銃のチャージングハンドルを引いた。
金属のすれ違う音と共に、7.62×51mm弾が装填された。
スコープの横のダイヤルを回し、レクティルを赤く発光させた。
《こちら狙撃班、射撃位置についた。 いつでもいいぞ。》
《了解、そちらの合図で発砲する。》
スコープの照準線を感染者の頭部に合わせて、引き金を引くのと同時に向こうの建物からもマズルフラッシュが見え、軽機関銃の連続した銃声が響き渡った。
感染者達が次々と倒れていくが、運良く致命傷を負わなかった数体が壁を登り始め向こうの死角に入った為、俺は、素早く照準を移動させて引き金を引き、白く塗装されていたであろう壁面に感染者の脳漿で赤い斑点模様を描いた。
いきなり上から頭部を失った死体が降ってきたので、下のフロアにいた奴が驚きの声をあげた。
ヘリコプターのローター音が近付いて来て、ホバリングを始めた。
《本当に走っていやがる!》
《おい、今上からも降ってきたぞ!!》
《ぼさっとするな!!》
《了解!》
ドアガンナーが、ヘリに据え付けられた機銃で機銃掃射を始め、特徴的な作動音と共に、銃弾が吐き出され大量の薬莢が地面に落下した。
《撃て、撃て!!》ドアガンナーが叫び、彼が発砲している機関銃の銃身からは潤滑油の白い煙が昇っている。
《その位でやめとけ。 弾の無駄だ。》
《了解。 あ~もっと撃ちたかった。》
《乗る奴は居るか?》
《被弾して重症を負った職員がいるから、そいつを乗せてやってくれ。》
《了解。 着陸するから、待っていてくれ。》
《そこの職員2人、そいつを連れて行ってやってくれ。》
指示された職員と見られる2人組が、担架をを担いでヘリの方へと向かって行った。
担架の上で寝て居る奴は、腹部に包帯が巻かれていたものの、赤く染まり血液が垂れていて、直ぐに輸血しないと失血死しそうな状況だった。
職員が、ヘリに負傷者を運び込もうとした瞬間に、視界の隅の方で光が見え、銃声と共に職員の足元のアスファルトが弾け飛び、その直後に発砲された銃弾が職員の脚に掠めて恐怖でその場に座り込んでしまった。
もう1人の職員は、担架を引き摺ってヘリの中へと逃げ込んだ。
《おい強襲班、あの座り込んでいる馬鹿を安全な場所に連れて行け!!》
強襲班の3人が出来るだけ遮蔽物の多いルートを無駄の無い動きで駆け抜け、職員のそばへと駆け込み物陰へと引き摺り込んだ。
その間に、俺は、発砲した奴をレティクルの中央に捉えて2回引き金を引いた。
1発は、射手の胸部に命中して肺を吹き飛ばし、もう1発は、ヘルメットを貫徹した。
「他に見えるか?」
「いいや、見えん」
《こちら狙撃班、射手は排除したが、周辺の脅威は依然健在。》
《了解。 こちらの隊員を向わせるから、対象の位置を教えてくれ。》
《あなたから見て10時の方向にある建物で、3階の一番右の部屋だ。》
《了解、すぐ向かう。》
殆ど無駄が無い動きで、狙撃手が潜んでいた建物へと強襲班が移動して行った。
《目標確認、自動ドアの向こう側に3人居る。》
《ここからは、射線上に入らないから、狙撃可能な場所に移動する。》
二脚を折り畳んで別の地点へと移動した。
《こちら狙撃班、絶好の位置に着いた。》
《了解。 こちらからは、3人見える。》
《一番奥の奴を狙う。 自動ドアを開けてくれ。》
強襲班のポイントマンが、先程まで室内を偵察する為に使っていた点検鏡を伸ばし、自動ドアの赤外線感受エリアで左右に振ったことにより、自動ドアに付属しているフォトトランジスタが物体の移動によって生じる電圧の変化を制御回路が検出して、プログラムルーチンに則りドアを開けた。
ドアが開いたのと同時に一番奥の男を無力化して、数瞬後に強襲班が急に仲間の頭部が爆ぜたことに驚いて後ろを振り向いている2人組の男を無力化した。
《ナイスショット!! 引き続き掩護を頼む。》
強襲班が上って行った屋外の階段に、武装した連中がドアを開けて階段を下りるのが見えた。
