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発電所

― 基地ヘリポート ―

11/30 15:30



基地に無事帰還した後、高木に呼び出されて司令部に向かった。

「で? 用件というのは何だ?」

「問題です。 これから、僕達が一番必要とするものは何でしょうか?」


(これから 必要なもの?)

「発電所か」

「早っ⁉ まぁそれはいいとして、ご明察の通り発電所だ」


「まずこれを見てくれ。 これは、2時間前に無人航空偵察部隊によって撮影された航空写真だ」

そういいながら高木は、ブリーフィングルーム中央のデータテーブル上で指先を滑らして、フレームの縁のウィンドウから原子力発電所の航空写真を画面中央に表示させた。


「で、俺の班に何をさせる気だ?」

赤いマーカーが3次元モデルで再現された建物上で点滅していた

る。


「原子力発電所警備隊の報告によると、発電所職員は38人 原子力発電所警備隊は15人生存しているらしい。 ……で現在は、ここにしているらしい」



「岡崎達の狙撃班には、この原子力発電所とこちらの石油石炭火力発電所の奪還作戦の両方に参加して貰う。 原子力発電所の方は、現地の技術職員にシャットダウンしてもらえ。 戻って来たばかりで悪いが、当作戦は、16:30から開始する以上だ」


※原子力発電所・石炭石炭火力発電所奪取任務について

・作戦開始時刻 ― 16:30

・第一目標 ― 両発電所職員の確保

・第二目標 ― 原子力発電所のシャットダウン 又、両発電所への感染者の侵入を阻止

・参加部隊

対化学兵器部隊 ・・・10名

強襲作戦部隊 ・・・ 7名

狙撃班 ・・・ 4名

無人航空偵察部隊 ・・・ 2名

航空支援部隊 ・・・ 2名

MH-60L Direct Action Penetrator ・・・ 2機

・武器等の制限について ー 原子力発電所関連設備周辺での戦闘の為、狙撃班以外は、必ずフランジブル弾薬を使用



― 航空機格納庫 ―

16:00


今回の作戦に参加する部隊が、AH-80の前に集合して最終ブリーフィングが始まるのを待っていた。


格納庫に備え付けてある電子ボードを押しながら、高木が歩いてきた。

「 もしかして、もっと早く来るべきだった?」

「「「・・・」」」 無言の肯定


「すまなかったと思っている」

「みんな喜べ、今度、高木司令が奢ってくれるそうだ」


「え? 聞いてないんだけど!?」 高木が財布の中身を見て焦っている。

集まっていた部隊からは、「期待しています」や、「逃げるなよ」等の声が聞こえてくる。


そのまま、ヘリへと乗り込んだ。

「ちょ、お前ら待ー」

高木が何かを言っていたが、ヘリ特有のローター音で聞き取れ無いまま基地を飛び立った。


― 原子力発電所から南南西1300m ―


17:20


順調に原子力発電所に向けて飛行していたが、和哉の一言でヘリ内部に緊張が走った。

「班長……酔いました」

「絶対に機内で吐くなよ?」ヘリのパイロットが叫んだ。

などという便利なものは無く、着陸まで耐えるか若くは、嘔吐という2択しか無い。

「ドアだ、ドアを開けろ!」秀夫が叫び、

強襲作戦部隊の班員がスライド式のドアを開けると、ヘリ内部の温度が急激に下がった。


「一応、大丈夫です。 着陸までは何とか耐えれます……」 和哉が顔を青くしながら言った。


― 原子力発電所上空 ―

17:30


「目標地点まであと15秒! 降下の用意をしろ!!」ヘッドセットからパイロットの声が聞こえるのと同時に、乗員が慌ただしく動き出した。


