エンゲージ
― 基地敷地内 ―
11/30 03:00
基地の建物外周部デッキを歩きながら俺は呟いた。
「眠い」
「奇遇だな俺もだよw」と隣を歩いていた秀夫が返してきた。
「何だってこんな時間に呼び出されないといけないんだよw」
秀夫のいう通りまだ外は暗闇に包まれている。
「こんな時間に呼び出されるんだからよほどの緊急事態だろう」
「今以上に重大な問題って何があるって?」
「例えば中国が攻めてくるとか……」
「……おい馬鹿やめろ、それはフラグだ」
灰色のインクを零したような空を見上げながら「もう冬か…… また一年が終わるのか」と呟きながら建物の中に入っていった。
― 基地内ブリーフィングルーム ―
03:02
部屋に入ると普段はただの会議室だった場所が、各種通信装置や地図・兵站の情報などが、ブリーフィングルーム内を埋め尽くしていた。
書類の雪崩に巻き込まれて埋もれている男(司令官)を引きずり出しながら「で、こんな早くに呼び出した理由は何だ?」と聞いた。
ちなみにこの男の名前は、『高木 信夫』で年齢27歳と司令官にしてはかなり若いが、企業の創設当時から主人公達といた最古参である。
「眠いんですけど~」秀夫が不満を述べた。
「入室していきなりその態度かよ……話を聞けw」
「だが断る。」……ここまで来るとやはり……
「……」←空気になっている主人公
「で、呼び出した理由だが自衛官に誰か知り合いはいるか?」
「要するに、自衛隊駐屯地と連絡がつかないのか? 特殊作戦群の部隊長なら知ってるが……」
「連絡先ここに書いておいて」 やっぱり知らなかったのかよ……
テーブルの上に置いてある資料に目を通しながら「まさか、人民解放軍が動き出したか?」と呟くと、
「理解が早くて助かる。 中央モニターを見てくれ」
このブリーフィングルームには、モニターが3つあり中央のモニターには、多数の揚陸艦が赤外線で映し出されていた。
「おいおい、これじゃまるで本当に日本と戦争をするみたいじゃないか……」
「まるで戦争ではない。 これは戦争だ」
「戦争か…… お、自衛隊と繋がった」 今まで自分だけで通信装置を弄っていたものの操作方法がよく分からなかったらしく机の上にマニュアルが散らばっている。
《此方、陸上自衛隊 中央即応集団 特殊作戦群です。 只今、国家非常事態宣言発令中の為そちらの通信コードの提示をお願いします。》
《通信コード Hotel2 Delta42》
《っ! 了解しました。 回線を開きます。》
― 中央自動車道 ―
12/01 11:00
Side アメリカ合衆国 ストライカー旅団戦闘団 ジョセフ・ハドソン二等軍曹
ハンヴィーに積み込まれている本国のテレビのニュース映像で大統領が『我々アメリカ合衆国は、日本国に対する中国政府の派兵を受けてこれを侵略目的における戦争と捉え日米安全保障条約による軍事的支援を開始する。』と演説している姿が放送されていた。
「なぁ、あとどれぐらいで戦場に到着するんだ? もう19時間以上もこの乗り心地が劣悪なRWS(遠隔武器操作)操作席に座ってないといけないんだ?」 俺は多分、本日5回目の質問をした。
隣の席でC4Iシステムのモニターを見ていたクリス伍長が「あと2時間もすれば有無を言わさずに戦場ですよ」と言った。
全面通行止めとなっている高速道路の右車線から出てきた自衛隊の10式戦車が並走しながら《こちら日本国 陸上自衛隊東部方面隊 第一師団です。 貴官等の支援に感謝します。》と通信に割り込んできた。
《現在の状況は?》
《完全な劣勢です。 各地の自衛隊駐屯地との連絡が取れず人民解放軍が動き出したということも伝わっていない可能性があります。》
「各地との連絡がつかないってどういうことだよ……」
「感染者が襲撃したんじゃないか?」
「解説どうも」
《作戦情報の提供を要請する。》
《了解しました。 敵部隊は、現在八王子市周辺に部隊を展開しており、自衛隊は避難民を収容していたのですが避難民の中から感染者が出て更に追い打ちをかけるように人民解放軍の襲撃で部隊としての機能を完全に失い撤退しました。 12:00より反攻作戦を開始します。》