《そちらに向かう集団を確認。 排除するか?》
《ああ、頼む》
《了解。 排除する。》
息を整えながら、先頭の男に照準を合わせて引き金を引いた。
発射された弾頭が男の側頭部から侵入して粉砕する前に照準を最後尾の奴の頭部から少し離れた場所に合わせ、弾丸が、先頭の男の頭部を破裂させたのを見た男達が狙撃を受けた際のセオリーである『すぐ側の遮蔽物に隠れ伏せる』という行動をとらず、予想通り部屋の中に隠れようと進行方向を反転したので、そのまま引き金を絞った。
再び、先頭の奴の脳漿が飛び散るのを見た2人がとった行動に目を疑った。
コンクリート製の手すりを乗り越え、飛び降りたからだ。
先に飛び降りた男は、自転車置場の屋根に激突してなんとか生き残っているようだが、暫く身動きはとれそうに無い。
もう1人の男が飛び降りたが、その男が飛び降りた場所は運悪くコンクリートの舗装がされていた為、頭から着地して赤い水溜りを作った。
強襲班が、先程のドアを蹴破り、サプレッサーの先端から数回発砲炎が迸るのが見えた。
《制圧完了。 次の部屋に移動する。》
《了解。》
その作業を繰り返して行き、ようやく先程の射手が潜んでいた部屋にたどり着いた。
《先程の射手の遺体を確認。 使用したと見られる銃は、ドラグノフで周辺に大量の薬莢が散らばっていた。 胸部とヘルメットそれぞれの真ん中に大穴が空いている。》
《了解。 銃は持ち帰って来てくれ。》
《分かった。 ……と言っても、殆どが民間用の散弾銃だが。》
《気にするな。 避難民用として、持てるだけ持って撤収する。》
《了解。》
銃器を回収して死体の処分をしている最中に、自衛隊の輸送ヘリが飛んで来た。
《我々は、陸上自衛隊第一師団所属第三十二普通科連隊で、発電所の防衛任務を遂行中だ。 そちらの部隊の所属を教えてくれ。》
《こちら、JTC所属の部隊で現在発電所奪還作戦を実行中。 本作戦コードはJ-2572-J279防衛任務の引き継ぎを要請する。》
《確認した。 降下するから、着陸地点を指示してくれ。》
《了解。》
狙撃銃のマウントレイル部に固定してあるAN/PEQ-15Aの不可視光レーザーのスイッチを入れて、高架線が無い着陸が可能な地点に照射した。
「ワォ、こいつは驚いた!! 防衛でここまで寄越すのか?」小声で秀夫が言って、空を見上げると、UH-1Jの3機編隊が飛んでいた。
《こちら、狙撃班。 今のヘリは、自衛隊だ。 防衛任務の引き継ぎを行ってくれるそうだから、事務所前に集合してくれ。》
《了解。 すぐに向かう。》
ヘリが、広場に着陸して、暗視装置を装着して89式小銃やM24対人狙撃銃を装備した自衛官達が駆け出してきた。
無線の交信相手をスコープで確認してから、こちらの現在位置を伝えた。
《こちらの部隊のIRストロボが確認できるか?》
《確認した。 今向かっている。》
職員棟の前で、自衛隊と合流した。
「現在の状況を教えてくれ」
「こちらの部隊の負傷者は、誰もいないが職員が重傷を負い、搬送しようとした時に発砲してきた暴力団と見られる集団は掃討して、連絡橋は既に解体済みだ」
「了解。 お疲れ様でした」
「ありがとう。 そちらの部隊も気を付けろよ」
互いに敬礼をしてからヘリに向かって歩き始めた。
《帰投する。》
操縦士が拡声器で言うと、地上の自衛官達が敬礼しているのが見えたので、ヘリに搭乗している操縦士以外の乗員が敬礼を返し基地へ向かう帰路についた。
「今日の夕食は何だ?」 強襲班の1人が他の乗員に問いかけた。
「さぁな? お前の飯だけがMREと言うのは確かだろうな」 と、 向かいに座っていた班員が答えた。
「……え!? どういう事だよ!! 聞いてねぇぞ!?」
「あ、それ自分も聞きました。 『あいつの飯だけは、MREだな』って調理長が言ってましたよ」
「何...だと!?」
(……結局今日の夕食は、何なんだよ?)と考えていると、基地の輪郭が見えてきた。