SR-25狙撃銃のマガジンの角をヘルメットに当てて弾倉内の弾薬を揃えてから弾倉を装填して、コッキングレバーを引いた。


発電所屋上で、発煙筒が焚かれた地点に着陸した瞬間、機体に軽い衝撃が走った。

手元の狙撃銃を掴み、闇に包まれた屋上に飛び出した。


12月の日は短く、既に日は沈んでいて、辺り一面は暗闇となっていた。


第三世代暗視装置を装着して、スイッチを入れると暗闇から一転、緑色が支配する世界となった。


ドアの奥から、駆け寄ってくる足音が聞こえ、屋上にいる部隊の殆ど全員が銃を向けた。


ドアを勢い良く開けて飛び出して来たのは、白い作業着を着た原子力発電所職員だった。

「た、助けに来てくれたんですか?」


「一応そうだが、少し手伝って貰うぞ」

「何を手伝えばいいんだ?」

「この発電所を停止して欲しい」

「それならもう大丈夫です。 感染者が押し寄せて来た時点で、緊急停止させ燃料棒を抜き取りました。 それよりも、他の職員達の救助をお願いします?」


無線機の周波数帯を作戦用周波数帯域から広域通信周波数帯に切り替えて、無線機を手に取った。

《こちら狙撃班、原子力発電所の運転自体は、停止しているが、職員がまだ残されているようだがどうすればいい?》

《そのまま、職員の救助を行ってくれ。》

《了解。》


「今職員は、何処にいる」

「制御棟の4階の中央制御室に閉じ籠っています。 原子力発電所警備隊も、同じ場所にいます」

「そこに案内してやってくれ。 あと、敷地を見渡せる場所はあるか」

「それなら、タービン棟の屋上がいいと思います」


強襲部隊が職員と共に、倉庫棟の階段を駆け下り職員棟へと向かって行った。


― 原子力発電所敷地 ―

17:32


倉庫棟屋上から、下に降りて行くにつれ、死臭が室内に漂ってきた。

「これは…… 酷いな……」

そこにあったのは、身体の殆どを感染者に喰われた職員の死体だった。


MP7A1を構えて警戒しつつ死体に近づき、IDカードを拝借した。

倉庫棟から屋外に出ると、感染者達がこちらに近付いて来たのが見えたので安全装着をセミオートに切り替え、Totech製のホロサイトを覗き込んだ。

ゆっくりと近付いてくる感染者の頭部に照準を合わせて引き金を引いた。

サプレッサーで発砲音を極限まで低下させられた亜音速弾が、感染者の頭部を貫いた。

それを合図に、秀夫がGSRを発砲して道を切り拓き始めた。

弾倉内の弾薬を撃ちきる頃には、タービン棟のエントランスホールに辿り着いた。


因みに、鈴羽と和哉は、着陸地点から強襲部隊の援護をしている。


タービン棟の階段を駆け上がり屋上の施設全体が見える地点に着き、SR-25の二脚を屋上の縁に立てて構えた。


スコープの前に取り付けた最新の熱感知式映像化装置(UNS® TLR)を通じて見る視界は建物の輪郭が辛うじて分かる程度だが、感染者・生存者は、自らが発する熱で白く輪郭が映し出されていた。

味方部隊の識別は、IRストロボを用いている為、3秒毎に点滅しているので、誤射することは殆ど無い。


《こちら、狙撃班 配置に着いた。》

《了解、突入する。》

強襲班が、職員棟に突入した。


《こちら、原子力発電所警備隊だ。所属不明部隊に告ぐただちに所属を名乗れ。 応じない場合は、敵対行動と捉え攻撃する。》

暗号化され秘匿されている作戦用周波数帯域では無く、オープンチャンネル帯からの入電だった。


《こちら、JMIC所属の部隊で政府から指揮権限の移行を受けここの原子力発電所の運転停止と、職員の回収任務中だ。》強襲班の班長が無線に応答した。


《何!? あの特殊作戦群に勝利したって言うあのPMCか?》

(ここにも伝わっているのかよ……)

