【短編】悪役令嬢は、トンズラしそこねた(『悪役令嬢は、トンズラすることにした』の後日談です)
『悪役令嬢は、トンズラすることにした』の後日談です。
前回の内容は本編最初にざっくり書いてあるので、前の話を読まなくてもお楽しみいただけますが、両方読んだ方がより面白いかもしれません。
よろしくお願いいたします。
悪役令嬢に転生したことに気が付き、もうわりと詰んでたので領地へトンズラした。
だが、殿下直々に領地へとやってきて王都へと連れ戻され、それからというもの殿下がどこへでもついてくる。
最初は、特に問題ないと思っていた。
けれど、私は気づいてしまったのだ。
再びトンズラしないように見張られてるんじゃないかって。
つまり、悪役令嬢として断罪待ち案件の可能性があるということに。
……ヒロインちゃんに謝罪に行って、心を入れ替えたアピールがいるわね。
「手土産がいるわ。最高の魚拓を用意しなくっちゃ!」
そうと決まれば、王城の釣り堀へ……。
うーん、でもそろそろ釣り堀飽きたんだよね。
釣り堀が悪いとは言わない。でも、大自然での釣りからしか得られない何かがあるのよ。
殿下には、今日も釣り堀行くって言ってたけど、まぁいっか! お父様に伝えといてもらおうっと!
そうと決まれば……。
「今日の予定を変更するわ。郊外の湖へ行くから、三十分で支度して!」
侍女にそう言い放てば、大慌てでばたばたと部屋を出ていった。
我ながら、今日もなかなかの悪役令嬢っぷりである。
「さてと、三十分の間にどんな魚拓がいいか考えなくっちゃ!」
定番の黒色で取った魚拓は素晴らしい。が、女性への贈り物だ。カラーの魚拓に挑戦するのもありだろう。
魚拓の色は釣った魚と相談するにしても、最後に目を描き入れた時に生まれる躍動感は、是非ヒロインちゃんに味わってもらいたい。
きっとあの感動を知れば、今まで散々悪口を言ったり、わざとぶつかったり、ヒロインちゃんのお弁当を勝手に食べたあげく、嫌いなピーマンを押し付けたりしたのを許してくれるはず。
いや、マジでお弁当奪ってピーマン押し付けたのは有罪よね。断罪されたって、文句言えないわー。
ヒロインちゃんにぶつかろうとして、失敗して本当に良かった。階段から落っこちて頭を打ったおかげで前世を思い出したんだもの。
ピーマン罪で処刑されるとこだったわよ。
私だったら、絶対にしてるし。
「お嬢様、準備が整いました」
「今行くわ!」
うっきうきで馬車へと向かえば、何故かそこに殿下がいた。
「…………何故、殿下がここに?」
「むしろ、どうして俺が一緒に行かないとでも思ったのかな?」
どうしてって、そりゃあ……。
「誘ってないからですね」
予定変更もさすがに三十分じゃ伝わらないと思ってたし。
なんて考えていれば、殿下の纏う空気がズンッと重くなる。
これは、もしかしなくてもやらかした系ではなかろうか……。
「へぇ……。俺、言ったよね? 逃げた罰として二度と俺の目の届かないところには行かせないって」
え? そんなこと言ってたっけ?
断罪なしなんだ、ラッキー!! って思ってたけど、やっぱり見張られてるってこと?
執行猶予中ってことかぁ……。罪を犯せば即アウト的な?
は、早くヒロインちゃんに謝罪して、和解アピールしないと!
「あ、はははは……。じゃあ、殿下も一緒に行きましょうか。いざ、湖へレッツゴー!」
はい、着きました! 湖です!!
いやー、外の空気は美味しいですね。
馬車内の空気は最悪だったからね。
不機嫌まき散らかすとか、勘弁してほしい。次から別々の馬車でって言ったら悪化したもんなぁ。あぁ、怖い。
「よし、釣るぞー!」
不機嫌殿下は面倒だし、放っておいて侍女が用意してくれた椅子に腰掛ける。
もちろん、ただの椅子ではない。釣り竿を引っかけておける箇所がついている特注品だ。
基本的に釣り竿は自分の手で持っているけれど、水分補給の時とか両手を自由にしたい時はあるからね。
「主出てこないかなぁー」
ルンルンで釣りを始めたのだが、何もないまま数時間が経過した。
何故、何故なんだ……。
まったくあたりが来ない。
私のそばで殿下が大量に釣り上げているというのに……。
「うぐぐぐぐぐ……。く、悔しいぃぃぃぃ」
私の方が先に釣りを始めたし、絶対に釣りを愛しているはずなのに!
まさか、殿下から魚を魅了するフェロモンでも出てるんじゃ!?