《了解した。 C4Iシステムへのアクセス権を要請する。》
「お、仕事が早い。 もう作戦データが来た」
― 八王子市近郊 ―
11:58
《反攻作戦開始まであと2分です。》
《了解した。》
《各自の装備を整えるように各車両に伝えろ。》
《作戦開始まで30カウント》
《29》
《28》
《27》
《26》
《25》
~~~
~~~
《5》
《4》
《3》
《2》
《1》
《反攻作戦を開始する。》
作戦開始の合図と同時にストライカーMGS自走砲から発射された白燐焼夷弾により市街地に展開していた人民解放軍の部隊が白い煙に包まれ、その直後に陸上自衛隊の特科部隊によるFH70-155mm榴弾砲から榴弾が発射されて人民解放軍の主力部隊に多大な損害を与えた。
― 八王子郊外 ―
同時刻
Side 人民解放軍特殊工作部隊
上層部からの指示では無ければわざわざ日本に来てまで破壊工作をすることは無かったのに命令が来てしまったからには仕方が無い。
「自衛隊が弱すぎる」
「そうだよな。 あいつらは腰抜け共か?」
「だよな。 あの弱さは本当にないぜ あははは」
今回我々に下された命令は、上海から飛び立って日本に墜落した航空機の破壊?で、何故単なる破壊工作でわざわざ2団(2連隊に相当)も投入したのかが理解できない。
《工兵部隊もう航空機に爆薬の設置は終わったか?》
《もう少しで完了します。》
《まだ終わって無いのか!? 早く終わらせるんだ!!》
「何の音だ?」
ヒューゥゥゥと風を切り裂く音が聴こえて来たと思っていると炸裂音と共に視界がスモークによってあっという間に奪われた。
「敵の砲撃だ! 建物とかに身を隠せ!」
遠くの至る所から砲弾の着弾と炸裂音が聞こえてくる。
至近距離に榴弾が着弾したらしくその兵士の右半身の殆どが破片によって持って行かれた。
辺り一面に血の海を作りながら周りを見渡すと工兵が駆け寄ってきて何かを言っている。一緒に聴覚も奪われたらしい。
「しっかりしろ! 死ぬんじゃない同志!!」と右半身の殆どをやられた兵士を引きずったが既に死んでいた。
「クソッ 今回の作戦は完璧じゃなかったのか!? どんどん同志が倒れていく……」
《今すぐ『あれ』を起爆させろ! 起爆させて帰還したら英雄だ。》司令部からそのような内容の無線が聞こえて来た。
(俺は……家族の為に英雄になる!) そう思いながら男は、起爆装置に手を伸ばした。
Side Out
― 八王子市近郊 ―
Side アメリカ合衆国 ストライカー旅団戦闘団 ジョセフ・ハドソン二等軍曹
12:05
砲撃が始まってから5分後、歩兵部隊と自衛隊の部隊と俺が搭乗しているストライカー装甲車は、白煙の中に突入した。
赤外線カメラによって得られたサーマルイメージと現在位置の座標をC4Iシステムによって他の部隊の情報と統合することによってフレンドリーファイアー(友軍誤射)を防止して更に、敵の位置も画面上で共有している。
建物の屋上や、敵の装甲車両を警戒しながら前進していると、前方120mに敵の集団がサーマルイメージで白く映し出された。
「前方110mに敵歩兵部隊!!」そう言い終るのと同時に俺は、RWS上でMk.19オートマチックグレネードランチャーのトリガーを引いた。
ポンッと気が抜ける音が3回鳴り終るのとほぼ同時に、発射された直径40mmのM430多目的榴弾が敵歩兵部隊の足元で炸裂した。
この弾薬は、殺傷範囲が15mと範囲が小さいが、装甲車の装甲も貫くことができる優れた弾薬である。
多目的榴弾が足元で炸裂したことにより、着弾地点は死体だけになっていた。
《こちらの担当区画の制圧が完了しました。》
《了解した。 こちらの区画は25%残っている。 オーバー》
他の部隊でも順調に掃討が進んだらしい。
……それは、一瞬の出来事だった。
墜落現場のそばから何も見えなくなるような強烈な閃光が出て辺り一面を衝撃波が包み込んだのは……