《とりあえず、窓からこちらを狙っている狙撃手に止めるように伝えてくれ。 ……こちらの狙撃班がいつでも撃てる状態で待機している。》

《念のため確認する。 部隊コードは?》

《本作戦での部隊認証コードは、TF-205》

《確認した。 いいぞ、入ってくれ。》

《了解。 職員は無事か?》

《2名犠牲が出たが、他の職員は無事だ。》


それから、5分程経過してから、強襲班が出てきた。

《狙撃班、生存者の援護を頼む。》

ようやく仕事が来た。

《了解した。 このまま回収地点へ向かってくれ。》

狙撃銃のトリガーのあそびを確認してから、再びスコープを覗き込んで、味方部隊の進路上にいる感染者を探し始めた。


感染者の頭部に照準をつけて発砲した。

発射されたFMJ弾が感染者の頭部を貫き弾け飛ばした。

《ナイスショット‼》 警備隊の隊長が言った。

《そっちの狙撃手は、何処にいるんだ?》

《今撃った先輩は、倉庫棟の屋上ですね。》

《倉庫棟か…… 遠いな。》

距離的には、350Mぐらい離れている。


回収地点から約240Mの進路上にいる感染者を次々と射殺していった。


《こちら強襲班、回収地点に到着した。 今度はこちらが援護する。》

《了解した。 狙撃班は、これより移動を開始する。》

腰の装備ベルトに取り付けていたカラビナから、降下用ロープアンカーを外して近くの縁に打ち込み降下用のロープを通し、カラビナにハーネスとロープを取り付け「降下用意!!」と叫んだ。

「降下用意!!」秀夫が復唱した。


狙撃銃を肩に掛けてから、屋上の縁を乗り越え、壁を蹴り上げて降下を始めた。


ストックを展開したMP7A1を壁を蹴りながら構え、ホロサイトのレティクルを感染者に合わせて引き金を引く度に、サプレッサーからマズルフラッシュが出て地上にいる感染者を貫いた。


「やっぱこれは、苦手だ……」 高所恐怖症の秀夫が言った。

「おい、後ろを見てみろ」

「どうしたんだよ?」

「死にたく無いなら、全力で走れ!!」

「はぁ? 何を言って……マジかよ!?」途中で後ろを振り向いた秀夫が叫んだ。

後ろに時折、数発の弾丸をばら撒きながら全力で回収地点へと向かって行った。


「焼夷手榴弾を使う!!」

それだけ言って俺は、チェストリグからAN-M14/TH3手榴弾を外し安全ピンを投げ捨て、それを足元に落とした。


約3秒後に高圧ガスが抜けるような音と共に、後方で光が放たれた。

AN-M14/TH3焼夷手榴弾は、サーメートと呼ばれるテルミット反応を利用した燃焼剤が燃焼することにより1800℃以上の熱を発生させて鉄道のレールさえも溶かしてしまう手榴弾だが、感染者の足止めには最適な手榴弾だ。


