黒澤の電話
「何の逮捕でしょうか?」
公安は、それには答えず、「あなたがおかみですか?」と聞いた。
「そうじゃけ」
「舞妓の枕は、法律違反だとあなたも知っていることでしょう。今回は、それだけで終わらなかった」
まかないは、とうに帰っていた。
舞妓たちも、先ほどぐずぐずと着物を着換えていた子を追いやったばかりである。
「失礼ですが、東京のどこのご出身でしょうか?」
公安の中の一人に女がいた。
女は、先ほどからメモるのに忙しい。
「浅草」
静香は、とっさにそう答えた。
「京都にはどうして?」
静香は逡巡しながらうつむいた。
執拗な父親から逃れるために、六本木のお立ち台に立ち、どうにもらちが明かないと思っている矢先に、公安ではなく警察がガサ入れに来た。
店は、キャバレーだった。
「十代は、働いては行けないんだよ」
諭すようにそう言った刑事は、のちに、父親の回し者だとわかった。
静香は、適当な電車に乗って降りた。
横浜ベイブリッジ・・・。
「まるで、神社の鳥居じゃな」
どこかのテレビ局が、撮影していた。
風が吹いた。静香の顔に張り付いたチラシには、「そうだ!京都に行こう!」と書かれ、下の方に小さく舞妓募集とあった。
蛍が機転を利かせて、金を包んだ。
静香は焦って、「それは、舞妓たちの・・・」と言ったが、公安とは名ばかりのものが、「そういうことなら」と、ふところに手を入れた。
「しばらくは、店を休むように」と、公安は言い、去って行った。
「それで、静香はどうしたじゃけ?」
次の日の朝、ビュッフェの朝食を特別な場所から食べていた。
皆伐と楠木は、おかわりを取りに席を立っていた。
蛍が、「ちょっと待って。うちもおかわりじゃけ」と、立ち上がった。
谷田が、「花、コーヒー飲む?」と聞いた。
花がうなづくと、谷田が席を立った。
「快晴じゃけ」と、花は言った。
黒澤は、忙しそうにさっきからタブレットをスクロールしていたが、携帯が鳴ったので、席を立った。
皆伐と楠木が戻って来て、席に着く。
「焼肉は、その場で」と、楠木が言い、「はい、花」と、焼肉を花の皿にのせた。
皆伐が、時計を見ながら、すしをほおばった。
花が見ると、蛍が、ちょうど焼肉を皿にのせてもらっているのが見えた。
山盛りの焼肉を皿に、蛍が戻って来た。
「とにかく食うじゃけ。ジュースなんて飲んでる場合じゃないじゃけ」
蛍の言葉に、花は焼肉を口に入れた。
甘くておいしかった。
「花、お待ち」と、谷田がコーヒーを持ってきた。
「んん?」と、蛍が肉をほおばりながら言った。
「うちも飲むじゃけ」
花がコーヒーを飲み終わっても、黒澤が戻ってこない。
支配人が、皆伐の後ろから耳打ちした。
皆伐が、「え?マジ?」と、驚き伝票を支配人の手に渡した。
黒澤が、出口で烏ペンでサインをしているのが見えた。
部屋で荷物を片付けていると、楠木が、「四国経由で帰る」と言ったので、皆伐が青ざめた。
「帰るんじゃけ?」と、花は聞いた。
確か、予定では生田神社に寄る予定だった。
遊びではない、神戸マフィアのドンとの面会を頼むとした商談だった。
「四国には、とんでもない神々たちがいたずらを仕掛けるそうな」
蛍が、本気とも冗談とも取れる顔で言った。
「局の奴らがやらかしたと」
谷田が、楽しそうに言った。
「拾って行くと?」
花が聞くと、皆伐が、「ちょっと待ってくれよ!そいつら北海道じゃけ?」と言った。
「なあに、同胞のよしみってね」
楠木は、「ねぇ」と、小首を花にかしげて見せた。
蛍が、「腹いっぱいじゃけ」と、言いながら、先にドアを開けた。
「おはようございます」
ドアの前で、若い男が笑顔で言った。
「車を用意しました」と、続けて男が陽気に言う。
「よっ!ご苦労」と、楠木は、花の手を引いた。
階段を降りながら、花が振り返ると、黒澤はまだ携帯の画面を見ながら歩いていた。