「殿下とは、もう釣りしませんっ!!」
「……どうして?」
「だって、この差ですよ!? せっかく湖まで来たのに、一匹も釣れないなんて!!」
半泣きで叫べば、殿下が釣り上げた魚の入ったバケツが私の前に運ばれてくる。
「あげる」
「…………え?」
「釣った魚はレーリエに全部あげるよ。これで魚拓がたくさん取れるね」
にこりと微笑まれるけれど、そうじゃない。
「……いりません。私は、自分の釣った魚で魚拓を取りたいんです! この魚たちは、どうぞ殿下が魚拓ってください!!」
ギンッと殿下を睨みつける。
まさか、殿下がこんなにも魚拓ロマンをわかっていないなんて思わなかった。
「私、あっちに移動します」
そう宣言して場所を変えたというのに、殿下がついてくる。
「……何でついてくるんですか」
「俺は釣りをやめるから、ついて行っても問題ないよね?」
「いや、殿下が暇になるじゃないですか」
半目になって言えば、殿下はまたしてもにこりと笑う。
けれど、その目には先ほどまでの光がない。
「どうして? レーリエを見つめていられるのだから、これ以上有意義な時間はないよ」
「……どう考えても時間の無駄ですって。見られてると釣りにくいんで、向こう行っててくれますか?」
「うーん。それは無理かな」
からりと明るい声で言われるけれど、目のハイライトは変わらずお留守だ。
これは、もしかしなくても怒ってる?
えっと、怒る要素あったっけ?
……はっ! まさか、誘わなかったこと、まだ怒ってる……とか?
何て、心の狭い……と思うけれど、そう考えればつじつまが合う。
つまりだ、釣りに誘わなかったことへの殿下なりの抵抗という奴だ。
いくら抗議したいからって、肝心の釣りを絶つ方向にシフトするなんて、狂気の沙汰としか思えないけど。
仕方ない。ここは私が大人になって折れてあげよう。
「殿下、次からは予定変更した時もきちんと誘ってあげますから、機嫌なおしてください。私が大物を釣ったら、カラー魚拓に一緒に挑戦しましょう? ちょうどヒロインちゃんのために挑戦するのもありかなって思ってたので」
うん、これですべて解決ね。
カラー魚拓と言われて、機嫌を直さない人がいるとは思えない…………って、殿下は人外なの!?
目のハイライト、戻ってないんだけど!
「……ヒロインちゃんって、アイリス嬢のことだよね?」
「そうですよ。あんなにも分かりやすいTHEヒロイン顔、彼女以外いないじゃないですか」
そう答えれば、殿下の機嫌は更に悪くなる。
「あ、もうヒロインちゃん……じゃなくてアイリス嬢に危害を加えたり、ピーマンを押し付けたりしないので安心してください。今までのことを謝罪するだけですから」
「……そんなもの必要ない。アイリス嬢に近づかなくていいから」
え、まさかのヒロインちゃんに近づくなパターン?
うーん、警戒されるのは予想外だったなぁ。
直接謝罪が一番だと思ってたけど、逆効果になるならしょうがない。
「では、カラー魚拓をアイリス嬢の自宅まで家の者に届けさせることにします」
魚拓と一緒に『今までごめんね』って手紙を出せば、許してくれるでしょう。
万が一それで駄目なら、公爵家の力で圧力をかけて謝罪を受け入れさせればいいだけだしね。
「じゃ、釣りに集中したいんで、殿下はあっちで待っててくださいね」
そう言いながら、釣りを再開する。
けれど、この日の成果はなんと0。
ヒロインちゃんに謝罪をさせないように……という、ゲームの強制力ってやつではなかろうか。
ということは、私が断罪を受けるのは回避できないってこと?
いや、そうと決めつけるのはまだ早い。
だって、トンズラしそこねたのは、まだたったの1回だ。
前回は勢いに任せたトンズラだったけど、次は計画的トンズラにすればいい。
領地が駄目なら、留学しようかなぁ。
海釣りをしたいから、海に面している国にしよう。
よーし、そうと決まればさっそく家に帰ってお父様に伝えなきゃ!
こうして私は、新たなるトンズラに一歩足を踏み出したのであった。
──おしまい──
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回もヒロインちゃん、出てきませんでしたね。
おかしいなぁ、出てくるはずだったのに……となってます。
立派な額に入った魚拓が届いて、ヒロインも混乱していることでしょう。
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❁お知らせ❁
3/13(金)にビーズログ文庫様より、
『好きです。騎士団長様の婚約者にしてください!! (あれ? 一方通行だと思っていたのに、最近視線が熱い気がします)』
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強面騎士団長と暴走令嬢の制御不能な恋を描いてます。
イラストレーターはぽぽるちゃ先生です!!
元の話は小説家になろうに投稿している
『好きです。騎士団長様の愛人にしてください!!〜公認ストーカー令嬢は、強面騎士団長様に執着される〜』 になります。
全改稿しているため、書籍では更にパワーアップしておりますが、Web版でも雰囲気はお楽しみいただけるかと思います。 好きです。
騎士団長様もよろしければ是非!!