目的通り感染者の足元で燃焼したので、追い風によって肉の焦げる臭いが漂ってきた。


「足を止めるな!!」 後ろを振り向いていた秀夫に言った。

「それぐらい分かってる!!」


そして再び走り始めた。


《回収地点まであと150M? IRストロボを確認出来るか!?》

《あ~確認した! 援護射撃をする!!》


ヘリの周辺でマズルフラッシュが焚かれる度に、後方の感染者が薙ぎ倒されていった。


「あと少しで喰われるところだったな」

「ああ、本当にぎりぎりだった。 援護に感謝する」


「職員は、こちらのヘリで基地に向かって貰う。 また、俺達はこれより火力発電所に向かう」


職員達の搭乗したヘリを見送った後、MH-60L Direct Action Penetratorに乗り込み火力発電所へと飛び立った。


― 火力発電所上空 ―

18:24


火力発電所の周辺を旋回しながら、サーマルイメージビューを見て感染者がいるかを確認したが、熱源自体が無かったので、そのまま着陸した。

周波数帯域をオープンチャンネル帯に切り替えて通話スイッチを押した。

《生存者がいたら、無線に応答するか、発煙筒等でこちらに位置を知らせてください。》


《(激しいノイズ)だ、誰ですか?》

《こちら、特殊作戦部隊です。》

《救助ですか? 今すぐ職員棟に来てください! 撃たれた人が居ます!!》

《分かりました。 出来るだけ早く向かいます。》


強襲班が職員棟へ向かい、俺と秀夫は、感染者の侵入を防ぐために発電所と本土を繋ぐ連絡橋を爆発しに向かった。


「どうやってこの連絡橋を破壊するんだ?」

秀夫の言う通り、この連絡橋は、鉄筋コンクリート製のつり橋の為、そう簡単に爆破できるものでは無い。

何故なら、個人が携帯することの出来る量は限られているからである。


……とはいえ、どんな構造物にも必ず弱点がある。

その弱点がある場所まで登ることとなった。


今、俺は、吊り橋の主塔と呼ばれる部分に登っているので、足下を見ると、かなり心臓に悪い光景が見ることが出来る。


吊り橋は、主塔とアンカーレイジ呼ばれる部分でメインケーブルを保持してそこから伸びているハンガーロープが橋を支える構造となっているが、主塔と主塔の間を中心とした際に、橋架自体が持つモーメントを釣り合わせることにより橋が自然に倒壊することを防いでいる為、片側だけメインケーブルを切断すれば、ほぼ確実に倒壊する。


今現在、背負っているバックパックの中身は殆ど工兵部隊で使用される爆発解体用成形炸薬爆薬で埋め尽くされている。


梯子を登り出して数分後、目的の地点に到達した。

アンカーロープが主塔に固定されているが、そこの強度はかなり高いのでそれ等を繋ぎ合わせている20本のボルトを利用することにした。


今回使用する爆薬は、C3爆薬の内側にタンタル(金属)で出来たV字型の鋼材が入っている爆薬で、起爆するとVの開いている方に充填された爆薬によって、モンロー/ノイマン効果が起り、数mm秒後に先端側の爆縮レンズ(結局爆薬)が作動して、一点に集中した爆風の圧力でタンタルが、射出され固体のまま液体のように流動して対象を切断する。


ボルトが両側から等間隔で取り付けられているので、両端から中央に向かうように爆薬を針金で固定して、C3にスラッパー式電気雷管を差し込み、起爆用ケーブルに接続して起爆用ケーブルのリールを肩に掛けて下へ降りた。


ヘッドセットから秀夫の声が聞こえて来た。

《こっちの用意は、終わったぞ。》

《了解。 上も終わった。 今、降りているところだ。》

《了解。 本土側を落とすんだよな?》

《本土側? ……ああそうだ。》

《そこから、黄色のロードローラが見えるか?》

《見えた。》

確かに発電所前に黄色のロードローラが見えた。

《そこで待ってるぞ。》

《起爆用ケーブルは?》

《お前が降りている梯子に引っ掛けておいた。》

《了解。 向こうで会おう。》


梯子を降り終えてもう一つの起爆用ケーブルのリールを手に取り、両手にケーブルリールを抱えて発電所の方へと歩み出した。


リール1つで長さ250mのケーブルが巻き取っているが、今回の吊り橋だと十分すぎる長さだ。


リールの穴に飛び出しているプラスチック製のタグを引き抜き、一緒に出て来たケーブルの先端を起爆トリガーの電極の穴に差し込み、ねじを回して固定した。


《起爆用意完了。》

《了解した。 ……本当に崩れるのか?》

《さぁな》


起爆トリガーのスイッチのカバーを開けてスイッチを入れた後に、鍵穴に鍵を差し込み回して最終安全装置を解除してトリガーを引いた。


トリガーを引いた瞬間、電極に電流が流れケーブルを伝い電気雷管へと到達して、内部の金属箔が電流に耐え切れず発熱してプラズマ化し、その衝撃波がもう一つの金属箔を動かして雷汞が炸裂して、それが引き金となりC3が爆発して、V字型の鋼材が射出されて固定部を切断した。


数秒後、轟音と共に、メインケーブルが千切れ落ち、橋架の方も秀夫が設置した爆薬によって路面に大穴が空いた。


《失敗したのか?》

《もう少し待て。 あと10秒だ。》 時計を見ながら言った。

《あと10秒? 何だそりゃ?》

《いいから見てろ。》


(そろそろか)

腕時計の秒針が45秒を指そうとした時にそれは起こった。


主塔が軋む音と共に本土側へと崩れて完全に崩落した。


司令部に周波数帯域を合わせた。

《こちら、狙撃班。 本土との連絡橋の破壊を完了。》

《よくやった。 他の班と合流しろ。》

《了解。》

作戦周波数帯域に戻した。


《凄いな‼ 本当にきっかり10秒で崩落した‼》

《そうだな。 他の部隊に合流するぞ。》

《了解‼》

感想等お待ちしております。

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